Ep.37 反発性N極とS極
Ep.38は1月21日更新です!
頭の先から足の先までしっかりと金塊で固められて、身動きが全く取れない。隙間なく顔まで塞がれて、呼吸すらまともに出来ない。意識が途切れて命が終わると、また意識が戻り同じ苦痛を繰り返す。
何度目の死なのか解らない、目の前の広がる暗闇に、目を開いているのか解らない。外の音すらも遮られた状況、思考が周り始めたところでまた圧迫死が訪れる。
【ーー死から逃げたいか? 】
何処かで聞いた事のある声を、かすれた意識の中で確かに聞いた気がした。
【ーー死を畏れる者よ、生が産み出す苦しみを、お前に与えてやろう……】
二度目にそれが聞こえた時、身体の内側から一つの感情が溢れ出てくるのを感じた。そのまま、沸き上がるその感情に身を任せて俺は叫んだ。
「ーークッ、ソ…ヤロオオォォッ!」
身体の自由を奪っていた黄金に亀裂が入ると、隙間から僅かな光が見えた。意識がまだ混沌とする中、レヴァナントは叫び声を上げた。声と同時に内側から弾けとぶ金塊は、粉々になって辺りに飛散する。
「ハァッ……ハァ……な、なんだこれッ?」
金塊を突き破ったレヴァナントの背中からは黒く伸びる何かが現れていた。五つの長く伸びた首の先に蛇のような頭、身体を包む不思議な感覚に暫く驚いていた。
「ーーなんだぁ? そのデカイ扉はぁ?」
近くで聞き覚えのある声が響いた。
「そうだ、奴はッ?!」
周囲を見渡すレヴァナントの視界に巨大な二つの扉が映る。どうやらタナトスが上手く七死霊門を展開したようだ、安堵のような短い溜め息を漏らすと彼女の元へと走り出した。いつの間にか彼の身体から黒いナニカは消えていたのであった。
◆
「あ! レバさん戻ったんですねっ」
こちらに気づいたタナトスは手を振っている。彼女から少し離れた場所に錬金術師パレスの姿も見えたが、巨大な扉に気を取られるせいか術から抜けたレヴァナントに気づいていないようであった。
「なんだ、今度の扉は二つもあるのか?」
タナトスの後ろに佇む扉を見上げる、赤と青の錆び付いたソレはいつもは一つしか現れない七死霊門とは様子が違ってみえる。
「羅針門は二枚で対の扉なんです。圧迫死により捧げられた命で現れます!」
いつもの調子で楽しそうにタナトスは身体を動かして話す。
「今度は一体何がでてくるんだ? 街の人達が集まってくる前に、決着着けてくれよ」
呆れと期待を込めて笑う。なんだかんだ言って、いつもコイツの呪術には助けられているのだ。
「もちろんっ! さぁ、出てきますよーー」
タナトスの声に反応した様に二枚の扉はそれぞれ鈍く軋む鳴き声をあげて開いたのであった。扉からゆっくりと姿を表す二体の四つ足は見覚えのあるシルエットをしていたが、とてもこの世の生き物とは思えない大きさをしていた。
「動脈狸と、静脈狐です! 」
赤い扉から現れたのは、のそのそとはち切れそうな腹を引きずる真っ赤な体の狸。狸の怨霊は威嚇のように牙を剥き出す。隣の青い扉から出てきた青白い体の狐は、反対に痩せ干そった身体から飛び出た二つの瞳をギョロギョロと動かしている。
「何かと思えば、たかが狸と狐か。いくら大きかろうが、我が錬金術の前にはーー」
パレスの声を遮るように2匹の怨霊は激しく吠えた。大気が震えるような振動が辺りを包む。
「あの2匹、スッゴく仲が悪いんです。いつもああやってお互いを威嚇しあうんですよ」
タナトスは眉を下げ、口を尖らせながら呟く。いつの間にか2匹の怨霊はパレスを挟み込むような場所で唸り声をあげていた。
「ーーぐぅ、う、うるさい小動物どもめ。今すぐワタシの……」
再び遮られたパレスの声、どうやら2匹の間で何かの力が働いている様に見える。
「タナトス、アイツらなにやってるんだ?」
2匹の激しい威嚇の雄叫びに、明らかにパレスは苦しんでいる。しかも反響するはずの音は、まったくこちらに届いてこない。
「あの2匹の鳴き声はお互いを反発させるんですよ。そこに挟まれた空間は、その影響を受けて物凄いことになります」
「……物凄いこと?」
レヴァナントは怪訝に眉を歪めて怨霊達を見る。間に挟まれたパレスの足元では、先程と同じ様に金塊が棘のように飛び出していた。パレスは錬金術で応戦しようと試みるのであるが、一向に黄金の棘は動かない。
「なんだっけ、えぇっと。強い押す力がぶつかって、空気が何とかってなるんですよっ!」
タナトスの適当な説明に一瞬首を傾げたが、黄金が身体に張り付くパレスの姿を見て理解できた。
「つまり……あの空間には強い圧力がかかっているって事か。それでパレスは錬金術を自由に使えず、逆に押し込められてる」
みるみる内に圧縮されてゆく空間は、錬金術師パレスを押し潰すように縮んでゆく。音すらも掻き消された空間で苦しむように口を開けてこちらを睨む姿を、2人はただ見つめていた。
◆
「もぉいいでしょうっ! 羅針門、閉じて」
軋む音を上げて二枚の扉はゆっくりと閉まる。2匹の怨霊は消えると、バチンと弾けるような音ともに圧縮された空気が吹き荒れた。
「お前、ちゃんと閉められる様になったんだな」
「はいっ! もうコツは掴みました」
呆れ笑いを向けるとタナトスは自信たっぷりにVサインを返してくる。激しい風が止むと夜の採掘場はいつもの静けさを取り戻した。
「やっぱり七死霊門は無敵ですっ!」
いつの間にか覗いた月明かりがタナトスの微笑む顔と、錬金術師が作り出した大量の金塊を照らしていたのであった。
ブックマーク&感想&評価ありがとうございます✨
励みに続けてゆきます(*´;ェ;`*)




