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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
北の大国【魔法国家ネストリス】編
22/199

Ep.22 ウェンディゴ

Ep.23は12月15日更新です!

ガックリと肩を落とした2人はブツブツとなにか呟きながら動き始めていた、そんな後ろ姿を見ながら何か手伝おうとタナトスは辺りを見回す。


「あぁ、そうだった。タナトスさん、モルタル材の備蓄が少ないので近くのモールス雑貨店まで買いに行って貰えますか? 場所はミネルウァ術士に教えて貰ってください」


 牧師はそう言うと小さな袋をタナトスに手渡した。重さからして金銭が入っているのだろう、タナトスは二つ返事で請け負うのであった。


「ミーネちゃん、雑貨屋さんってどこにあるの? モルなんとかってのを買ってくるように牧師さんから頼まれたの」


「モールス雑貨店? それならこの教会を出て右側に真っ直ぐ行けばありますよ」


 ミナーヴァに店の場所を教えて貰うと嬉しそうに感謝を告げて教会でるのだった。そんな彼女の事を少しも気づかず、レヴァナントは文句を言いながら修復作業に取りかかっていた。



 ◆



 教会を出ると眩しい太陽の光にタナトスは手をかざしていた、右側に見える人混みを見ると楽しそうに走りだす。


「この街もすごく人が多いんだなぁ」


 独り言を漏らしながら進むと目的のモールス雑貨店はすぐに見つかった。店前には多くの人だかりができていて、店内の様子は人壁に阻まれて見えない。背の低いタナトスは群がる客の隙間を器用に抜けて、店主のすぐそばまで近づいていたのであった。


「なんだいお嬢ちゃん。なにかのお使い?」


「はい、モルなんとかって壁を直すための材料下さい!」


「あぁ、モルタルね! どのくらい必要なの?」


 店主の言葉に少し考えるタナトスは首を傾げる、うーんと唸る彼女を押し出すように後ろから他の客が声を挙げていた。


 ーー家の修理に必要なんだ! 親父、ありったけモルタルくれ!


 後ろから叫ぶ声にタナトスはハッとしたように唸る、すぐに負けじと叫ぶのであった。


「おじさんッ、たくさん下さい! 無くなったら大変なんです」


「あいよ! 適当に積めるからちょっと待ってな!」


 タナトスは一安心といった様子で人混みから抜けていた。モールス雑貨店は昼過ぎから二時間ほど休みに入るそうで、駆け込みの客達が押し寄せる時間だったらしい。ひとまず必要な使いを済ませたタナトスは、店主の男が声を掛けてくれるのを待つ間辺りの景色を楽しそうに眺めていたのであった。



 ーー通報があったのはあっちだッ!


 ーー邪教及び、メイソンも重要な参考人だッ!見つけ次第、必ず確保だッ!


 タナトスの目の前を見覚えのある格好をした男達が掛けてゆく。警備隊の男達は叫び声を挙げて路地を左に走り抜けていった。


 ……メイソンって確か、牧師さんが言ってた。


「お客さん! モルタル準備できましたよ」


 「ごめんなさい、それすぐそこの教会に持っていって下さいッ!」


「え?! ちょ、ちょっとッ……」


 慌てる雑貨屋の従者の男に告げると、タナトスは警備隊を追って走り出していたのであった。


 ーー牧師さんとミーネちゃんが言ってた邪教、どんな人達なんだろう。


 タナトスは嬉々とした顔で追いかけていた。



 ◆



 ーー街の外まで逃げたか……追うぞっ!


 アマルフの民間警備隊は一定の陣形を保ったまま森の中を進んでいた。警戒を怠らないよう、四方に目を凝らす警備隊に気づかれないようにタナトスは静かに後をつけていた。


 ーー見ろ! あそこに黒装束がいる


 警備隊の一人が叫ぶと一斉に森の奥へと駆けてゆく。ざわざわと揺れる木々の間に僅かな人影が見えたように思えた、タナトスは離されないよう必死に息を殺して走る。ふと警備隊の周りを見ると、先行する人影の他に何人もの影が周りを駆けているのが見えた。


 ……黒装束、きっと邪教の人達だ。


 先行する警備隊はどうやら、囲まれた事にも気がついていない。必死で追いかける人影に気をとられすぎた為、いつの間にか陣形は崩れていた。気にも止めない彼らは森の奥へと誘い込まれるように進む、やがて開けた場所で行き止まりを食らうのであった。見失った人影を探して警備隊は辺りを警戒している、遅れてついたタナトスは少し離れた草むらからその様子を見ていた。


 ーーう、うわぁぁぁぁッ


 一人の男が叫び声をあげる。槍を構えた警備隊が一斉に振り返ると、突如として目の前に広がる凄惨な光景に誰もが言葉を失くしていた。


 ーーこ、これは、一体ッ?!


 警備隊の一人は膝から崩れ落ちた。頭があるはずの場所からは、噴水のように鮮血が吹き上がっている。


 ……このままじゃ、あの人も達死んじゃうな


 タナトスは視ていた。男が叫び声をあげる一瞬、森の方から黒い装束を纏った人影が飛び出していた。黒装束はフードを取ると僅かな間に男の頭だけをもぎ取ったのだ、武器を使うでもなく易々と。


 ……いち、にい、さん、よん、邪教の人達まだまだいるなぁ


 ーー怯むなッ!皆、背を合わせて四方を警戒ッ!


 警備隊の司令官と思われる男が叫ぶ、血飛沫はやがて勢いを失くし首の無い男はゆっくりとうつ伏せに倒れた。


 ーー隊長、あれをッ!


 一人の男が何処かを指差した。岩の隙間から黒い人影が一人、また一人と現れる。全身黒い色の服を纏う邪教と思わしき者達は、どこかの国の民族衣裳のような独特な装束をしていた。続々と現れる邪教徒達は誰一人武器を持っておらず、それが僅かばかり警備隊の士気を上げていたのであった。


 ーー皆、銃に持ちかえろッ! 奴等は丸腰だ、我々に分はあるッ!


 槍を手放した男達は大きな肩掛けの銃を構えた、西の軍事国家から輸入した大型銃である。狙いを合わせる警備隊はいつでも狙撃できる体勢に入っていた。


 ……ダメ、あれじゃあ勝てないよ


 草影から覗くタナトスは目を見開いて広場を視ていた。先程の襲われた男が殺られた瞬間、フードを脱いだ邪教は頭を食い千切っていた。その顔はとても人間ではなかった。



 ーー撃てぇぇぇッ!


 乾いた銃声が一斉に鳴り響く……事はなかった。


 警備隊の隊長と呼ばれた男が号令をかけた直後、四方を取り囲んでいた黒装束達が一斉に飛びかかったのである。今度は悲鳴をあげる間も与えず、残った7人全ての首を喰い千切る。噴水のように吹き上げる鮮血は水溜まりのように大きく広がったのであった。警備隊の頭を喰い千切った数人の黒装束達は、フードを取ると咀嚼するような動き始めている。


 ……見つかったら不味いなぁ


 その場を離れようと後退りするタナトスだったが、フードをとった黒装束達の顔から視線が外せないでいた。角のような触覚に囲まれた剥き出しの頭蓋骨、頭部だけが異形な邪教徒達は口もとを動かしている。バリバリと聞こえる咀嚼音は警備隊の頭を食べているように見えた、僅かな恐怖心がタナトスに芽生えた。


 ……もう少しだけ、あの人達がアジトへ帰るまで


 恐怖心よりも膨れ上がった好奇心がタナトスをその場に留めさせていたのであった。邪教徒達が帰る場所を見つけられれば、ミナーヴァや牧師の役にたつかもしれないと浅はかな思考が過る。


 もう少し……タナトスが息を潜めて隠れる草むらのすぐそばでガサガサと足音が鳴り響いた。そして聞き覚えのある声が耳に届く、タナトスは驚きのあまり言葉を失った。



「ーー良くやった【ウェンディゴ】達。これでまた身体が増える。そして上手く誘いに乗ってくれてありがとう、タナトスさん」


「何で牧師さんがここに?」


 草葉の陰から現れたイスカリオ牧師は不気味な笑みを浮かべて近づく、タナトスもいつの間にか立ち上がり後退るように離れようとしていた。


「安心なさい。彼等は私が作り出した【ウェンディゴ】という人工精霊です。彼等は人肉を好んで食べますが、私の指示なしでは自発的には動けません。貴女に危害は加えませんよ」


 イスカリオ牧師は上機嫌に語りながら近づくと、警戒するタナトスに手を差しのべた。


「タナトスさんあなたの才能は素晴らしい。ぜひ私達の仲間に入りませんか? 」


 不気味な笑顔を浮かべる牧師の話に、タナトスは静かに聞いていた。いつの間にか彼女を囲むウェンディゴと呼ばれた怪人達が、直立不動のまま佇むのであった。


 


 


 

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