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Ep.181 光のない夜

 リーパー邸の客室でレイスは一人、浮かない表情で両手を見つめていた。


「私が逃げるわけないじゃない」


 アイテル・リーパーは見えない呪術を掛け、侮蔑めいた視線を向けていた。元々良くは思われていないが、そこまで嫌われる云われは無いように思える。


「もう少しだけ待っいて、レヴァナント兄さん。私が全部取り戻してみせるから」


 古びた銃を抜く。つぎはぎだらけに補修された大型拳銃は、両手にずしりとした重さを感じさせた。冷たい感触にレイスは目を細めていると、ノックの音が聞こえた。


『――入ってもいいかしら?』


 遅れて聞こえる声に返事をすると、金色の髪を束ねた女性が顔をだす。レイスの表情は途端に明るく変わった。


「ミナーヴァさん!」


「久しぶりね、レイス。あなたの活躍は各所で聞いているわよ」


 レイスが歩み寄ると、意思の強さを思わせる切れ長の瞳は弛む。ミナーヴァは柔和な面持ちで片手を差し出した。両手でそれを掴むレイスは嬉しそうに微笑み返す。


「やはり北国の魔導士に推薦しようかしら? あなたの才能なら次代の五賢人も夢じゃないわよ」


 熱の入ったミナーヴァに若干引いてしまうレイスは、頭をふって答える。


「いやいや、それは言い過ぎですって。ミナーヴァさんこそ、次代を担える天才魔導士じゃないですか」


「私は五賢人様達のようにはなれない。才の天井は自分が一番良くわかっている」


 ミナーヴァの反応は謙遜というよりも本音を語るように聞こえた。


「あなたは別格。ねぇ、この戦いが終わったら本気で北に来るつもりはない?」


「い、いやぁ……」


 返答に困るレイスが視線を逃がしていると、開かれたままの扉の向こうに誰かが立っているのがみえた。


「国選魔導士殿、それは無理な相談です。その子は我が南国(デュランドール)の騎士ですので」


 赤毛の女性が部屋に入る。レイスは再び顔を綻ばせて喜んだ。


「ティナさん! 南国も既に到着されてたんですね」


 駆け寄るレイスに赤毛の騎士は微笑み返す。


「元気そうね、レイス。ブレイズ様も他の騎士達も既に揃っているわよ」


 ティナはミナーヴァを見ると一礼して口を開いた。


「西の軍隊も到着し、北の国選魔導士も揃い踏み。まさにこれ以上ない程の戦力ですね」


 ミナーヴァもまた応えるように頭を下げた。


「南国の騎士連合とて、一個人戦力としては最強でしょう。旧時代の世界大戦では夢にも思わない共同戦線が実現したことこそ、奇跡と言えますね」


 二人は微笑み合い、互いの手を取った。


「明日には全てが終わるのか……」


 レイスは二人をみながら呟いていた。


「アイテル・リーパー殿からの指示で六時間後に宝庫の扉を開くそうよ」


 ティナは二人に告げるとふっと溜め息を漏らした。


「あの巨大な扉か……。私は三年前、それが開くのを見たことがある。ただ、あの時は味方だったけれど」


 ミナーヴァは表情は曇らせながら洩らした。


「あの扉の先に、九死霊門が繋がっている。アザートホルスはそう言っていました」


 レイスは銃を抱くように握りしめていた。


「この三年間、世界から光は消えたけれど、終焉王は何の動きも見せていない。これはきっと動けない理由があるんじゃないかしら」


 ティナはレイスの肩に手をやると、言い聞かせるように続けた。


「私はきっと、彼が食い止めているのだと思うわ。あの中でずっと戦い続けている、私の知るレヴァナントならきっとそうするはずよ」


 顔をあげるレイスは力なく頷いて笑った。


 すべての終焉は数時間後。決着の時は静かに進むのだった。

 




 


 

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