Ep.34 道化師と錬金術師
Ep.35は1月14日更新です!
フェラリオ・シャービルと名乗る老婆は雄叫びをあげた。辺りの大気は奇声に震えるかの如く、激しく揺れる。広場の異変に気がついた街の人々も、様子を伺いに集まりはじめる。
「ここは危険だ、こっちに来るな!」
レヴァナントは集まる人々に向けて叫んだ。しかし好奇心で集まりだした人々には彼の注意など気にも止めず、続々と足を進めている。
「もう遅いよ、バカな奴等も巻き込んでやろう」
フェラリオは両手を掲げた。虚空の夜空に怪しい光が射すと、暴風は勢いをまして老婆の回りに集まってゆく。
「一体なにする気だッ……」
激しい砂埃にレヴァナントは顔を背けながら薄目に2人を見た。膝を付いて堪えるキルビート、タナトスは両手でローブを抑えている。
ーー転生変換術、【アルケミスト】……
フェラリオの声が微かに聞こえると、風は竜巻のように空へ伸びて消えたのであった。
◆
「あれが、さっきの婆さんなのか……?」
「な、何故、そんな……確かに死んだはずなのに」
「別の道化師さんだ!」
竜巻が消えると同時に、フェラリオの姿も消えていた。老婆の立っていた場所には全く別のシルエットが立ちすくんでいたのである。
「バカな婆さんだねぇ。あんたに力なんて譲るワケないだろぉ? ほんと、笑えるわぁ」
悲哀の表情を浮かべた道化師の面、極彩色の派手な衣服を纏ったその人物は高笑いでおどけていた。
「ど、どうしてっ?! 貴女がなぜ生きてるのですかっ!」
キルビートの声は震えていた、愕然とする彼の言葉におどけた道化師はゆっくりと振り向く。
「あらぁ? 誰かと思えば愛弟子のキルビートくんじゃない。お久しぶりねぇ」
独特な口調の道化師は面をずらして3人を一瞥すると、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「確かに私は一年前に一度死んだわぁ。けどワタシ蘇ったのぉ、おバカなお婆さんとおバカな街の人達のお陰でねぇ」
哀哭の道化師はチラリと視線を流した。集まりはじめていた街の人々は姿を消している、何かを察したレヴァナントはすぐさま銃を構えた。
「お前、何をしたッ?」
「あらぁ? 孤独な憤怒の道化師のはずなのにお友達ができたのぉ? それも、ひどく物騒なお友達ねぇ」
仮面を外したもう一人の道化師、下から現れた中性的で無機質な顔は死人のように血の気が感じられない。不気味なほど大きく口を歪ませて笑うその人物に思わず3人は後退るのであった。
◆
「パレス・プラナロム。先代の道化師で、僕を拾ってくれた恩人です……彼女は一年前、落石事故の現場で逃げ遅れた人達の助けに入って亡くなっています」
まだ信じられないといった様子のキルビートは、口を開けたまま固まっている。
「ご紹介どうもありがとぉ。だけど幾つか間違ってる、落石は事故じゃなくてあの婆さんがワタシの力を使って起こしていたのよぉ? まぁでも、姿を隠すには好都合だったけどねぇ。それと、ワタシはもう道化師じゃないのぉ。転生変換術でようやく本来の【アルケミスト】に戻れたのよぉ?」
「お前もイスカリオ達と同じ、邪教の仲間なのか?」
銃を握る手に力が入る。レヴァナントはもう片手で腰の剣を抜いた。
「邪教ぉ? ワタシ達、そんなダサい呼び方で呼ばれてるのぉ? 貴方、カトブレパスの事知ってるのねぇ。アイツはデカイだけの能無しよねぇ。不憫すぎて笑っちゃう」
パレス・プラナロムと呼ばれた女性はケラケラと高らかに笑い声をあげた。
「キルビートくんにそんなに慕われてたなんて嬉しいわぁ。でもねぇ、元々私は私の為に道化師を演じてただけよぉ? 転生変換術には、とっても沢山の人間という餌が必要なのぉ。岩山に金塊という餌を撒いて人を集めてぇ、良い素質を持った人間が食べ頃になるまでじっくりと待ってぇ……」
パレスはうっとりとした表情で語り続ける。
「貴方が替わりに道化師を続けてくれたお陰で、ワタシは好きな時に現れて自由に捕食できたわぁ。さっきのおバカな婆さんも、ワタシの貸してあげた力を使って何人も岩山に餌を運んでくれた。終いには自分の命を使ってワタシを呼び戻すなんてねぇ。この街の人間ってほんと可哀想よねぇ、頭が緩すぎて。ウッフフフ……」
クレストリッジで起きたすべての元凶を目の前にしたレヴァナントは、今にも飛びかからんと構える。横に立つキルビートは愕然としながら、立ちすくむ事しか出来ずにいたのであった。
◆
「あの……もう一人の道化師さん……」
ずっと黙って見ていたタナトスは、おずおずと口を開く。
「あらぁ? 可愛いお嬢さんねぇ、なぁに?」
パレスは不気味な笑みで彼女に応えた。
「あの……大牛さんのほうがでっかくて、凄く驚きました。もう一人の道化師さんも、もっと何か出来ないんですか? 」
彼女の言葉にパレスは固まった。張り詰めていた空気の中て飛び出した彼女のとぼけた発言に、レヴァナントは思わず吹き出して笑ってしまう。
「……なんなの、このガキ。ワタシがカトブレパスより芸がないって言いたいのかしら? 気分悪いわね」
パレスの表情はみるみる内に歪むと、口調が変わるほど不快を示していた。そんな姿を前にしてもタナトスはつまらなそうに口を尖らせるのであった。
「……いいわ、アンタからバラしてあげる」
無機質なパレスの顔から不気味な笑顔が消えると、青筋が幾つも浮かび上がってゆくのであった。
ブックマーク&評価&感想ありがとうございます!
まだまだ続きますので読んでいただけると嬉いです(*´艸`)




