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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
北の大国【魔法国家ネストリス】編

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Ep.30 クレストリッジの酒場

「すいません、目つきが悪くてボサボサの黒髪の男の人をどこかで見ませんでしたか? 」


 鉱脈の街クレストリッジの街中で、タナトスと馬車の御者は行き交う人々に尋ね歩いていた。宿に戻った彼女は、事のいきさつを御者の男に伝えた。そのまますぐ2人は、舞台の後突如何処かへ消えたレヴァナントを探して街中にくり出したのであった。


「まったく、なんて勝手な人なんだっ!」


 御者の男は苛立ちながら呟いて眉を吊り上げている。タナトスは時折、あちこち煌めく街中を眺めながら尋ね歩いていた。一際目を引く電飾の店に目を留めると、彼女は賑わう酒場の店員に声をかけた。


「ああ、そんな風貌の男なら奥の席でのんでるよ」


 恰幅の良い店員はそう言うと奥テーブルを指差す。


「レバさんいたっ! 一人だけご飯なんてズルいですよっ」


「レヴァナントさん何してるんですか! 心配しましたよ」


 2人はそれぞれ苦言を吐きながら近寄ってゆく。テーブルを挟んでレヴァナントは、見知らぬ男と酒を飲みかわしていたのであった。



 ◆



「あれ? タナトス、それに御者さんまで。ちょうど良い、こっちに座れよ!」


 頬を赤らめたレヴァナントはいつもの無愛想は影を潜め、上機嫌に2人に話しかけていた。


「その人は誰ですか?」


 タナトスは彼の向かいに座る男を見て尋ねる。


「ん? あぁ、街の人気者だってさ」


「ちょっと、ちょっとぉバンシー君! 私の正体は秘密なんですよぉ」 


 レヴァナントよりもさらに赤い顔をした優男は、しゃっくりまじりにおどけている。ヘラヘラと笑う2人に御者の男は、苛立ちを募らせた様子で帰りましょうと促した。


「なんだよ、御者さんも一緒に飲もう! 今夜は全てこの人気者キルビート・ビー・トラストさんが奢ってくれるらしいぜ? 」


「えぇっ?! ……まぁ、いいでしょう、友人の頼みなら仕方ない! いくらでも頼みなさいっ」


 酔っぱらい2人を暫く不快な目で見ていた御者であったが、いつの間にか勧められるままに酒を飲まされているのであった。タナトスは勝手に料理をいくつか注文している。いつの間にか、テーブルの上には大量の料理と酒が並ぶのであった。



 ◆



「それよりレバさん、何でこんなところにいたんですか? 私はてっきり道化師(クラウン)の所に向かったんだと思ってました」


 モゴモゴと口を動かしながらタナトスは尋ねる。


「なに言ってんだ? だからその道化師(クラウン)と一緒にいるじゃないか」 


 レヴァナントはグラスを傾けながら目線で促す、視線の先にはすでに真っ赤な顔をしたキルビートがうわ言を呟きながら居眠りをし始めていた。


「この人が道化師(クラウン)ですか? 意外に普通の人ですね」


 皿を片手にタナトスは項垂れた優男の顔を覗き見ている。


「話を聞いたら可哀想な奴でな。話を聞く流れでいつの間にか一緒に酒場まで来ていた」


 グラスの残りを飲み干す。レヴァナントの顔はいつの間にかいつも通りの顔色に戻っていた。



「ーーぼくぅわぁね、このぉ街にキボーをあたぁえ、与え……」


 うわ言を漏らしてながらだらしない顔で唸る、終いにはテーブルに突っ伏して眠るキルビートをタナトスは笑って見ていた。


「まぁ、邪教や転生変換術(コンバートネイション)とは無関係らしいし。怪しいヤツではないだろう」


「転生術って言ってたのは?」


「只の魔法だとさ。それもかなりチープなヤツで驚いた」


 タナトスの前に並べられた料理の皿を一つ取ると、レヴァナントは食べながら話を続けた。


「コイツも戦争経験者で、あの大戦で家族を失くしたらしい。喪失感にさいなまれてさ迷った挙げ句、この街にたどり着いたんだとさ」


「あっ、それ私のなのに! もう一個頼みます」


 食べ終えた皿を置く彼を見て、タナトスは喚いていた。


 「道化師(クラウン)ってのも、元々は採掘事故で親を失くしたの子供達を元気づける為に始められた事らしい」


「へぇー……」


 タナトスの興味はすでに目の前の料理に向いていた。


「ーー良い話じゃないですかっ! 貴方はなんて健気な方なんだ。僕だって……」


 突然の叫び声に2人は驚いて顔を上げた、先程から黙々と酒をのんでいた御者が真っ赤な顔をして涙を流している。すっかり眠りこけたキルビートを揺すりながら、御者は嗚咽混じりに声をかけていた。


「一番酔っ払ってんじゃねぇか」


 苦笑いでレヴァナントは御者を宥める。夜の不死者の彼は、いくら酒を飲んでもすぐに醒めてしまう。泥酔する2人の男を眺めて笑うタナトスは、まだ何か食事を頼んでいるのであった。



 ◆



 翌朝……レヴァナントとタナトスは出発の時間になっても一向に現れない御者の部屋を訪れていた。


「すいません……今はちょっと馬車、動かせないです」


 そう言い放つと、嗚咽混じりに顔色の悪い男はすぐに部屋へと戻る。昨晩の泥酔で御者の男は完全にダウンしていた。


「こりゃ今日中は無理だな。もう一日くらいゆっくりしてるか」


「やったぁ! まだこの街見てまわってないですからね」


 呆れ笑うレヴァナントと、はしゃぐタナトスは宿を後にした。



「そういえば、昨日レバさんを探しに行く途中に面白そうな所があったんでした! 今から見に行きましょうっ! 」


「面白そうな所? また妙な場所じゃないだろうな」


 怪訝に眉を歪めるレヴァナントは、一人先に走り出した彼女を追いかけるのであった。


 




 


 

 


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