Ep.36 黄金の街
更新再開します!Ep.37は1月20日更新です(*- -)(*_ _)ペコリ
いつもより静かな夜に現れた凄惨な光景に、街のあちこちで悲鳴が飛び交っていた。つい先程、広場で催された道化師による衝撃のショーすらも霞んでしまうほど、街の人々は動転していたのであった。
「ーーフゥゥゥゥ……」
茶けた濃い毛色を纏う熊のような化物は唸り声のような息を吐く。隆々とした筋肉が浮かぶ手には、飛び掛かってきた首なし死体達が握られていた。ジタバタと動く胴体をまるでリンゴのように握り締めると、首なし死体の身体は簡単に千切落ちた。
「すげぇ……キルビート、お前こんな技隠してたのかよ」
「カッコいいっ! 熊さんに変身したんですね!」
レヴァナントとタナトスは、目の前に現れた半獣の怪人に驚きの歓声をあげていた。
「ここは僕が相手します。早く錬金術師を……」
僅かに聞き取れる言葉を話すと、獣のような姿で吠えるキルビートは錬金術師パレス・プラナロムの作り出した首なしの死人を穿つ。夥しい死人が迫り来る街道を、獣とも人とも言えぬ姿の怪人は血飛沫を撒き散らして暴れまわるのであった。
「……あぁ、向こうは任せとけ。お前の恩人にはキチンと礼を返しといてやる」
「道化師さん、これが終わったらまた変身見せてくださいねっ! 」
荒れ狂う獣人が2人のゆく道を開くように、死人をなぎはらう。隙間を掻い潜り2人は、遠くで聞こえる悲鳴を追って走りだした。
「ヴォヮァァァアーー」
道化師の仮面を身に付けた獣は、行く手を阻む不死の兵隊に雄叫びを上げて向かってゆくのであった。
◆
「クソ、こっちもか!」
悲痛な絶叫が響く道をひた走る2人は、途中襲い来る首なし死体達を切り抜けて進んでいた。
「この先って、昼間に行ったところじゃないですか?」
タナトスの言葉に辺りを見渡す、確かに昼間に事故現場へ向かっていた道筋と同じだ。
「あのヤロウ。逃げてるのか何か企んでいるのか……とにかく、今は奴を追うしかないな」
駆け抜ける夜の街中の光景は昼間とは全く別で、不気味な首なし死体が動く地獄絵図のように変わっていた。2人は気にも止めず走る、ずっと後ろの方で聞こえる雄叫びに全てを任せる事に決めていたのであった。
「道化師さんがきっと助けてくれますからっ! 今はごめんなさいっ!」
迫り来る死人を抜けながら、隠れる街の人々に向けてタナトスは叫んだ。
「こっちか?!」
レヴァナントの鼻腔に今しがたの吹き出たばかりの新しい血の匂いが届く、すぐにタナトスの襟を掴むと路地を曲がった。
「レバさん、痛いですよぉ……」
「少しくらい、我慢しとけッ!」
点々と滴る血糊は導くように、2人を採掘場まで向かわせるのであった。
◆
「こっちであってるんですか?」
「わからない。だが、血糊はまだ続いてる」
気がつけば街の明かりは2人の遥か後ろ、ずっと遠くに光って見えた。反対に街中を抜けた先には、暗く伸びた一本道しか見えない。
「あそこ、誰かいますよっ!」
タナトスが指差す暗がりに、確かに何かの影が揺れたように見えた。
「やっと追いついたか?」
数メートル先すらも霞むほど薄暗い道を進む2人の視界に、細く揺れる人陰を捉えていた。宵闇に溶け込む岩肌を前に、僅かに浮かぶ極彩色。
「わざわざ街から出たのは、逃げる為じゃなかったのか。錬金術師なんて言っても、ただの腰抜け野郎なのかと思ったぜ?」
いち早く追いついたレヴァナントは挑発を込めた皮肉を吐き捨てる。岩山に両手を伸ばしたパレスは、顔だけ振り向くと不気味な笑みを浮かべたまま呟いた。
「……さっさと逃げれば良かったのは、お前らの方じゃないか?」
顔の半分を歪めたパレスは、一層に不気味な表情を浮かべた。
「さぁ、今度は終いにしようかッ!」
レヴァナントは銃と剣を抜くと飛びかかる。先程から続く研ぎ澄まされた感覚は、確かな勝利の手応えを感じていた。
「……バカな奴だ。ここならワタシは何よりも強い武器を使える」
不適に笑い声を上げたパレスは彼の猛攻を迎えるように両手を広げた。
「悪いが、今度は確実に仕留めてやるよ」
狙いを定めた銃口から火花が吹き上がる。
「鉛など効かぬわッ!」
パレスの眼前で弾丸は弾かれた。
「純粋な黄金の前に、劣悪な鉛玉など傷すらつけられない。ワタシの操る錬金術は、この金脈を操る事でさらに強くなる」
放たれた弾丸は全てを弾き落とされる。パレスの前に立ち上る黄金の岩壁は、屈強な防壁のように阻んでいた。
「お前が不死の力で死なないのなら、動けないように塞ぐだけさ」
足元が不自然に盛り上がると、再び岩柱が伸びる。茶けた地面の色とは違う黄金の土が勢いよく伸びると、両足に巻き付いた。黄金は液体のように立ち上ると、すぐに固まり強固に絡み付いてレヴァナントの足を固定した。
「クソッ、なんだこれ?!」
声をあげる僅かな間、身体に絡み付く金色の岩柱はレヴァナントの自由を奪う。
「純金の拘束具なんて、贅沢だと思わないか? 金塊に包まれて死ねるなんて、これ以上無い最期だね」
絡み付いた黄金は瞬く間にレヴァナントを覆い尽くす、身動きの取れないまま黄金に輝く石像に変えられてしまった。
「そのままずっと黄金に抱かれて窒息していな! さぁ、今度はお前だよ。憎たらしいガキ……」
黄金像に背を向けて振り返ったパレスは、目の前に現れた不可思議な物体に言葉を止めていた。
「さすがレバさんっ! ちゃんと印を飲んでくれてたんですね」
暗い夜の採掘場でぼんやりと白く輝くローブ。薄紫の髪を揺らす少女の後ろには、巨大な二つの方開き扉が現れていた。赤色と青色の扉は鈍い音を上げ、ゆっくりと開き始める。
「七死霊門、羅針門開きますっ! 」
二つの扉は勢いよく開かれるのであった。
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