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Ep.179 四国連合

 東の大陸、旧ギオジン上層区域。荒廃した建物が立ち並ぶなか、一つの巨大な洋館だけはその姿を変えずに佇んでいた。


 洋館の一室には黒衣を纏った集団が話し合っていた。


「……西国からの報告は?」


 紫色の短い髪を掻き上げる女性が冷たい口調で問い掛けた。


『――旧西国に配置された部隊からは、不死者の城が消失したとだけしか……』


 黒フードを目深に被った一人が告げると、女性は不機嫌そうに舌を打つ。


「それだけじゃあ確実に始末したかわからないじゃない。あの二人、報告が遅すぎるわ」


 苛立ちを隠さない彼女はしきりに指で机を叩いている。取り囲む黒衣の集は女性の様子に恐れる様に視線を逃がしていた。


「そんなにカリカリしないの。あの二人なら大丈夫よ」


 祭司のような衣服に身を包んだ女性が、苛立つ女性に優しく宥めた。


「ふん、そんな事わかってるわ。私が苛立ってるのは何処の連中もまだ到着していないって事よ」


 突然、扉を叩く音が聞こえると、男の声が響いた。


『――報告致します。西国元帥様及び軍隊が到着されました』


 扉が開かれると軍服姿の男達は規則的な動きで洋室に入ってきた。隊列を創る中から一際威厳のある大柄な男が前に出る。


「此度はお招き感謝する。我輩が西国軍元帥、ペドロフ・シグマである」


 切れ長な鋭い眼光と、切り揃えられた短髪がいかにも軍人らしい出で立ち。重厚な軍服にはいくつもの勲章が下げられ、鍛え上げられた肉体は服の上からでも明らかであった。


「此方こそ、遠路遙々ご足労感謝します。はじめまして、東国神人廻、総帥代理アイテル・リーパーです」


 椅子に座ったまま軽く頭を下げるアイテルは、わざとらしく微笑んで見せた。


「さっそくですが、西の軍隊には後方からの重機支援をお願いしたいと考えています。先陣は我々が乗り込むので、万が一に備えて後ろを任せたい」


 唐突なアイテルの言葉に軍隊は一斉にどよめきだした。屈強な男達が一人また一人と苦言を漏らす。


「静まれッ」


 元帥の一声に軍人達はピタリとその口を塞いだ。


「確かに異能の前では西の兵器は通用しない。後方支援の方が効率よく加勢できるであろう」


 元帥は瞳を閉じて深く息をついた。思惑通りに進んだ事にアイテルの口元が弛む。


「……しかし。背後の流れ弾だけには、くれぐれも注意するといい。なにせ、我が軍隊は血の気の多い輩が多いのでな?」


 切れ長な瞳を細く睨む元帥は、うっすらと笑みを浮かべて呟いた。洋室の空気は一瞬で張りつめた。


「敵を討ち取れるのであれば私達は一切構いません。ただ、先の大戦から同盟を結んだ南国と北国……、聡明な西国ならばこの戦いが終わった後、どの国と友好を望むのが最善なのでしょうか」


 睨み返すアイテルは口角を上げて言い放つ。睨み合う元帥は冷笑を止めた。


「……なるほど、代理とは勿体無い程の女帝であるな。よろしい、東国の策とやらに協力しよう」


「勿体無いお言葉とご理解、感謝致します。詳しい段取りは参謀のステラ・アマナミからご説明致します」


 睨み合う二人は、互いを喰ったように笑うのだった。







『――報告致します。今しがた、南北連合の一行が到着されました』


 黒衣の男はそう言うとアイテルに深々と頭を下げる。彼女が目線で合図を送ると、開かれた扉の向こうには奇抜な洋装の集団が立っていた。


「遠路のご足労、感謝します。どうぞこちらへ」


 アイテルは表情さえ和やかなものの、張りつめた空気が洋室に溢れていた。


「此方こそ、お招き恐縮の至りと言ったところですね。噂は予々聞いておりますよ、東の呪帝さん」


 目の覚めるような派手な衣服を纏う小柄な男が呟く。隣に立つ女性は顔の半分を布で覆い隠し、鋭い眼光でアイテルを睨んでいた。


「そんな大層なものではありませんよ。私はアイテル・リーパー、今はこの連合の総帥代理を勤めるだけ」


「なるほど。私は界雷神トール、隣は嵐水神ケフラ。僭越ながら、北の五賢人を勤めております」


「……あら? 北は要の五賢人をたったの二人しか寄越さないのかしら。よほどに自国の行く末が不安とみえるわね」



「アイテルッ! それ以上は口が過ぎるぞ」


 郡を成す人混みから一人の女性が前にでる。白衣を纏い金色の髪を揺らしながら、苦言を唱えた。


「随分と出世したのね、前にあった時はただの小娘だったのに……、ねぇ、()()()()()()?」


「貴様……、調子に乗るのは程ほどにしておけッ!」


 激昂する金髪の女性を宥めるように、トールが手を伸ばす。


「よせ、ミナーヴァ。先方は我々と事を荒立てるつもりは毛頭ない」


「……はい。取り乱しました」


 渋々と言った表情で頭を下げたミナーヴァは、鎮座するアイテルを静かに睨む。


「まぁいいわ。目的を達成出来なければどのみち世界は滅ぶだけよ。それで、南の大将は?」


 目を細めるアイテルに、人波が別れた。後方からの出立つ人物に取り囲う者達が次々に頭を下げた。


「お初にお目にかかる。貴女が高名な東の呪士の姉君ですか」


 優しい口調で話す白銀の鎧を纏った男が前に出た。


「南の騎士を束ねる猛将。やはり迫力が違いますね、天命騎士ブレイズさん」


「先の戦いにおいて我々は東国の呪士に助けられました。しかし、この現状を作ったのもその呪士である事をお忘れなく」


「それは私達への脅しかしら?」


 アイテルの瞳は冷たくブレイズを見つめた。


「そうではありません」


 ブレイズの後ろから赤毛の騎士が声を上げる。


「私達はあの二人に助けられました。私はあの気高い友人の為なら命をかける覚悟です。協力とあれば願ってもない事、南国(デュランドール)騎士の誇りに掛けて必ずお力に添えたい所存です」


「あら、話のわかる人もいたようね。あなた名前は?」


「剛剣騎士パーシバル……、いえ、タナトスとレヴァナントの友人、ティナです」


 ティナは胸に手を当て跪いた。


「……誇り高き南国の騎士道。愚妹を敬う御気持ち、確かに受け取りました。此方からもお力添えを切に願います」


 初めて立ち上がるアイテルは深く頭を下げる。突然の行動に皆が驚き固まるなか、別室から戻ってきたステラが口を開いた。


「皆さんの力を借りればきっと世界は元に戻りますよ。不出来な我々ですが、何卒……。皆で元の平穏を取り戻しましょう」


 誰ともなく上がる雄叫びが響き渡るのであった。


 


 

 

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