Ep.49 城前の死闘
両刃の黒い大剣が肉を抉る。こちらを見ることもなく振り下ろされる度に、レヴァナントに激痛と怒りが沸き上がらせていた。
「……ガハァッ……て、てめぇ……」
「あ? まだ生きてんのかよ、雑魚はさっさとこの世から退場しろ」
二本角の兜に禍々しい黒色の甲冑、地べたに這いつくばったレヴァナントは下からその姿を睨み付ける。
「クソヤロウッ……退けやがれ……」
少し離れた場所で少女の声が聞こえた気がした、こちらに来させてはいけないと咄嗟に口が開いていた。
「タナトス……来るなッ!」
レヴァナントは胴に貫かれた刃に身を捩らせる、横腹をねじ切るように自由を奪った。
「ただの不意打ちが、いい気になるなよッーー」
自由に動く左手で銃を抜き去ると、ゼロ距離のまま放った。
発砲音と同時に二本角が首を傾ける。あと僅かといったところで銃弾は避けられたのであった。
「なんだお前?」
大剣を担ぐように持ちかえると不気味な威圧感を感じた。不死の力で傷を治し、レヴァナントはすぐさま距離を取るのであった。
◆
「お前、雑魚のくせに"種"持ってんのか? チッ……こんなのが同類なんて、恥を越えて吐き気がするほど虫酸が走る」
二本角は何度か舌打ちをすると、苛立ったように大剣を振り回した。その異常なまでの殺気は、レヴァナントに次の行動を戸惑わせていたのであった。
「今すぐ消しとかねぇと気分が悪いな」
僅か声が聞き取れた瞬間、喉元に鋭い痛みが走る。
一瞬のうちに切り裂かれた首を抑えるレヴァナントの右足がガクンと落ちる、膝から下半分は切り離されていた。
「クッ……ソッ!」
「雑魚のくせにその力は似合わねぇんだよ、八つ裂きにして二度と再生出来ないようにしてやるよ」
二本角は背丈とほとんど変わらない巨大な剣を尋常ならざる剣速で振るう。畳み掛けるようにレヴァナントの四肢を斬り落とした。
「ふ、ざけんなっ!」
即座に再生されるレヴァナントの右手が腰に携えた直剣を掴む。抜き去ると同時に相手の首もとへ振り抜いた。
「こんな玩具みたいな剣じゃ、傷すらつけらんねぇよ」
鎧男は片手で直剣を掴むと、硝子のようにいとも容易く砕く。破片が散らばる一瞬のうちに、再びレヴァナントの腕は切り落とされたのであった。
「次は頭ッ! 落として刻んでやるーー」
度重なる激痛と汲み上げる怒りがレヴァナントの頭の中を満たした時、振り下ろされる剣筋が突然減速したように見えた。
「そう簡単には、殺られるかよッ!」
レヴァナントの背部から黒い頭の蛇が伸びると、すんでのところで大剣を止めていた。二本角は再び怪訝に舌を打つとレヴァナントの胴を大きく蹴り上げたのであった。
「ガハァッ……ッ……」
激しく蹴り飛ばされたレヴァナントが苦しそうにむせ変える。
「くそ、"種"だけじゃなく"芽"まで。ホント勘に触る糞ヤロウだ」
咳き込むレヴァナントの身体はいつも通りに再生する。いつもと違うのは背中や肩から伸びる黒い大蛇のような6つの頭だった。以前も現れた不可思議な力。突然現れた身体の変化にも関わらず、頭の中ではまったく別の事を考えていた。
……身体に何が起きてるのかわからねぇ、でも今はそんな事どうだっていい。目の前の鎧野郎を倒せる力にさえなればッーー
折れた直剣を再び構え直す。
「チッ、てめぇなんぞになんで"種"があるかはしらねぇが。俺の中に廻る【バアル・ゼブル】よりも強い力なんて存在しねぇ、てめぇのその蛇みてぇな弱小因子。すぐに消してやるよ」
荒々しく聞き慣れない言葉を吐き捨てると、二本角の兜を外して投げ捨てた。下から現れたつり目の男は、血走った両目でレヴァナントを睨み付ける。
「ゲホッ……ゲホッ、中身は人間かよ、それならこっちも勝機はあるな」
強がりのように口を開いたレヴァナントであったが、異常な力量の差を前に動揺を隠せなかった。
剣先は愚かいつ斬られたかすら解らないほどの剣速、至近距離からの銃弾を軽く避ける身体能力。化物じみた強さを鎧男から痛いほど見せつけられていたのだ。
しかし、一点だけレヴァナントの中に光明を照らしたのは背後から現れた謎の黒い蛇達だった。目で追いきれない鎧男の攻撃を無意識のうちに防いだ事、ここに逆転の活路を見出だそうとしていたのであった。
「雑魚のわりには妙に粘った褒美だ。名前くらい聞いてやる」
「……レヴァナント・バンシー。そんな雑魚にこれから倒される、お前の名前も聞いてやるよ」
青筋を浮かべた鎧男は、僅かに口角をあげたかと思うと姿を消した。刹那にレヴァナントの眼前を巨大な刃が襲う、黒い蛇のような触手はすんでのところで大剣を受け止めた。
「ーーオルクスッ! 【バアル・ゼブル】の"種"を持つ、悪魔の王の名だ」
刃の向こうで狂気の笑みを浮かべる男は、レヴァナントを軽く弾き飛ばすのであった。
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