Ep.61序 波打ちの場所
長いので数回にわけております。
王都から南東へ進む馬車の中で騒がしい声は暫く続いていた。
「はい! ミーネちゃんはこれを着て。道化師さんは適当に黒い布を体に巻き付けて……」
「な、なんですかこの真っ黒な……というか、ここで着替えるなんて出来ません!」
「リーパーちゃん? 巻き付けるって、僕は一体どうしたらいいんだい?!」
足を止めず走り続ける馬車の手綱を握る男は、不安そうに何度も振り向くのであった。
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「残念ですが僕のお連れできるのはここまでです。馬車で案内できる限界です」
手綱を放した男は残念そうに頭を振る。
「ありがとうございます! ここからは私に任せて下さい」
紫髪のお下げの少女は屈託なく答えると、わざとらしく胸を叩いた。
「さぁ、急いで船着き場までいきますよ。二人とも準備できました?」
少女のその声に自信なさげな男の声が答えた。
「リーパーちゃん? ぼ、僕は本当にこのままでいいのかな」
黒く汚れたボロ布を身体に巻き付けたキルビートは、自信なさげに辺りをキョロキョロと伺っている。
「完璧です、バッチリ。元々のお面と相まって怪しい呪士感が抜群にでてますよ!」
少女は嬉しそうに跳び跳ねる。その姿に満更でもない様子の仮面の道化師キルビートは頭を掻いていた。
「……ちょっと、本当にこの服で向かうのですか」
不満げな声のする方をむくと金髪の少女がさも不機嫌な顔で馬車から降りてきた。
「ミーネちゃんはやっぱり可愛いですね。すごく似合う」
「ほ、本気で言ってますか?」
無理を言って急ぎで王国に作らせた真っ黒い修道服を纏うミナーヴァは、ひきつった眉を僅かに動かしていた。
「さぁこれでどこからどう見ても呪士の一行です。いざ私の故郷、ギオジンヘ!」
白いローブを翻し、紫のお下げ髪を揺らすタナトスは拳を突き上げるのであった。不安そうに見つめる二人は浮き足立つタナトスの後について進むのであった。
◆◆
「あ! 見えましたよ、あれが連絡船の船着き場です。うわぁ、懐かしいなぁ……」
「あれが東へ向かう航路……」
はしゃぎだしたタナトスに言葉を詰まらせる二人は異様な雰囲気に警戒を余儀なくされていた。
「私ね、初めてあそこに下ろされたとき不安でいっぱいだった。……けど一歩踏み出した時、それ以上の興奮でワクワクしたこと今でもはっきりと覚えてます」
穏やかな波打ち際の音とは正反対に埠頭は緊張感が漂っていた。