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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
西の大国【軍事総領ヴァルハラ】編
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Ep.8 ドワーフの正体

深い緑を敷き詰めた森と、剥き出しのゴツゴツとした岩肌を繋ぐ長い吊り橋が見える。橋の下を流れる川からは勢いよく流れる水の音が聞こえた。


「あれが山を越える渓谷よ。橋を渡った向こうの山を越えれば海に繋がる道にでる」


 林の中、渓谷を見据えるリジェは吊り橋を指差した。


「吊り橋の手前に2人……いや、3人いるな。ドワーフ達の見張り役か?」


 夜闇の中に浮かぶ人影をレヴァナントの視界が捕らえる。夜戦に慣れている彼は夜目がきく。


「レバさんよく見えますね。私には全然見えないです」


 身をよじって見回そうとするタナトス。レヴァナントが動き回る彼女の頭を押さえるようにして止める。


「それじゃあ、さっき話した通り。まずは俺が見張りの注意を引く」


 レヴァナントは手製の爆竹を取り出して立ち上がると、静かに走り出した。


 吊り橋の前に立つ人影は灯りを持っていない。よほど夜目がきくのか、はたまた本当に人外のドワーフならば特殊な力を持っているのか? 


 レヴァナントは橋の少し手前に立つ大木の上に登った。


 橋の入り口には2つの影が挟むように配置され、もう一人が周辺を見回すように徘徊している。


 見回る影が足を止めた所を見計らい、レヴァナントは爆竹を投げ込む。導線についた火が闇夜に浮かび、地面についた瞬間わずかな光と共に爆ぜた。


 破裂音に気づいた一人がすぐさま駆け寄ると、レヴァナントは素早く飛び降りた。



 ーーゴフッ……


 背後からの一撃。

 的確に相手の動脈を掻き斬った。


 悲鳴を上げさせる隙も作らず一人を仕留め、レヴァナントは橋に向かい走り出す。


 迫り来る人影に気付いたドワーフ達が構えた瞬間、林の方から鋭い弓が風をきって放たれた。


 死角からの一発は気づく間も与えずに頭部を貫く。


 脳天を射抜かれた仲間に慌てる残りのドワーフが振り返ると、レヴァナントの刃が再び首を斬り裂いた。


 

「いい弓の腕だな」


 レヴァナントが林に向かって呟くと、2人が木々の奥から出てくる。リジェは弓を仕舞いながら、タナトスは楽しそうに手を降っている。


「見てみろ、やっぱりドワーフなんかじゃない」


 倒れた骸を指差すと、そこには袋状に伸びた長いマスクを付けた人間が倒れている。


「毛皮と化学繊維で編み上げた防毒マスクだ。それに暗視用ゴーグル、間違いなくコイツらは軍人だ」


 レヴァナントが骸からマスクとゴーグルを剥ぎ取ると、苦悶に絶命した人間の顔がそこにあった。





 



 長い吊り橋を歩く足音は、渓流の轟音の中でも響いた。ギシギシと歪んだ足元を確かめながら橋を渡ってゆく。


「持ち場はどうした、誰だソイツらは?」


 小銃を構えたマスク姿の兵士は、人影に気づいて近寄ってくる。


「橋の向こうで嗅ぎ回ってる怪しい女が居たので捕らえた」


 同じく防毒マスクとゴーグルを付けた男は握りしめた縄を見せた。太い縄の先には両手を縛られ、目隠しをされた2人の女が怯えたように震えている。


「女は労働力にならない。まぁ、薬の実験台位にはなるか。捕虜の檻に放り込んでおけ」


 銃を下げるとマスクの兵士は岩場の奥を指差した。無言で頷くと女の背中を軽く小突いて歩かせる。


「まて! お前……」


 後ろから呼び止める声と同時に、手にもった縄を素早く相手の首に巻き付けた。


 悲痛な声が僅かにあがると、首を絞められた兵士はガックリと膝をついた。


「武闘派の部隊じゃなくて助かったな。コイツら戦闘経験は少なそうだ」


 マスクとゴーグルを脱ぎ捨てるとレヴァナントは倒した兵士から武器を回収する。目隠しを外すタナトスとリジェは辺りに注意を払いながら、岩場の先を見据えた。


「この人さっき労働力って言ってたから、集落の人達はきっとまだ無事ですね」


 タナトスの言葉にリジェも大きく頷いた。


「奴等、薬の実験とも言ってたな。この山で一体何を企んでいるんだ? 」


 ひとしきり兵士の装備を漁ると、注射器のような針のついた物に目が止まる。

 いかにも毒々しい色をした液体が入ったシリンダー、見たこともないタイプの銃の形をしていた。


「これは、何かの毒か?」


 レヴァナントが注意深く調べる、そんな姿を後ろで見ていたタナトスが口を開いた。


「川には毒を流して、森には色んな種類の毒性生物を放つ。まるでこの山全体で蠱毒(こどく)でもしてるみたいですね」


 タナトスの口からでた聞き慣れない言葉に2人は彼女に尋ねた。


「こどく……?」


「呪術の一種です。えぇっと、たしか一つの空間に色んな毒虫を入れて戦わせるんです。最後に生き残った毒虫を煎じると強力な呪いが出来上がるってゆう、古くからある呪法ですね」


 タナトスは思い出すように考える素振りをして話す。森の奥で行われている何かは、たしかに彼女の言う【蠱毒】と同じ様に思える。


「いずれにせよ、早く人質を探そう」


 3人は頷くと岩場の奥へと足を進めるのであった。



 人工的に並べられた大岩が並ぶ道は山道を下るように配置されている。まっすぐ延びる道順は渓谷の沢まで続き、流れる水の音が余計に大きくなっていた。3人は注意深く辺りを警戒しながら進むのだが橋の入り口以降、マスク姿の兵士達は見当たらなかった。


「見ろ、あれが拠点らしい」


 レヴァナントが岩影から覗き込むとそこには大きな穴が掘られており、すり鉢のように窪んだ広い場所には幾つかの横穴が掘られていた。中からは例のマスクを付けた兵士達が銃を構えながら出てきて、数人の男達を叱責している。


「あれは、捕まった集落の人達か?」


「えぇ、間違いない」


 リジェも顔を出して広場の様子を確認する、見知った顔もある中で必死に主人を探しているようだった。


「あれ見てください! 何か穴から運ばれてきますよ」


 タナトスが指した先に、台車に乗せられた土砂が運ばれる様子が見てとれた。


「リジェ、この岩山からは何か取れるのか?」


「わからない。こっち側の山は大昔に酷い疫病が流行ったって言い伝えがあるせいか、集落の人達もあまり近付かないの。土壌に原因があるらしくて作物だって育たないし、これと言って何か取れるとは……」


 リジェは考え込むように口を紡いだ。依然として洞窟のような穴からは幾つもの台車が運び出されて行く。


「もしかして、ここの土も蠱毒の一つのなんですかね?」


 タナトスの言葉にハッとするレヴァナントは、土砂の運ばれる先を視線で追いかける。大量の土砂は広場の端に積み上げられ、巨大な機械に次々と投げ入れられている。機械は黒い煙を吐き出しながら、反対側から勢いよく岩だけを吐き出している。


「土壌から疫病の菌を取り出して、それを生物兵器として量産する。そこに毒を巻いて成長させた危険性物の毒を合わせることで、さらに強力なモノを精製しているってワケか。まさに蠱毒そのものだな」

 

 レヴァナントは苦々しい表情で呟くと、不意に隣に居たリジェが身を乗りだした。


「あそこッーー!アイザックよ、私の主人が居たッ!」


 リジェの指差す先には、ぼろ切れのような服をきた痩せた男が苦しそうに土砂の積まれた台車を押していた。動転する彼女は流行る気持ちを押さえられないように飛び出そうとする。


「ダメです! リジェさん、今はまだーー」


 タナトスは必死で彼女の腕を捕まえる。堪えられないリジェは「離して」と取り乱している。感情的な彼女の声を兵士達は聞き逃さなかった。


「残りの爆竹でなんとか隙を作る、その隙に2人で人質を助けろ!」


 業を煮やしたようなレヴァナントは叫びながら走り出すと、あちこちに爆竹を投げ込む。


 広場に破裂音と叫び声がこだまするのであった。


 


 


 


 

 

Ep.9は11月3日配信予定です!

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