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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
東の大国 【神の国ギオジン】編
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Ep.77 雷ベンジ

「俺達も早く向かうぞッ! タナトスッ、扉のあるところまで走れ」


 遠方に望む巨大な二枚扉を見るや、レヴァナントは駆け出していた。彼の声に慌てるタナトスはもつれる足を必死に動かす。


「待ってレバさん、早すぎるよぉ」


 振り返らる事もなく足を止めないレヴァナントに、タナトスは息を切らしてせがんだ。


「万が一扉の近くにアイテル達がいたら、巻き込まれるんだぞ?! ……ミナーヴァッ、七死霊門(セブンホーンテッド)が開いた、早くその場を離れろッ――」


 レヴァナントは交戦を続けるミナーヴァに叫ぶ。彼の声が届いたのか雷撃は残光を残して引いて行くのであった。


「レバさんってば、そんなに慌てなくても平気だよ」


 息を切らすタナトスは何かを伝えようと声を枯らす。短く切れる言葉にレヴァナントの焦りは煽られた。


「馬鹿言ってんな?! 裂傷門って事はあの一帯は八つ裂きに――」


「だから、大丈夫だってぇ――」


 足を止めないまま二人は声を荒げた。そんな二人にようやく追いついたミナーヴァは、乱れる呼吸を整わないままに口を開く。


「ハァハァ……ごめんなさい、私一人では足止めにもならない。戦況はどうなっているの」


「いいや、万策良好だよ。タナトス(こいつ)の呪術は無事に発動した、あとは周りが怨霊に巻き込まれない事だけだ」


 屍の巨人は突然姿を消した標的を探し暴れ続ける。二人と共に駆けるミナーヴァは最後の時間稼ぎもばかりに、再び雷撃を放った。


「あのデカブツも、本体さえ倒せば消えるはずだ」


「ええッ。きっと向こうはキルビートが上手く逃げるのを手伝っているはずよ」


 息をあげるタナトスの手を引きながら、二人は巨大な二枚扉へと足を進める。苦しそうな息づかいのタナトスは、何か言いたげに小さな声をあげていた。


「ま、まって……大丈夫だよ、あ、あの扉から出るのは……」


 彼女(タナトス)の声は途切れて二人には届かない。足を止めない三人の後を追いかけるように、巨大な屍はその手を止めて走り出したのであった。


「ウソだろ?!」


 振り返るレヴァナントはその様子に目を見張るのであったが、すぐに狙いが自分達でないことに気がついた。巨人もまた三人と同様、脇目もふらずに扉を目指していた。


「野郎も扉のヤバさに気がついたみたいだなッ」


「待ってッ! 向こうから何かが来る?!」


 違和感に先に気がついたのはミナーヴァだった。遥か先に立ちはだかる七死霊門の扉から、音もなく伸びる何か。それが異形の腕であると気がついたのは、握り締められ苦しむ屍巨人を見た時であった。数十メートルを優に越える巨人を意図も容易く締め上げた赤黒い手は、金切り音を後に響かせている。


「なんだよ、これ?! 前に見たときより、断然でかくなってやがる……」


 後方に視線をきるレヴァナントは足を止めずに呟いた。


「だから、大丈夫っていったじゃんか……今はちゃんと、私がコントロール……出来る……ん、だよ」


 苦しそうに顔を歪めるタナトスの声はようやく届いた。息を切らす彼女の言葉に、レヴァナントは詰めるように尋ねる。


「本当にお前が操ってるのか?!」


「そ、そうだって言ってるじゃんかぁ。ちょっと、止まろうよ……」


 彼女の言葉にレヴァナントはようやく足を止める。激しく息を切らすタナトスは一息つくようにしゃがみこむと、大きく深呼吸をして見せる。


「ハァ、ハァ……ハァー……ふぅ、急に走り出さないでよ。ああ、苦しかったぁ……今七死霊門(セブンホーンテッド)から出てるのは私が願った怨霊だよ」


「いや、だってお前の呪術は印の死因で現れて、無差別に命を奪うんじゃ?!」


 慌てるレヴァナントを片手で制するタナトスはまた大きく深呼吸をして口を開く。


「前まではね! 今は違うよ、私が選んだの。ちゃんと私の願いを叶えてくれるようにね」


「願いを……叶える……?」


 言い合う二人を他所にミナーヴァは巨大な掌に締め上げられる巨大の動向を見て叫んだ。


「二人とも見て、ブードゥーの屍が苦しんでいるわ!」


 彼女の声で振り返ると、既に事切れそうな屍巨人は最後の足掻きとばかりに身を揺らしていたのであった。大木が折れるような鈍い音を上げながら、七死霊門から伸びた掌は巨人を握りつぶす。体液のような液体が辺りへ飛散すると同時に、その身体は細切れに崩れ落ちて行くのであった。


「すげぇ、あの馬鹿みたいな巨人を一撃で……」


「でしょ? まずはミーネちゃんを助ける為にあの大きな方をって思って。次は術者のほうだね!」


 ようやく息の整ったタナトスは立ち上がると扉の方を目をやる。屍巨人を葬った掌はすぐに扉の中へと戻ると、重そうな扉は音もなく閉まる。通常ならばこれで消えるはずの呪術はその場に留まり続けていた。


「んだよ、何だかんだ言っても頼もしい限りじゃねぇか。よし、俺達も向かうぞ」


 レヴァナントの声に二人は再び駆け出す。目前に迫る二枚扉は静かに佇むのであった。



 闇夜の中に燃え盛る炎は辺りを焼き払っても尚、その勢いをとどめずに揺れていた。三人の目の前には未だに燃え続ける焼け野原と不自然な七死霊門の二枚扉が映る。ようやく辿り着いたその場所に揺れ動く影を捉えた。


「まだ生きてやがったのかよ……ブードゥー、いや中身は終焉王(ラ・ファンビシュヌ)か」


 辛うじて立つ異形の怪物ブードゥー。すでに七死霊門によって致命傷と思われるほどの手傷をおっていたのであった。


『流石はリーパーの秘術だ、この(ブードゥー)でさえまるで歯が立たないとは……未完成品といえどもここまで扱えるとは驚いた』


 ブードゥーの身体を操る終焉王(ラ・ファンビシュヌ)が含みながら呟くと、何処からか現れた肉片を取り込み始めた。


「くそッ、不死身は健在かよ。タナトスッ、もう一度呪術を――」


『これは驚いた。北で合間見えた少女が短期間でこれほどの呪士に変わったのか。何か枷のようなものでも仕組まれていたのか?』


 レヴァナントの振り返り様に横を通り抜けたブードゥーは、タナトスのすぐ目の前に立っていた。思わず動くことを忘れたタナトスは、不気味な骸骨頭をまじまじと見つめていた。


『おや?……いやはや驚いた。よく見ればユクスに良く似ている。まるで若い頃の生き写しだ』


「骸骨さん、もしかしてお母さんの知り合いなの?」


 ブードゥーはタナトスの顔をまじまじと見ながら呟く。タナトスは突然呼ばれた母の名前に興味津々といった顔で尋ねていた。


「その子から離れろッ! 界雷の咆哮(ライトニングバースト)ッ」


 ミナーヴァの雷撃がブードゥーを呑み込む。弾かれたように動く影はその場を離れた。


「ミナーヴァ、助かった!」


「タナトス! 大丈夫?!」


「平気だよ。それより今あの骸骨さん話してた。お母さんを知っているような口ぶりで……」


 タナトスに駆け寄る二人は逃げたブードゥーを探して辺りを見回す。ほどなくし不気味な骸骨頭は燃え上がる焔の中から悠然と現れたのであった。


『会話に横槍を入れるなんて、実に魔導士らしい卑怯な手段だ。やはり北国(ネストリス)の戦力など、たかだか知れているものだ』


「……黙れ。二度も貴様に敗れる私ではない、今度こそ国選魔導士の名にかけて葬ってやるッ」


「待てミナーヴァッ、ヤツの不死身はまだ手強い。ここは力を合わせて一気に圧しきるしかねぇッ」


 レヴァナントはタナトスを見ると、まだ赤黒く濡れる左の胸に確かめるように手を伸ばした。


「良くわからねぇが、さっきの一回じゃあまだ印は消えないらしぜ。それならお前の雷撃でカタがつく」


 彼の言葉の意味を察したミナーヴァも、十字架(ロザリオ)を握り締めてタナトスに目をやる。


「タナトスッ、私はいつでも準備は出来てる。あなたの力を貸してッ!」


 ミナーヴァの雷撃は標的を変えると、身構えるレヴァナントへ真っ直ぐに落ちる。轟音と共に短いうめき声を上げた彼はすぐに甦ると、タナトスに向けて叫んだのであった。


「タナトス、ぶちかませッ!」


「え、え? あの人今、何か話してたけど……ひゃ、百雷門? 開きます!」


 沈黙を続けていた扉は再び重たい音を鳴らし開かれる。僅かな隙間から飛び出た怨霊は素早く空へと飛び上がるのであった。


◆◆


『轟雷の怨霊か……やはりその力は素晴らしい』


 ブードゥーは降り注ぐ雷撃を紙一重に避けながら、距離をとる。


「逃がすかよッ!」


 レヴァナントの背後から幾つも伸びる黒蛇は、ブードゥーの足に絡みついた。


『無駄だ。そんな非力な力では』


 ブードゥーは逆に黒蛇を引き寄せるように足を蹴りあげると、離れていたレヴァナントは勢い良く宙へと舞った。


「――そうくると思ってたぜッ?」


 レヴァナントは空中で体制を立て直すと、逆にブードゥーへ絡みつく黒蛇の胴体を引き寄せた。


「今だッ、俺ごと撃ち抜けッ!」


 彼の叫ぶ声に呼応するかのように、百雷門から飛び出た怨霊は雷を落としたのであった。



◆◆◆


『捨て身の攻撃か。これも弱者の考えそうな手段か』


「撃ち抜けぇぇッ!」


 激しい閃光は夜であることを忘れるほどに輝く。同時に打ち落とされた衝撃で地面は大きく揺れ動いた。


「――ッ、ガハァッ……」


 その身を黒焦げに焼かれたレヴァナントは天を仰いで苦しそうな悲鳴をあげる。傍らに落ちてきたブードゥーも、その半身を消失していた。


『……痛みとは不自由なものだな。この程度でブードゥーの身体は消えはしない』


 焼け焦げたはずのブードゥーの身体は、再び集まる死肉によって修復を初める。屍の肉片は渦巻くように空を飛ぶ。


「まだ……俺達の攻撃は、終わってねぇッ――」


 降り注ぐ雷は一ヶ所に集まってゆく。ミナーヴァが高くかざした十字架(ロザリオ)は、避雷針のように稲妻を一点に集めて膨らむ。


「これがとどめよ」


 ミナーヴァの十字架は天高く伸びる雷の剣となって振り下ろされた。


『見事な連携だ。しかし、当たらなければ意味はない』


 ブードゥーは既に治りかけた両足に力を込めた。跳躍を連想させるように屈む足を畳むと、そのままはね上がるのであった。


「まずいッ、ここまで来て――」


『なんだ、これは――?』


 飛び上がる一瞬、ブードゥーの身体はミナーヴァの間合いへと押し戻された。不可思議な光はブードゥーを包みながら絶好の場所へと移動させる。


「絶好のタイミングよッ、キルビートッ!」


 ミナーヴァは膨れ上がる雷の刃を振り下ろすと、レヴァナントに肩を貸す半獣の仲間へ叫んだ。


反転・漂流物質(バック・ドリフト)ッ、今度こそ決着をお願いしますよ?! ミネルウァさんッ!」


 激しい雷光がブードゥーへと降り注ぐ。稲妻はすべての肉片を呑み込み、焼き付くしたのであった。


 








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