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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
北の大国【魔法国家ネストリス】編
27/198

Ep.27 その後のアマルフ

Ep.28は12月25日更新予定です!


 あれから数日、俺達は港街アマルフにいた。ずぶ濡れで街の警備隊に駆け込んだ俺達は事のあらましを告げると、彼等の手厚い施しを受けたのだった。


 重症のミナーヴァはすぐに手当てを受けて一命を取り留めていた。医者の話ではかなり危ない状態だったそうだ、彼女の回復を祈りながら俺達は暫くこの街に滞在することにしていた。


「本当にこっちであってますかね?」


「あぁ、この道でいいはずだ。そうだろ、警備兵さん?」


 タナトスと俺には護衛と称した警備兵士がつけられていた。ミナーヴァが回復して詳しい説明があるまでは、事件の重要参考人として監視下に置かれるのだろう。


「ええ、そうです。この道を五分ほど進めばメイソンの働いていた牧場に着きます」


 無愛想な警備兵に頭を下げて応えると、荒れた道を進む。

 街を抜けてかなり歩いた頃、小さな牧場は姿を現した。疲れた様子のタナトスはずっと文句を言っている。


「御免下さい。我々はアマルフの自警団の使者です」


 兵士は小さな小屋の扉を開けて尋ねた。暫くして老夫婦が顔を出し、俺達を部屋に招いてくれた。


「この度は御愁傷様です。メイソンは先の企てに勇敢に立ち向かっておりました」


 兵士の言葉に老夫婦は目頭を押さえて声なく涙を飲み込んでいた。そんな姿に胸が締め付けられる。


「こちらこそ、この度は手前どもの従者が大変にお手間を掛けさせてしまい。申し訳ありません」


 老夫婦は取り直した様に深々と頭をさげる。警備兵と俺は老夫婦の仕草を噛み締める様な表情見つめると、頭を下げて応える。タナトスだけは首を傾げていた、すぐに頭を押さえて下を向かせた。


「メイソンは……あの子は元々、戦災孤児で家に来た頃はとても反抗的でした。ですが、いつの間にか辛い過去を乗り越えて私達夫婦を支えてくれたのです。あの子はきっと戦争を憎んでいた、だから一人で争い事の中に身を投じたのでしょう」


 老夫はなにか思い出を思い返すような遠い瞳で語る。胸の奥が熱くなるようで、冷たくなるような感情を覚える。老夫婦は取り直した様に笑顔を見せると、これからの生活について話していた。世継ぎを失った老夫婦はこれを期に牧場を畳むのだと言う。


 込み上げる感情のまま、口を開いてしまった。


「メイソンは、最後までお二人の事を案じておりました。そして、これからの牧場の事も。どうか、彼の意向を組んであげてください」


 俺の言葉を聞いた途端、老夫婦は再び泣き崩れて膝をついた。夫婦に向けて深々と頭を下げると、牧場を後にするのであった。



 ◆


 

「レバさん、メイソンさんからそんな言葉をいつ聞いたんですか?」


 タナトスは不思議そうに尋ねてきた。


「いいんだよ。誰も傷つかない嘘なら、誰も困らない」


 そう言うと彼女は再び首を傾げる、同行した警備兵だけはなぜだか涙を堪えて頷いていたのであった。


 街へと戻る街道でアマルフの景色を眺めた。せっかくこの街に詳しい警備兵がいるのだ、使えるものは使っておこうと色々と案内を頼んでいた。


「あっ! あれ見て下さい!」


 街の中央広場まで戻るとタナトスは何かを見つけて走り出した。大きな噴水があしらわれた広場に、白い特殊な修道着を纏った女性が立っている。金色の長い髪を揺らした女性は俺達を見つけると、ゆっくりとこちらに近づいて手を振っていた。


「ミナーヴァ、もう怪我はいいのか?」


「えぇ。医療系の魔導士のお陰で、全快とまではいきませんが」


 ミナーヴァは包帯の巻かれた右腕を上げて微笑んでいた、呆れた様に笑い返す。


「ミーネちゃんが元気になって良かった」


 タナトスは彼女に飛び付く、病み上がりに無理をさせるなと引き離そうと焦る。そんなミナーヴァは笑っていた。


「2人共、今回の件は本当に感謝します。あなた達がいなければこの街も危なかった、本当にありがとう」


 かしこまった彼女の言葉に照れるタナトス。これには俺自身も動揺したのであった、すぐに頭を上げてくれと頼む。


「それで、これからお前はどうするつもりなんだ? 」


 ミナーヴァはすぐに応えた、固い意思が彼女の瞳に映るのがわかった。


「私はこれから王都ネストリアへ向かいます。恐らくこれから奴等は各地から攻めてくる、五賢人の助けを請うつもりです」


「そうか、なら俺も王都に向かう」


 俺の言葉にミナーヴァは目を丸くして聞き返してきた。

 

「奴等の口ぶりは、俺の不死身の秘密を知っているようだった。個人的な理由だが加勢させて貰いたい」


 今度はこっちが頭を下げる、ミナーヴァは慌てると暫くして口を開いた。


「ありがとう。……正直に言うと助かります。私一人ではあまりにちっぽけだと、先の戦いで学びましたから」


 ミナーヴァは躊躇いながら話していた。手を差しのべると固く握手をするのであった。


 



 ◆



 

「私はこれから転移魔法装置で王都へ向かいます。2人にはこれを」


 ミナーヴァは何か手渡してきた、見るとそれは十字架の裏側に彼女の名前が書かれたペンダントだった。


「国選魔導士が招いた事を知らせる証です。これを持っていればこの国の何処へいっても咎められる事はありません」


 通行証どころか、かなりの効力がある証あるのだろう。半日付き添っていた警備兵は突然、俺達に頭を下げていた。


「俺達も一緒にその転移何とかってヤツで向かうよ」


 その言葉にミナーヴァは首を横に振っていた。


「転移魔法装置は魔法を扱える魔導士しか通れません。無理にすれば肉体は粉々になり二度と元の姿にはもどれない、お二人は私の手配する馬車で王都へ向かってください」


 彼女の言葉に思わず顔がひきつる。丁重に馬車の手配を頼むことにしよう。


「……それと、これは別の話ですが」


「ん?」


 別れ際にミナーヴァは振り返ると、顔を赤らめて口を開いた。


「こ、今度から宿に泊まる時はタナトスと別々の部屋にしなさいっ! 男女で同じ部屋なんて絶対だめです!」


 突拍子のない彼女の言葉に呆気にとられる。タナトスと目が合うと思わず笑ってしまった。そんな2人にミナーヴァは念押しするように唸っていたのであった。



 ーーそれでは、王都で!


 ミナーヴァはそう言うと足早に去っていった。ふと隣を見る、先程手渡されたペンダントを嬉しそうに首から下げたタナトスが口を開いた。


「レバさん、王都ってどんなところですか 」


 楽しそうな彼女はウキウキと身体を揺らしている。


「さぁ、行ったことなんてないからな……」


「ですよねぇ。楽しみだなぁ」


 楽しげな彼女に、俺は聞きたいことがあった。口にしていいのか少し悩んだ、だけど聞いておかなきゃならない。


「お前さ。七死霊門(セブンホーンテッド)閉められたな」


「はい? ああ! そうですね。私も驚きました」


 彼女は嬉しそうに続けた。


「たぶん、ですけど。私、今まで本気で閉じて欲しいって思った事なかったんです。あの時、2人の姿を見て本気で止めたいって思ったんですよ! そしたらちゃんと閉じてて、ああやって閉じるんだなぁって初めて知りましたっ!」


 あまりにも嬉しそうな彼女に思わず口許を緩めてしまう。それと同時に聞いてはいけないような疑問が、口から飛び出たのだ。


「もう閉めることも出来たし、使いこなしたなら一緒に来なくてもいいんじゃないか? 」


 思わず口をついた言葉に我に帰る、タナトスは顔を下に向けていた。


「あ、いや、来るなって言ってる訳じゃなくてな……」


「うぅーん。父から教わった時、本当の七死霊門はまだ先って言われてたんです。扉は開けられて、閉められるようになったけど……まだ先があるんだと思います」


 タナトスは考え込むように頭をゆらした。


「だから、まだ私はレバさんと旅を続けます。それにまだ、不死身は解除出来てないですしね! 」


 タナトスは満面の笑みを浮かべていた。彼女の無邪気な笑顔に、つられて綻んでしまっていた。


「そうかよ。なら王都目指すかッ!」


「はいっ!」


 2人はミナーヴァが手配すると言っていた馬車場を目指すのであった。

 

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