表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
北の大国【魔法国家ネストリス】編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/199

Ep.38 王都ネストリアへ

月明かりの仄かに光る道を歩く2人は、クレストリッジの街を目指していた。

 錬金術師(アルケミスト)パレス・プラナロムの起こした地獄のような光景に街の人々は恐怖に震え、沢山の犠牲者を出した。


 浮かない顔のレヴァナントは遠くから聞こえてくる悲鳴や泣き声に、耳を塞ぎたくなる様な複雑な心持ちで足を進める。


「レバさん」


 隣を歩くタナトスの声にハッと顔をあげる。


「なんだよ?」


 彼女にいつもの笑顔はなく、いつになく真剣な表情のまま遠く輝く街を見据えて話していた。


「死んじゃった街の人達の為のお墓、作らなきゃですね。道化師(クラウン)さんや御者さんにも手伝ってもらわなくちゃ」


 これまで聞いたこともない彼女の発言に、レヴァナントは心を揺らした。ほんの数ヶ月前まで死に対してなんの頓着もなかったタナトスの変化に、妙にこそばゆいような嬉しさを感じたのであった。


「あぁ。少しでも壊された街の復旧も手伝わないとだし、ネストリアに向かうまでにやる事が多すぎる」


 芝居がかった仕草で話すと、彼女はいつものように笑って返していた。



 ◆



「キルビート! 無事だったか」


道化師(クラウン)さん、ボロボロですね」


 街の入り口で座り込む華奢な男は、近づいてくる2人に気づいて大きな溜め息を吐いた。座り込む男の後ろで泣きわめく街の子供達もどうやら無傷のようだ。男のすぐ近くには目隠しのように大きな布が掛けられた人山、恐らくパレスに操られた犠牲者達を彼が集めたのだろう。


「パレスさん……いえ、錬金術師(アルケミスト)はどうなりましたか?」


 額から血を流すキルビートは心配そうな視線をすぐに改めると、グッと噛み締めるように尋ねてくる。その顔はかつての恩人に思いを馳せないよう、憎しみを搾り出しているように見えた。


「死んだよ。もうこの街も大丈夫だ」


「そう、ですか……本当に、ありがとうございました」


 堪えられない感情がキルビートの表情を僅かに歪めたように思えた。元凶となったパレスが彼にとっては本当に恩人だったのかと思うと、レヴァナントは素直を真実を告げたことを僅かに後悔したのであった。


道化師(クラウン)さん、もう一人の道化師(クラウン)さんが言ってましたよ……」


 項垂れたキルビートに、覗き込むタナトスが声を掛ける。


「また道化師(クラウン)さんに会えて良かったって。きっと本当は嬉しかったんだと思いますよっ! 」


 彼女の言葉にキルビートは声を殺して泣いていた。すすり泣く彼は「そうですか」と気にも止めない様に取り繕う。タナトスはその姿を何度も頷いて見ていたのであった。


 「……おい、本当なのかよ? 」


 小声で彼女に尋ねる。先程の戦いの最中、そんな様子はパレスには微塵も感じられなかった。


「誰も傷つかない嘘ならいいんですよね?」


 タナトスは振り向くと、悪戯っぽく舌を出して微笑んでいたのであった。



 ◆



 騒動に揺れたクレストリッジの街はあっという間に朝を迎えていた。明るくなっても壊れた街中には犠牲者家族達の泣く声が聞こえる。暗い街の様相はフェラリオ・シャービルが語っていた、反乱前のクレストリッジの光景を思い出させた。


「ーークレストリッジの民達ッ! 聞いてくれッ!」


 レヴァナントは広場に備えられた拡声器を使い声を張り上げていた。街中に張り巡らされた拡声器のから聞こえる声に、街の人々は濁った瞳で顔をあげて聞いている。


「ーーこの街は傷付いた、だけど生き残った人達はこれからも生きていかなきゃならない」


 レヴァナントの声は拡声器を通して街中に響いた。

 その言葉に怒りを見せる人。悲しみに咽び泣く人。目の前の現実を受け止められず、ただ茫然と立ち竦む人。


 様々な感情は暗く沈んだ街の中に渦巻いていた。


「ーー絶望的な今は塞ぎ込むかもしれない。だが、人には乗り越える事しかできない」


 熱く語り出したレヴァナントの後ろで、タナトスとキルビートは静かに見守っている。


「ーー憤怒(アングリー)道化師(クラウン)がクレストリッジの街の為に残した物がある。今は突き返したくなるような代物かもしれない、だがきっと役には立つはずだ」


 塞ぎ込んだままに放送を聞く人々は、聞きなれた街の有名人の名前に少しだけ顔を上げた。


「ーー広場に集めて置いてある。ただし、均等に分配してくれ。それが道化師(クラウン)の遺言だ、話は以上ッ!」


 レヴァナントは拡声器を投げるように手放すと、後ろを振り返る。2人は目を合わせるとグッと親指を立てた、軽く笑い返すと3人は外へ目をやる。広場の舞台上に並べられた大量の金塊、太陽の光を浴びてキラキラと輝くのであった。



 ◆


 

「どうして僕がこんな事しなくちゃいけないのか……」


 ブツブツと小言を漏らしながら、馬車を走らせる男が広場へ近づいてくる。馬車の後ろに取り付けた急ごしらえの荷台には、大量の金塊が乗せられていた。


「御者さん、ご苦労様! 助かるよ」


「目が覚めたら街はメチャクチャで、起き抜けに荷運びさせられるなんて……本当、なんて人達の護送を任されてしまったのやら」


 大袈裟に溜め息をつく御者に、苦笑いを浮かべて謝罪するレヴァナント。宿屋で眠っていた御者をたたき起こした3人は、パレスの作り出した大量の金塊を広場に運ぶよう頼んだ。集められた金塊はクレストリッジの再建の足しに使ってもらう事に決めていたのである。


 そして金塊を並べた3人は、各々が出来る限りの手伝いをこなすのであった……




 ◆



「まったく予定から2日も過ぎてしまった、早くネストリアに出発しますよ!」


 クレストリッジの入り口に馬車を止めた御者は、勝手に付けられた荷台を切り離して騒ぐ。


「待ってくれ! まだ1人揃ってないんだ」


「えぇ? タナトスさんならそこに居るじゃないですか?」


 不思議そうに首を傾げた御者はタナトスを指差した。レヴァナントは辺りを見渡す、街の方から騒がしく声をあげる男の姿がみえる。


「ーー待って下さい! 僕も一緒に……」


 大きな荷物を抱えた華奢な男は、苦しそうに膝に手をついて息を切らして喋る。


「遅ぇよ、来ないかと思ったぞ」


道化師(クラウン)さんも一緒にネストリアに行きましょうっ!」


 レヴァナントとタナトスは待っていたと言うばかりに彼を迎えた。クレストリッジの怪人キルビートは何度も頷く。


「ちょ、ちょっと待って下さいっ! そんな勝手に連れていくなんてーー」


 1人焦る御者の肩に手を置くとレヴァナントは芝居染みた様に首をふる。


「コイツもきっと邪教討伐の力になる。……それに、酔っ払った誰かさんのお陰で出発が遅れたこと。黙っていてもいいんだぜ?」


 御者の耳元で囁くレヴァナントは悪い顔をして笑う。顔を赤くした御者の男は、ぐうの音もでないといった様子で食いしばるのだった……



「……そ、それじゃあ今度こそネストリアへ向かいますよ!」


 3人を乗せた馬車はクレストリッジの街を後にする。見渡す限り続くの青空に、レヴァナントは少しだけ気持ちが晴れるような気がしていたのであったり

 


 ◆



「そう言えば……落石事故の時に採掘場で目撃された道化師(クラウン)さんって、一体誰だったんですかね?」


 流れる車窓を眺めていると、不意にタナトスが呟いた。


「たしかに、あの時の僕は二日酔いでダウンしてましたからね……」


 考え込むようにキルビートも唸っている。


「さぁな……あの婆さんの仲間でも居たんじゃないか?」


 クレストリッジの街並みは、すでに見えないほど離れていた。引き返す事もなく馬車は王都ネストリアを目指して進む……






 ……後に荒廃したクレストリッジの街を見事に再建し、再び統治した男がいた。男の名前はシャービルという姓だったという。3人がこの事実を知るのはずっと先の事である。


 


 

 


 

 


 


 


 

登場人物紹介7


キルビート・ビー・トラスト


憤怒の道化師(アングリークラウン)に扮し、鉱山村(クレストリッジ)で夜な夜なショーを行っている。その出自は王都(ネストリア)の貴族で、元五賢人のオーディンの末裔にあたる家系。終戦後、家族を亡くした彼は失意の末に流れ着いた。

魔法の性質は風、他にも身体を獣化させるオーディン家の秘術を用いる。本人曰くオーディン家でも随一の平和主義者らしく、争い事は基本的に好まない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ