Ep.28 クレストリッジの怪人
Ep.29は12月27日更新予定です!
空は雲一つない晴天。馬車にのる2人は穏やかな車窓の風景を眺めていた。街から離れてかなり立った頃には、望む景色は緑豊かな大自然に囲まれていた。
「運転手さん、王都まではどのくらいでつくんだ? 」
レヴァナントは馬車の御者に尋ねた。揺れる車窓は瞬く間に流れてゆく。
「そうですね、走り続ければ一日程度といったところでしょうか」
「い、一日? 乗りっぱなしでか?」
御者は微笑んで応えている。想像以上の長い時間にレヴァナントはあれこれと注文をつけてるのであった。
「て、手近な街で休憩兼ねて、休んでいこうよ! ねぇ、そうしようッ!」
御者は不思議そうに見つめ返したが、レヴァナントの意向を組んだのか今夜は近くの街に泊まることにすると言う。
「レバさん見てください! あそこのデッカイの何でしょう?」
タナトスは車窓に見えた大きな彫刻に目を輝かせている。魔法と宗教の大国ネストリス、この大国には様々な信仰の神仏が立ち並んぶのであった。
◆
2人を乗せた馬車は西の街アマルフから南にある王都ネストリアを目指してひた走っていた。御者の男曰く、このまま順調に進めば夕方頃にはクレストリッジという街に到着するらしい。今晩はそこで休息と食料の調達をする事にしたのであった。
「御覧ください。前に見えるのが鉱脈の街クレストリッジです」
騎手は前方を指して2人に語りかけた。すでに日の暮れ始めた夕闇の中、遠く先にぼんやりと灯りが見える。いつの間にか眠りについていたレヴァナントは騎手の声で目を覚ますと、言われるままに顔を出して見据えるのであった。
「ふぅ……ここまでで、一体どのくらい進んだんだ?」
背伸びをしながらレヴァナントは御者に尋ねた。
「王都まではまだ三分の一といった処でしょうか。今日はあの街で休息を取って、明朝早くに出れば明日のこの時間には到着しますよ」
御者の言葉に口を開けたまま固まるレヴァナントは、想像以上の長旅に絶句したのであった。
……スゥー……スゥ……
ふと隣を見るとタナトスはまた眠りについていた。
「着くまでは寝させとくか。起きたら起きたでうるさそうだ……」
呟いたレヴァナントは車窓の外を見渡す。辺りはすっかり禿げ山に囲まれていて、小さな穴が幾つも掘られている。鉱脈の街と言うだけあって、採掘者達が夕暮れにも関わらず煌々と灯りを灯している。御者の話によるとこの街の近くでは金が取れるのだと言う、多くの労働者は一攫千金を目指してここに集まってくるらしい。
「昼間は活気のある良い街なんですが、いかんせん柄の悪い労働者も多い。夜はあまり治安が良くないと聞きます。今晩はすぐに宿へ向かいましょう」
御者はそう言うと街の中へと馬車を進めるのであった。
◆
「うわぁぁぁっ! すごぉーい!」
目を覚ましたタナトスは、起き抜けに見たきらびやかな景色に声をあげて騒いでいる。街の中へ入った瞬間、強烈な照明灯と騒がしい賑わいに圧倒された。
「所謂、ゴールドラッシュというヤツです。先程言った通り夜は治安が悪くなる、それを抑圧させる目的で連日このようなお祭り騒ぎが催されているのですよ」
御者の説明に納得するレヴァナントもタナトス同様、きらびやかな光景に目を丸くしていた。
「な、なぁ。せっかく来たんだ、少し位街を見てまわっても構わないか?」
「見たい、見たいっ!」
レヴァナントとタナトスの騒ぎ様に御者は眉を歪めると、宿の場所を2人に告げて馬車を停めに向かうのだった。
「あんまり遅くならないで下さいよ? ミネルウァ様から無事に王都まで送るよう言われているんですから」
苦言に苦笑いで返す、すでにあちこち歩き回るタナトスを捕まえるとクレストリッジの街を見てまわるのであった。
「レバさん見てください、あそこで何かやってますよっ!」
彼女の指差す先に人だかりが見えた。街中の一角、広場のように開けた場所で何かの催し物が行われているようだ。
人だかりの中へと潜り込む2人は最前の様子を伺うのだが、群がる人だかりにまるで先が見えない。
「一体何の集まりなんだ?」
レヴァナントは背伸びをしながら人混みの先へと視線を伸ばした。タナトスは隣で何が見えるかと騒がしく尋ねている。
ーーおじさん知らないの? 今日のメインイベントだぜ?
不意に話しかけられたレヴァナントは周囲を見渡す。すぐ隣で一人の少年がこちらを向いて笑っていた。
「お、おじさんって俺の事か?」
ひきつった笑みを浮かべたレヴァナントは少年に尋ねた。無邪気に笑う少年は頷くと人混みの先を指して得意気に話す。
「これから憤怒の道化師のショーが始まるんだ! すっげぇカッコいいんだぜ!」
少年はさらに自慢気な表情で舞台の上に大きく張り出された横断幕を指差す、雑踏の頭で所々途切れて文字が見える。
「クレストリッジの怪人……【 憤怒の道化師】……なんだそりゃ?」
書かれた文字の意味が全くわからない、レヴァナントは首を傾げる。
「なんだ、おじさん達街の外から来たのか? 特別に1番良い場所で見せてやるよ。ついてきなッ!」
少年はレヴァナントとタナトスの腕を掴むと、人混みから離れるように引っ張る。何か楽しそうなモノが見れるとタナトスは喜ぶ、納得のいかないレヴァナントは少年に何度も叫んでいた。
「俺はまだ25だ、おじさんなんかじゃないッーー」
少年はお構いなしに2人を引っ張るのであった。
◆
《ーーお待たせいたしましたッ! 本日のメインイベントのお時間ですッ! 》
広場中央の舞台からアナウンスが流れると、集まった群衆から一斉に歓声が響く。
《ーーさぁ、お集まりの皆さんの熱気も上がってまいりました! 舞台は整ったッ! それでは、登場して貰いましょう》
群衆の活気は最高潮に達し、思い思いに声を上げる。
《ーークレストリッジの怪人ッ! 我らが二代目【 憤怒の道化師】の登場だぁぁッ! 》
舞台の照明が落ちると辺りが静まる。不気味な光が一筋、また一筋と走ると破裂音と共に人影が姿を表した。
歓声の声は一段と大きく響き渡る、舞台に再び照明が灯ると中央で深々とお辞儀をする長身の人物が現れたのであった。
「あれが憤怒の道化師てヤツなのか? 」
「うわぁ! 何だか凄そうっ!」
少年に引き連れられ、2人は広場のすぐ横に立つ建物の屋上にいた。二階建ての屋上から舞台はすぐ側で見える、覗き込むように身を乗り出す2人に少年が慌てて引っ張る。
「あんまり頭出しちゃダメだよっ、見つかったらこの建物の持ち主に怒られちゃうーー」
少年の小声を書き消す様に、舞台から再び大きなアナウンスが流れた。
《ーー今宵も見せて頂きましょうッ! クレストリッジの怪人による【転生術の奇跡】をッ! 》
「ーー転生術ッ!?」
レヴァナントは少年の制止を無視して更に身を乗り出していた。
舞台上に立つ怪人は貴族のような束帯を纏い、その顔は悪鬼の様な形相の真っ赤な道化師の面で隠れている。怪人はゆっくりと妖しげな動きを始めるのであった。
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