Ep.24 旅の仲間は
Ep.25は12月20日更新予定です!
夕焼けが辺りをオレンジ色に染めていた。剥き出しの岩肌に囲まれた広い荒野に、幾人もの影を伸ばす。その中で一人、雄叫びをあげるかのような男の声に誰一人として動けずにいた。
「短い旅だったがお前の事、少しは理解してるつもりでいた。無頓着なヤツだが性根は悪いヤツじゃないと思ってた。間違った道に進むなら俺が止めてやる」
レヴァナントの怒りに満ちた表情に、隣に控えていたミナーヴァも動揺した様子でたじろいでいた。
「貴方もそちらにつきますか。残念です、それならば始末しなければならない。メイソン、殺りなさい」
「……はい」
イスカリオ牧師は冷たく言い放った。その言葉にメイソンが動き出すと、辺りを囲んでいた黒装束達もレヴァナントに狙いを定めていた。
「ーーやれ」
メイソンの指示に一斉に飛びかかる黒装束達。
ミナーヴァが何か叫ぼうとしたほんの一瞬の間、黒装束達は鋭い牙を剥き出しにレヴァナントに襲いかかったのであった。
「頭の中が焼けそうな程にムカついてる」
「ーーレヴァナントッ! 」
ミナーヴァの声をあげた瞬間、ほとんど同時に銃声が響いた。背後に飛びかかるウェンディゴと呼ばれた異形の頭部は、粉々に弾け飛んでいた。後ろ向きのまま放ったレヴァナントの弾丸は、標的を視認する事なく意図も容易く急所を撃ち抜いていたのである。
「な、何だと」
動揺するメイソンが次の指示を出そうと声をあげた、刹那に走り出したレヴァナントは足を止めたウェンディゴ達の首を次々となぎ払っていた。
「不思議な感覚だ、まるで頭が幾つもあるくらい思考が廻る。ついでに周りの様子もはっきり見えてきた」
迫り来る敵をすべて撃ち抜いたレヴァナントは空の銃弾を落とすと、瞬く間にとり囲んでいた敵の首を落とす。
「メイソンッ! 何をしている、早く奴等を始末しなさいッ!」
「は、はいッ!」
黒装束の集団はレヴァナントへ向かって飛びかかる、しかし彼の予測不可能な動きに次々と討たれていった。
「負ける気がしねぇな」
直剣を牧師に向けると不適な笑みを浮かべた。凄まじい戦い方にミナーヴァはただ呆然と見ていた。岩場の上から見つめるタナトスは曇らせた表情で見ている。
「さぁ、次来いよ。こっちはまだ魔導士も控えてるんだぜ?」
挑戦的な挑発を吐き捨てると、空のシリンダーに弾を込めた。悠然としたその姿に牧師とメイソンが顔を歪める。
「あの男……産み付けられた実験体が芽を出し始めたか。しかし、まだまだ未熟だなメイソン。ここは我等の新たな同士に任せるとしよう」
イスカリオ牧師はタナトスの肩に手を置くと、彼女に促した。
「タナトスさん、貴女の力を見せてやりなさい! そして我等の行く手を阻む敵を葬り去るのです!」
牧師は高々と拳をあげて叫ぶ、下を向いたタナトスは動かない。
「……どうしたのですか? 貴女の強大な力を我等にーー」
「レバさんは不死を解除したくないの?」
タナトスの声が広場に響いた。すぐさま怒鳴るように応える。
「他人を犠牲に払う願いなら、そんなものはいらない。お前の呪術で死ぬ方がよっぽどマシだッ!」
彼の声は反響した、その言葉を聞いたタナトスは驚いているのか複雑な表情を見せると再び叫び返した。
「わかりました! それならまだ旅を続けられますね」
嬉しそうに笑うとタナトスは背負っていた長い二本の棒を振り回した。顔面に直撃した牧師がよろめく中でタナトスは岩場を駆けおりるのであった。
「我々を裏切るつもりかッ?!」
「裏切るも何も、私の旅の仲間はレバさん達ですよ?」
タナトスは舌を出して吐き捨てた。駆け抜ける周りを黒装束のウェンディゴ達が襲いかかる。
「私も、私の仕事を全うするだけ」
駆ける閃光はタナトスを取り囲む黒装束を一掃する。ミナーヴァは自身の魔法武器を振り回すと叫び声をあげる。
「死者が相手なら加減はしない! 界雷の斧ッ!」
十字架から延びる光は大きな斧のように形を変えてる。なぎ払う一閃は残像を残して辺りを一掃していた。
「残党ども覚悟しとけ」
吐き捨てると同時に銃弾を放つ、レヴァナントの冴え渡る感覚はウェンディゴ達の頭を意図も容易く射ぬいてゆく。いつの間にか取り囲まれた劣勢は、驚異的な力で覆されようとしていたのであった。
「……どいつもこいつも、使えない奴等ばかりだ」
イスカリオ牧師は打ち付けられた鼻を抑えながら呟いた、その姿に怯えたようなメイソンが慌て出している。
「結局、私の力を使わなければならないようだ。雑魚に任せていた私が馬鹿だったよ」
牧師は両手を広げると何か呟いた。メイソンが声をあげようと瞬間、おびただしい何かが牧師のすぐ側に集まってくる。
「そ、それはあまりに危険です! どうか、今暫く……」
「ならぬッ! 貴様も同罪、偉大なる神の一部となるのだ」
叫び声をあげて苦しむメイソンが頭を抑えると、辺りに立ち尽くしていた黒装束達は牧師の元へと吸い寄せられるのであった。
「なにを悲鳴をあげる事がある? 喜びなさい、お前も神の一部となるのです」
牧師は両手をかかげると辺りを不気味な光を放つのであった。
◆
「ミーネちゃん、レバさん! ただいま」
「無事で良かった」
タナトスは勢い良くミナーヴァに飛び付いた。喜びながらも、しがみつく彼女にミナーヴァは少し鬱陶しそうに宥めている。
「馬鹿な事してんなよ、一瞬本気で裏切るつもりかと思ったぞ」
舌を出して謝るタナトスの頭を軽く叩く、レヴァナントもどこか嬉しそうな声色で皮肉を吐いた。
「それより、牧師さん何かするつもりみたいですよ?」
タナトスは今さっき降りてきた崖を指差すと2人に促した。岩壁にめがけて吸い込まれるようにウェンディゴ達が引っ張られてゆく、中心に立っているイスカリオ牧師は何か唱えながら両手を大きく開いていた。
「たしかに、なんだかヤバそうなのが出て来そうだな」
「先程牧師が話していた転生変換術とやらでしょうね」
身構える2人をよそにタナトスは目を輝かせている。尚もウェンディゴ達は吸い寄せられ、黒い煙のように集まってゆく。やがて岩壁の上には巨大な黒い塊が出来上がると、牧師の声が響き渡った。
「これが、私の転生変換術【カトブレパス】である」
黒い塊は怪しげな光を放つとその姿を変えていた。
「冗談だろ……」
現れた瞬間、レヴァナントは言葉を失っていた。
岩壁は巨体に耐えきれず崩れ落ちる、向こう側の空が隠れてしまう程の巨体が揺れる。
3人の前に巨大な黒い山のように聳える、巨大な牛のような怪物が現れたのであった。
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