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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
北の大国【魔法国家ネストリス】編
21/199

Ep.21 三者の目的

Ep.22は12月14日更新です!

「なんで魔法大国まで来て大工仕事しなきゃならないのか……」


「文句を言ってないで手を動かしてください。床の穴はあなたがあけたのだから」


 独り言のように呟くと、金髪の少女は無表情で返してきた。どちらかというと巻き込まれたのはこちらの方なんだが……レヴァナントは言い掛けて目を細めるだけに止めた。


 黙々と手を動かすミナーヴァではあるが慣れない修繕作業はなかなか進まず、結局壁の穴の半分以上は文句を吐き捨てるレヴァナントが塞いでいたのであった。


「そういえば、タナトスは?」


「壁を塞ぐ為のモルタルが足りないそうなので、牧師が近くの雑貨屋までお使いを頼んだようです。ここからすぐ近くなので迷う事はないと思いますが……」


「あいつの事だから、また何処かフラフラ寄り道してそうだな」


 レヴァナントは眉根を下げてため息をついた、すっかり北の大国ネストリアに来た目的からずれてきている気がしてならない。



 ーー御免下さい。どなたか、いらっしゃいますか?


 教会の入り口から男の声が響く、突然の来訪者に2人は手を止めて顔を見合わせた。


「申し訳ありません。本日の洗礼はもう……」


 ミナーヴァが来訪者に応えながら入り口に近づく、扉の前に立つ男は何やら大きな荷物を重たそうに抱えていた。


「いえ、私は洗礼を受けに来たわけではありませんよ。これを……」


 男は抱えた大きな袋を床に置くと、一仕事終えたように息をついた。2人は訳もわからず、突然の来訪者と大袋を見つめる。


「すぐそこの雑貨屋で働いている者ですが、ついさっき買い物に来た女の子にこれを教会まで届けてくれと頼まれましてね」


 男が大袋の口を開けると、中には大量のモルタルが詰め込まれていた。壁の穴の補修だけでも何十ヶ所もできるであろう量に、2人は唖然としていた。


「こんなに要らない。必要ない分は持って帰ってくれ」


 レヴァナントが不要な分を持ち帰るように伝えると雑貨屋の従者は少し不機嫌そうに反論したのであったが、凄みを効かせた彼の強面に渋々と了承したのだった。


 

「それで、その女の子は何処に行ったんだ?」


「知りませんよ。警備隊の人達が店の前を走っていったかと思うと、いきなりその子が何か叫んで走り出して。私は去り際にこの教会にモルタルを運ぶよう言われただけで……はぁ、余計な仕事させられた……そういや何て言ってたかな? メイソンがどうとかって叫んでたような?」


 男の口から溢れた言葉に2人は顔を強ばらせた、レヴァナントは作業具を投げるように放り出す。 


 ……アイツの事だからきっと、邪教を見たいとか言って追いかけたに違いない。


「あとで代金は払う! 少し留守を頼んだ」


 レヴァナントは走り際に叫んだ、後ろで従者の慌てた声が響く。ミナーヴァもすぐに彼の後を追って走り出しだすのであった。



 ◆

 


 正午を過ぎても太陽はまだ頭上で煌めいている。2人はさきほどの従者が雇われる雑貨店の前まで駆け抜けていた。


「ここから、どっちに向かったんだ」


 雑貨店前の大通りは三股の路地に別れており、彼女の行き先が解らないレヴァナントは道の真ん中で焦ったように辺りを見回した。どの道も人影はなく午後のゆったりとした街並みが広がっている。


「私が探しましょうか?」


 肩を叩かれたレヴァナントが振り返るとミナーヴァが首からロザリオを外し、片手から垂らすように路地の方へと向けていた。


「タナトスの生体電流は覚えています。私の魔法で追跡は可能です、ですが……」


 渋るようなミナーヴァの表情、焦るレヴァナントは急かすように頭を下げて頼み込んだ。



「彼女を探します。そのかわり、あなた達の本当の目的を話して下さい。昨日説明だけでは明らかに矛盾が多い、正直私はまだあなた方を信用などできません」


 彼女は真剣な眼差しで問いただしてきた。揺るがない強い意思の籠ったその瞳に、レヴァナントは短いため息の後で深く頷いた。


「……わかった、俺達の事は全て話す。だから早く後を追ってくれ。アイツは余計な事に首を突っ込んで無茶をする奴だ、最悪な事態になる前に頼む」


 意を決したような眼差しで伝えると、再び頭を下げた。その姿を見たミナーヴァが静かに頷くと、ロザリオは僅かな光を放ち動きだす。


「ロザリオはタナトスの生体電流を感知してその方向を指し示します。話しは向かいながら聞かせて貰います、急ぎましょう」


 十字架は大きく曲がった左の小路に向かって動いた。視線で促す彼女に簡素に礼を告げると再び走り出すのであった。



 ◆



 路地を抜けた小路は街からどんどん離れてゆく、朧気な光を放つロザリオはずっと同じ方角を向いていた。走りながらレヴァナントはこれまでの旅のあらましを彼女に伝えていたのであった。



「正直、信じられないとは思う。だがこれが俺達の目的なんだ」


 足を止めないまま叫ぶように話していた、元傭兵のレヴァナントとほとんど同じペースで走る彼女は息を切らしていない。先日の戦い方といい、この年でそれなりに鍛えているようだ。


「全てはまだ信じられません。ただ昨日の怪我の治り方といい、あながち全てが嘘とも思えない。後で彼女にも伺ってみましょう」


 表情を変えずひとしきりに話を聞き終えるとミナーヴァは呟くのであった。ひとまず敵ではないと判断してくれたのであろうか、ホッと息をついた後レヴァナントは十字架の差す方向をチラリと見る。小路は途中で途切れて街の外へと続いている、徐々に荒れるような獣道変わってゆくのであった。


「俺からも一ついいか?」


「……何でしょうか」


「ミナーヴァ、お前。邪教について何か知ってるんじゃないか? 」


 一瞬彼女は表情を曇らせた、レヴァナントはその変化を見逃さない。やはり彼女は何か掴んでいるらしい。


「確証があるワケではありません。ただ、私は国選魔導士としてこの街の調査に寄越された時から違和感を感じていました」


「だからあの教会で、イスカリオ牧師を見張っていたのか? 」


 昨晩の邪教の話をしている時といい、先刻の洗礼の最中といい。ミナーヴァは時折イスカリオ牧師を見つめていた、その視線にどこか疑心めいた意思をレヴァナントは感じていたのであった。



「えぇ。イスカリオ牧師が布教に現れてから邪教は現れました。そして邪教の被害者達は皆、洗礼を受けにあの教会を訪れた後に連れ去られていた」


「本当なのか?」


「街の人々や警備隊に聞き込みをしました、確かな事実です。ですが、直接牧師が何かをしたという訳ではないようです」


 今度ははっきりと顔をしかめたミナーヴァであった。


「邪教を街に誘い込んだ黒幕がイスカリオ牧師だとすると、目的は一体何なんだ? 」


「それもわかりません。先程、御二人の洗礼も注意深く見張っていましたが牧師が何かしている様子もなかった」


「……俺達を牧師を釣る為のエサにしたってワケか。お前も中々に非情なヤツだな」


 レヴァナントは皮肉めいた顔で鼻を鳴らした、真の目的を隠していたのはミナーヴァも同じだったようだ。


「ーーいや、待てよ」


「……えぇ、考えているとおりでしょう。私も同じ予想です。牧師の洗礼の真の目的は被害者の選別」


 魔法を扱うための信仰心を図る目的でもある洗礼の儀式。その素質のある信者を邪教に襲わせるイスカリオ牧師。レヴァナントの頭の中で不確定な影が大きくなってゆく。タナトスに触れた牧師は不自然な程取り乱していた、恐らく呪士である彼女の中にナニカを視たのだ。


「野郎ッ、タナトスを一人にするためにわざと俺達を足止めしたワケかッ! 」


「私も遅れを取りました。申し訳ありません」


 ロザリオは森への獣道を指し続けている。次第に走るペースが上がる2人、深くなる木々の間を駆け抜けるのであった……




 ーーミナーヴァ、止まれッ!


 レヴァナントは叫ぶ、背の高い木々に太陽光が遮られた暗い森の中で2人は足を止めた。



「……抜け目がない。俺達にも追っ手を着けていたようだな」


 木陰からゆっくりと現れてくる人影は、すでに2人を囲んでいた。深々とフードを被り顔の見えない黒装束の人間は続々と姿を現す、軽く見渡すだけでも数は三十人以上。


 左手に直剣、右手は腰のガンホルダーに手を掛ける。ミナーヴァもロザリオの十字架を握りしめると剣のように構えた。


「悠長に相手などしていられません。一気に駆け抜けます」


 稲光と共にミナーヴァの十字架は剣に変わる。


「まだ日が高い、俺の不死身は期待するなよ」


 勢いよく右手で銃を抜くと、2人同時に走り出したのだった。


 


 

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