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Ep.174 終焉の王

 猛々しく唸る残響は、耳の奥に騒がしく続く。

その音は不快な感情をめくりだし、さざ波のように繰り返し鳴り響いた。


「このままでは我々も巻き込まれてしまう。もっと遠くへ逃げなくては……」


 ブレイズの声はその残響に掻き消される。現状の異常さを感じ取った二人はその場を離れるように走り出していた。異様な大気がその場を包む。眼前にいたはずの怪物は萎縮するような体制で硬直を続けていた。


「レヴァナントーー!」


 ティナは異様な光景に叫んだ。声は当然のように力失く消え、現れた化け物の異質な空気だけをその場に残す。大気は憎悪に震え、視界には絶望が望むだけ。感情はただ恐怖だけを警鐘し続けている。


「駄目だ、早く逃げるんだ」


 ブレイズはティナのて引いて駆け出していた。すぐ隣で追走する影に横目をやりながら、彼は前だけを向いて走っていた。


「糞やろうォ……次は必ず、俺が止めを刺してやる」


 現状を納得しないオルクスが漏らす。天眼の地表は、狂おしき脅威に震えるように揺れる。軋み続ける大地に足を取られながらも、三人は歩みを続けた。迫り来る膨大な脅威は、それまで感じた事もない、異様な圧力を無情に振りかざす。


「ダメよ! このままレヴァナントを置いていく事なんて出来ない――」


 ティナの声は轟音に掻き消された。聞こえないその叫びは、暗闇に広がる脅威に透過するのであった。




 止まらない強風は大気を揺らし続けた。天眼の上空に佇んでいたはずの怪物はその絶対的な脅威を失くす。突如として現れた新たな強者に、萎縮を隠しながら吠える。


 それでも力の差は歴然として、無慈悲に砕かれる自尊心が怪物の咆哮を呼び起こしていた。


「怪物が、消えてゆく……」


 目の前で起こる異様な光景にティナは漏らしていた。


 夜空を切り裂き現れた存在は、豪胆に鎮座する空の怪物にその異常な身体の一部を伸ばす。触れるともしない僅かな時間に、怪物の身体は暗闇へと吸い込まれて消えていった。それはまるで、存在そのものを掻き消すように、光子は見えない欠片と変わり消え去ってゆくのだった。


「なんと云う事だろう……凄まじいとしか、言葉が見つからない」


 此の世のモノとは思えないその光景に、ブレイズも漏らしていた。


 数分前よりもその脅威を増し、世界にその力を示し出すように暗く広がり続ける。繰り返す不気味な歌声と共に、怪しく輝く艶やか闇はその範囲を広げていった。


「……あの野郎。まだ暴れ足りねぇようだな」


 オルクスは師の特大剣を構えなおして呟く。声もあげず拡がり続ける黒衣の存在は、掻き消した怪物に満足していない。半身を現にした異形は、次の獲物を探すように不気味なその身体を動かしていた。


「ひとまず、この場は離れよう。あの力は人のどうこうで対応できそうもない」


「レヴァナント……もう、あなたではないの……?」


 漆黒は深い闇へと消えてゆく。戻ることのない時間はその絶望を増してゆくばかりに過ぎてゆくのであった。



◆◆   


【やはり、素晴らしい……これこそ我が求めていた絶対なる神の力……】


 何処からか聞こえた声。すぐに反応したのはティナだった。溢れたその声色は知り得るものではなく、混乱するティナが口を開く。


「オルクス……?」


 突然立ち止まったオルクスは恍惚な笑みを浮かべて両手を空へ投げ出している。異様とも言える彼の行動に、ブレイズすらも足を止めたのであった。


【これだ……これこそ扉の力。絶望的なまでに強大な負の集大。数千年の時を経ても変わらない、その邪悪な輝き。遂に念願の対面を果たせたのだ】


 拡がり続ける九死霊門の化身に見とれる彼の姿に、ティナは恐れを抱きながらも近付いた。


「オルクス、突然どうしたっていうの……?」


 彼女の問いかけに、彼は破顔一笑でその顔を向けた。狂気が滲むその顔は一瞬硬直すると、何を思ったか自身の片眼を殴り付けたのだった。


「糞がッ……終焉王(ラ・ファン・ビシュヌ)の野郎……俺を、嵌めやがった……」


「オルクス!? いきなり何をーー」


 不安な表情で歩み寄るティナに、彼は近付くなと云わんばかりに片手を向ける。片目を押さえた反対の掌を縫うように、赤い雫が流れ出ていた。


【抵抗は無駄だよ、バアル・ゼブル(オルクス)。君の体内に宿る()()()()()()()は、既にその主導権をこの私へと譲渡している。実に良い働きであった】


「ふ……ッざけんじゃねえッ……俺にはまだ、やるべき事が……」


 独り言の様に異なる声色を呟くオルクス。苦しそうに歪めた顔は、現れてゆく黒色の兜に埋もれて消えた。


【さて、次はいよいよ本物の神を手にしようじゃあないか】


 全身を甲冑に覆い尽くされ姿を変えたオルクスは踵を返すと、膨張を続ける混沌へと駆け出すのだった。



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