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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
【王都ネストリア】襲撃 編

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Ep.42 悪夢の始まり

「や、焼き払うって、お前なぁ……」


 堪らず声をあげてしまうと、タナトスはとぼけた様子で首を傾げていた。

 ネストリア城下に掛けられた呪術を解くための打開策として僅かな希望を感じていたのか、ミナーヴァはまた顔を落としている。


「うわぁっ! み、見てくださいよ、僕の腕にも呪いがぁーー」


 キルビートは右の袖をまくり上げて喚いていた。どうやら橋の上で魔法を使った事で、彼にも呪術が発動したようだ。


「ううむ……街を焼き払うか……」


 五賢人スルトは口元に手を置いて、何か考え込んでいる。突拍子のない彼女(タナトス)の話に、この国の聡明な参謀の頭を悩ませていた。



 《ーーその意見に賛成だ、すぐに準備に取りかかるのだ》



 突如響いた声に皆が振り返る。その姿を見たスルトとミナーヴァはすぐさま跪き、深々と頭を下げた。


「お、おい……?」


「バンシーくん、リーパーちゃん。2人も早く跪いてっ!」


 キルビートが慌てて促す、レヴァナントとタナトスは訳もわからず頭を下げた。


「よいよい、頭を上げてくれ。異国の客人達よ、よくぞ参られた」


 謁見の間に現れた仰々しい装いの初老の男は、凛とした眼差しで3人に微笑む。(やつ)れた頬は具合の悪さを物語っていたのだが、それでも非凡なその風貌は王としての威厳を感じさせていた。



 ◆



「私はオルティア・イース・ネストリアス。この国の王であり、しがないただの老人だよ」


 立派に蓄えた白い髭を触りながら、ネストリアス王は気さくに声を掛ける。その声に顔をあげたレヴァナントはすぐさま問いただしていた。


「あんたの息子が相手にいるんだろ、いいのか? 俺達はたぶん、そいつを殺すかもしれない」


「そうだな、そうなると思う。だが、この国の民と息子の命を天秤に掛けたとき王として選ぶべきはどちらなのか……。私はようやく決められたのだよ」


 決意めいたネストリアス王の眼差しに、少しだけうら悲しいような寂しさを感じた。王としてのあるべき姿を見せる人物に、レヴァナントは感服したのであった。


「しかし、焼き払うと言ってもそんな用意など何処にあるのですか? それに敵の仕掛けた呪術が有るかもしれません。まだ城下街にでるのは危険では……」


 ミナーヴァが憂わしげ発言すると、五賢人と王は考え込むように唸っている。


「私達ならできますよ。ね! レバさんっ」


 不意に手を上げて立ち上がったタナトスに腕を引かれた。自信たっぷりな笑顔の彼女に、なんとなく察しがついた。


「たしかに、タナトス(おまえ)がいればひとまず敵の仕掛ける呪術は心配いらないだろう。ただ、街を焼き払うなんて出来るのか?」


黒狂禁忌(ブラックリトゥアール)を仕掛けるには、呪いを込めた媒介で六芒星の印を作る必要があるんです。だから正確には城下街の周囲、街を囲っている森を焼けばいいんですよ。きっとそこに媒介はあるはずです」


 自信ありげに話したタナトスは、今度はどこか心配そうな声色で再び口を開く。


業火門(ごうかもん)を開きたいんですが、炎を出せる魔導士さんいますかっ?!」


 彼女は慌てて話している。どうやら今回の死因は決まっているらしい、途端に溜め息が込み上げてくる。


「炎ならば私の魔法で作れるが。街の周り一面を焼くとなると、この身体が持つかどうか」


 五賢人スルトは首筋から覗く黒い痣を擦りながら、眉を歪めて呟いた。


「スルト様っ! 彼女達に任せれば何とかなるかもしれませんーー」


 ミナーヴァは何か察したようだ。彼女はすぐに七死霊門(セブンホーンテッド)と俺の特異の説明を始めたのであった。



 ◆



「……本当に良いのか? まだにわかに信じきれていないのだが……」


 城前の長い橋上で五賢人スルトは、躊躇いがちにレヴァナントに尋ねる。何度説明してもやはりその手で人を殺す事を、気持ちよく受け入れられるはずなどないのだろう。


「ああ。俺なら大丈夫、いつもの事だからな。それよりも、魔法を放ったらすぐに城まで逃げてくれよ?」


 苦い表情のスルトが長い杖を構えると、たちまち猛々しい炎の刀身が伸びる。業火を纏う大剣を振りかぶると、レヴァナントに向けて振り下ろした。


「悪く思うな……黒炎刀(レーヴァテイン)ッ!」


 刃で切られたような鋭い痛みの後、黒い炎が全身を覆い尽くしている。痛みを堪えるレヴァナントの叫び声は炎の勢いで掻き消された。やがて黒炎が身体を焼き尽くすと、不死者の再生が始まった。


「ーー来ましたっ! 魔導士さん、早く逃げて下さいっ!」


 橋の先、城下街側で叫ぶタナトスが大きく手を振っている。息を吹き返したレヴァナントは焼け焦げた上着を破り捨てると、むせ返りながら振り返る。スルトは無事に城まで引き返したようだ。


「ーー七死霊門(セブンホーンテッド)業火門(ごうかもん)開きますっ!」


 橋の向こうに聳え立つ錆び付いた銅色の扉には、無数の焼け焦げたような跡がついている。


「今回はまた、何が出るのやら……」

 

 不快な重低音と共に扉が開くのを見ながら、レヴァナントは橋の向こうの彼女の方へと歩きだす。開いた扉の隙間から勢いよく飛び出した巨大な影が、街の外まで駆けてゆくのが見えた。



 ◆



「すげぇ、辺り一面火の海かよ」


「レバさん、お帰りなさい。業火門(ごうかもん)から出る火車(カシャ)は化け猫の怨霊です。あの子が駆け抜けた跡には焼け野原しか残りませんよっ!」


 レヴァナントが巨大な扉のすぐそばまでたどり着いた頃、瞬く間に広がる焔は城下の周りを赤く染め上げていた。いつものように七死霊門を開いてご満悦なタナトスは楽しそうに話している。


 炎が城下街の周りを大きな輪を描くように広がった時、それは起きた。巨大な七死霊門(セブンホーンテッド)の扉は勢いよく閉まると、飛び出した怨霊は半透明に透けて消えたのであった。


「おい、タナトス。まだ扉閉めなくてもーー」


 言いかけた言葉が詰まる。隣で起こる異常事態に頭が混乱した。突然の事で理解が追い付いていない。


 ……つい先程まで楽しそうに笑っていた彼女は、燃え盛る炎のように真っ赤な血を吹き出して倒れたのであった。


 


 


 

 


 


 

 

 









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