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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
北の大国【魔法国家ネストリス】編

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Ep.31 独裁者の呪い

Ep.32は1月8日更新予定です!

昨晩のお祭りの騒ぎは嘘のように引いて、朝を向かえたクレストリッジの街はそこに息づく生活を映していた。採掘作業に向かうのか、男達は皆大きな荷物を抱えて同じ方向へと向かっている。レヴァナントとタナトスは行き交う人々の生活を眺めながら歩いていたのであった。


「たしか……こっちです」


 建物の間、細い道を進む彼女が手招きしている。


「いったい何があるっていうんだよ?」


 タナトス曰く【面白そうな所】を目指しているらしいが、一向に何があるのか語ろうとしない。なにより昨晩自分を探していた中で、なぜこんな要り組んだ場所へ足を踏み入れたのか。嫌な予感しかしないレヴァナントは渋々、彼女を追いかけていた。



「あった、あれですよっ!」


「なんだ、これ……」


 彼女が指差す先には崩れた石像のようなモノが建っていた。朽ち果てた石の塊は恐らく人の形を成していたのだろう、頭と思われる部分は無惨にも砕かれている。

 明らかに人為的に破壊された石像。それを崇める様に囲う沢山の供物、信仰の対象と言うにはあまりにもちぐはぐな代物がそこに佇んでいた。どこか狂気染みた不気味な違和感を、石像を見たレヴァナントは感じていた。


 ーーあんたら、旅の人か?


 石像を眺めていた2人は、後方からの声に振り向いた。

 

「気色悪いだろう? それは昔、この街を占領していた独裁者の像さ」


 振り向いた先で立つすすけた衣服を纏った老婆は、皮肉めいた口ぶりで話をつづける。


「長い間この街はコイツに牛耳られていた。傍若無人の守銭奴シャービル。金脈を独占したその男は大枚をはたいて傭兵を雇い、暴力で労働者達を征した。その頃のこの街はさ、昼でも葬式のように暗い雰囲気だったよ」


 老婆の話に時折首を傾げるタナトスは、難しい言葉の意味を何度も尋ねてくる。適当に応えながら、レヴァナントは老婆に質問するのであった。


「この朽ち方を見るに、暴動でも起こったのか? 」


「あぁ……そうだよ。この街に現れた一人の奇人によって、街の人々は活気を取り戻した。そして独裁者を倒す為に決起を起こしたんだよ」


 老婆は寂しそうに笑うと言葉を続けた。


「だけど……それが本当に良かったのか。あの道化師(クラウン)が現れて、確かにシャービルによる抑圧は無くなった。だけどね、それまでは殆んど無かった採掘事故が増えたんだよ。それも不自然な事故がね。この街は今、事故で親を失くした子供が増えているのさ。可哀想にねぇ……」


 老婆はそう言って視線を逃がした。その先で子供達が老婆に向けて手を振っている。


「そんなの、ただの偶然だろ。まさか、採掘事故の原因が独裁者の呪いだとでも言いたいのか?」


 つい語気を強めたことに気がついたレヴァナントが軽く謝ると、老婆は自嘲染みて笑う。


「そんなワケ無いさ。それでもこれだけ辛いことが続けば誰でもすがりたくなる、それがどんなに憎んだ偶像でもね」


 老婆はまた、寂しそうに石像を眺めていた。


「あんたらもこの街に長居はしない方がいいよ。奴の呼ぶ不幸に魅入られてしまう、あの道化師(クラウン)のね……」 


 老婆の言葉に返そうとするレヴァナントの耳に、全く別の声が先に届いた。



 ーー東の採掘場で落盤事故だッ!


 街の遠くから叫び声が聞こえた。薄い笑いを浮かべた老婆は再び口を開くのであった。


「呪いだよ。シャービルがまた道連れを持っていったのさ……」


 走り去る2人の後ろ姿を見つめて、老婆は不気味に嗤っていた……



 ◆



「誰かぁ、手を貸してくれッ!」


 崩れた岩穴に土まみれの男達が群がっている。土煙をあげる穴に向かい、中の安否を確かめる男達の怒号は虚しくかき消されてゆく。雪崩のように滑り落ちて入り口を塞いだ岩石は、いまだに地鳴りをあげて揺れていた。


 レヴァナントとタナトスは叫び声を辿り、街を抜けてすぐの採掘場まで駆けつけていた。崩れ落ちた岩穴を見るに、思わず先程の老婆の言葉を思い出してまう。


「さっきのお婆さんの話、これですね」


「……独裁者シャービルの呪い。まさか、そんなワケあるか」


 先に口にしたタナトスの言葉を否定するように頭を振る。視線を周りに向けると、街の人々も採掘場の叫び声を聞いて続々と集まり始めていた。



 ーーそんなっ、嫌だっ! 父さんを早く助けてよっ 


 子供の泣き叫ぶ声が聞こえる、よく見れば昨晩の少年が嗚咽混じりに騒いでいた。声を掛けよう動いた時、嗅ぎなれた臭いが鼻をついた。戦場で幾度と嗅いだあの焦げ臭い匂い、間違いない。


「まさか……」


 レヴァナントは必死に叫ぶ作業員達を掻き分けると、落石現場の周囲を調べ始めた。


「レバさん、また崩れてきたら危ないですよっ!」


「……やっぱりな。誰か、岩場が崩れた瞬間を見た奴はいないか? 」


 レヴァナントの問い掛けに、押し寄せた人々はたちまちざわめく。暫くすると一人の男が恐る恐る前に出て来たのであった。


「と、突然、採掘穴の入り口が爆発したんだ。あんな場所に、爆薬なんて置いていないはずなのに……」


 震える男は、崩れ落ちた岩穴を指差して話した。黒く焼け焦げた地面をなぞるレヴァナントは、集まった人々を見渡して叫ぶ。


「これは呪いなんかじゃない! 誰かが爆弾を使って落盤させたんだッ! 起爆させた奴が何処かにいるはずだ」


 レヴァナントの声に群衆達からは再びざわめきが起こると、集まった人々は疑心暗鬼に騒ぎ始めた。


「お、おれは見たぞっ! 爆発する少し前に……この辺りをウロウロしていた奴……」

 

 事故で傷を負ったのか、片腕を抑えた男が声をあげていた。


「どんな奴だった?」


 レヴァナントが興奮気味に詰め寄ると、男は腕が痛むのか苦悶の表情を浮かべながら答えた。


「く、道化師(クラウン)だっ! 後ろ姿しか見てないがあの衣裳、間違いないっ」



 ざわめきは先程よりも大きく群衆を揺らす。群衆があげる声は昨晩の道化師(クラウン)に向けられたものとはまるで違う、強い憤りが込めらたモノに変わっていたのであった。

 


 


 



 

 

 

 







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