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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
東の大国 【神の国ギオジン】編

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Ep.66 脱獄の目的地

 昼とも夜ともわからない深い森、不気味な四つ足の塊は木々を薙ぎ倒しながら猛烈な勢いで進んでいた。種の力によって肉塊車を作り出したバステトは、アイテルの言いつけ通り崖を探している。


「そんな、なんて非情な事を……アイツはその事を知っているのかよ?」


 巨大過ぎる力を授かったタナトス・リーパーは、血縁の手によって呪われている。近い将来彼女が必ず手にする破滅、それを止める為の歪んだ家族愛。それはあまりに不条理で、無垢な少女(タナトス)には残酷すぎる真実なのであった。


 レヴァナントはたった今聞かされた真実に言葉を失くしていた。


「教える訳ないじゃない。私達がどれだけあの子を大切に育ててきたか、他人のあなたには想像も出来ないでしょう?」


 アイテルは答えた。彼女の瞳はとても冷たく、その奥には深い決意めいたものを感じさせた。


「私達がタナトスを守るにはこれしかない。そうでなければまた母の、ユクス・リーパーの時のように大切な家族を失ってしまう」


「さっきの話……お前の考えている通りに出来れば、タナトスを助けてやれるんだな?」


「あくまでも可能性の話よ。それを実現する為、わざわざあなたを連れてきたのだから」


 二人は静かに口をつぐむ。レヴァナントはいつの間にか握りしめていた拳に気がつくと、フッと力を抜いた。己の無力さを痛感するかのように頭を垂れる。


 消沈する彼とは逆に、アイテルの意識はすでに別の何かに向いているようだった。懐から紙のようなモノを取り出すと、何か記されてあるのか頻りに目で追っていた。


「父からの連絡……良い知らせよ、あの子(タナトス)もギオジンに着いたらしい。メッセージは計算通り上手く行ったようね」


「アイツ、本当に追っかけて来たのか」



 ネストリア城地下牢獄を抜け出す際、アイテルはレヴァナントに血文字のメッセージを書かせていた。


あの子(タナトス)ならあなたが書けば必ず追いかけて来るわ』


 彼女の想定通り、タナトスはレヴァナントを追ってギオジンまでやって来たのである。


「今しがたリーパー家を訪れたらしい」


 アイテルはそう言って手に持った紙を指先で弾く。なんの変哲も無さそうな薄い紙でも、おそらく何らかの呪術が作用しているのだとレヴァナントは考察した。


 

 地下牢獄にてアイテルから何でもいいからメッセージを残すように言われ、レヴァナントは無意識に「来るな」と綴った。それは本心から出た言葉で、ネストリア城での一件のような凄惨な戦場に彼女を巻き込みたくはないのだ。複雑な心境のレヴァナントの耳に、調子の外れた声が飛び込んできた。



「アイテル様、目的地を見つけましたッ」


「全速力で走り抜けなさい」


 バステトは嬉しそうに返事をすると肉塊の手綱を握りしめる。勢いに負けるレヴァナントは仰け反りながら口を開いた。


「このままって、この先には崖があるんだろ?!」


 二人は彼の問いかけに答える事もなく、ただ先を見つめていた。やがて生い茂る木々は視界から消え去ると、岩肌を覗かせた崖が目の前に現れた。


「……かまわないわ」


「承服致しましたッ」


「待てよッ、正気か!?」


 レヴァナントの制止を振り切る肉塊車は勢いをそのままに崖の端を力強く蹴りあげた。飛び上がる三人は切り立った空虚の岩肌に吸い込まれるのであった。



「何かに掴まれッ……」


 叫び声をあげたレヴァナントはすぐに異様さに気がついた。切り立った崖に飛び込んだはずの肉塊車は今も地面を這い進んでいる。


「アイテル様の助言の通り我々は今、奇跡を目の当たりにしている!」


 手綱を握りしめるバステトは至福の喜びと云わんばかりの声をあげた。


「いいから、そのまま真っ直ぐに進みなさい」


 アイテルは欠伸を噛み殺すように静かに呟く。その仕草から、事は彼女の思い通りに進んでいるようだ。


「おい、お前は一体どこへむかっているんだよ?」


 レヴァナントは何度も彼女へ疑問を投げ掛けた。しかし肝心の彼女は上の空で、手に持った何かを再び見続けている。


「おいっ! 聞いてんのかよ?」


「あなたって、本当にうるさいのね。少しは黙って見ていなさいよ……それとも喚いてないと死ぬの?」


「んだとッ?! この、クソ姉野郎」


 彼女の冷たい一言にレヴァナントはいつの間にか言い負かされていた。文句の一つでも返したものなら、何倍にも返ってくる。もはや彼女の小言に言い返す術を無くすレヴァナントなのであった。


「アイテル様、ご覧ください!」


 バステトは前方を指差して叫んでいた。いまだ岩場だけ続く景色だが、三人の向かうずっと先は不自然な空間に分断されていた。


「ようやく着いた、目的地はすぐそこよ。あの中に飛び込みなさい」


 アイテルの指示通り、肉塊車は不気味な黒い空間へ突き進む。視界から一切の光が消え去る、すぐに眩しい光で目が眩んだ。


この国(ギオジン)は一体どうなってんだ? また景色が変わってる……」


「流石は神の国と云われるだけありますな。某も初めて見る奇怪な現象に、少々胸が昂っております」


 レヴァナントとバステトの二人は幾度となく変わる情景に驚きを隠せずにいた。森から崖を飛び降りたはずの先は唐突に岩山で、今進んでいる場所は春先のような暖かな風が吹く草原だった。


「あの建物の前で止まりなさい」


 彼女が指差す方を目を凝らす。確かに小さな建造物が見てとれる。一面に咲き誇る草花の中を肉塊車は一直線に進んだ。目的地まであとほんの僅かといった所で誰かが立っている事に気がつく。こちらに向かって手を振る人物。意外にもアイテルも手を振り返している。


「お前の知り合いか?」


「当たり前の事を聞かないでくれる?」


 眉間を寄せるレヴァナントを無視して彼女は車を飛び降りる。バステトが彼を(おもんぱか)ったように肩を叩く、二人も後を追って飛び降りるのであった。



◆◆


 のどかな景色の中にポツンと立つ建造物は、今まで見たこともないような形をしていた。独特な屋根の形や彫刻に目を見張る二人に、アイテルが声をかけた。


「ちょっと何してるの、早くいらっしゃい」


 アイテルの側にはこれまた見慣れない装束に身を纏った女性が頭を下げていた。


「ようこそギオジンへ。この御二人がアイテルの言っていた不死身の人間?」


「ええ、目付きの悪い方は半端者だけどね」


 喚き出そうとするレヴァナントをバステトが必死に宥める。異国の女性も笑いを堪えるように口元を覆った。


「はじめまして、私はステラ・アマナミ。この子(アイテル)って無愛想だから、二人とも気を悪くしたでしょう? さぁ、先ずは中へどうぞ」


「……ちょっと待ちなさいステラ、誰が不器用で無愛想ですって?」


 ステラと名乗る女性は簡単にアイテルをいなすと、踵を返して二人を手招いたのであった。


 


 


 























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