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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
北の大国【魔法国家ネストリス】編
18/198

Ep.18 矛と直剣と銃弾

Ep.19は12月6日更新予定です✨

祭壇の奥、遥か高い天井のステンドグラスから光の筋が伸びている。色とりどりの硝子を通した光は七色に輝き、壇上を歩く金色の髪の女性を照らしていた。純白の装束に身を包むその姿は、まるで本物の天使と見間違えるほどに崇高であった。


 赦しを与える聖女の如く慈愛に満ち足りた姿とは裏腹に、彼女の存在は2人に緊張を走らせた。稲光を放つ右手に握られた矛と訝しげにしかめた表情は、慈愛とはまるで逆の激しい憤怒を纏っている。


「私達、ただの旅人なんです! さっきも街の人達から間違えられて……」


 立ち上がったタナトスが一歩踏み出して訴え掛ける。しかし、金髪の女性は自らの魔法で創られた矛を2人に向けて進み続けた。


「……やめとけ、何を言っても無駄そうだ。この街の人間は、どうも人の話を聞かない奴が多いみたいだな」


 誤解を訴え続けるタナトスをレヴァナントは片手を上げて制すると、反対の手で腰に携えた直剣を抜いた。


「そう、抵抗するのね。仕方ない」


 金髪の女性は矛を両手で握りしめると、剣を構えるレヴァナントに狙いを定めた。十字架から飛び出す光の刃がバチバチと音を鳴らす。


「タナトス、下がってろ……」


 レヴァナントも直剣を構えて間合いを図るように動き出した。えもいわれぬ静寂が聖堂を包むと、僅かな物音を合図にして互いに動いた。


 先手を取ったのは矛を構えた女性。


 一足に駆け出した彼女は、瞬く間に間合いまで迫ると高く飛び上がった。ステンドグラスから入る強い陽射しを背にした彼女は、眩しそうに目を細めるレヴァナントに向けて振り下ろす。


「ーーあっぶねッ!」


 バチバチと唸りをあげた刃を紙一重にかわしたレヴァナントは、大きく転がりながら彼女の間合いから逃げる。


「どこにも逃げられない」


 冷淡な口調で金髪の女性は追い討ちを掛ける。振り回す刃が掠める度に、辺りの長椅子は焼け焦げてゆく。


「魔法兵器ってのは、大した威力だなッ!」


聖堂を逃げ惑うレヴァナントは皮肉を吐きながら隙を伺っていた。しかし、圧倒的な攻撃力の差に徐々に壁際まで追いやられてゆくのであった。


「残念だけど、もうかわせない。投降するなら、まだ間に合う」


「……悪いが、諦めは悪い方なんでね」


 レヴァナントの皮肉と同時に女性は矛を振りかぶる。高々と掲げた十字架の刃がより一層唸りを上げた。


「そう。残念ね」


 躊躇いなく女性は振り下ろした


 稲妻を纏った刃がレヴァナントを襲う__



「ーー魔法はともかく、戦い方は二流だなッ!」


 振り下ろされる閃光が瞬く一瞬の合間に、レヴァナントは身体を反転させる。両手で構えた直剣でいなしながら、刃の横すれすれをくぐり抜けた。そのまま体勢を捻る反動で腰に着けたガンホルダーに手を掛けると、真横から矛の柄を撃ち抜く。

 重厚な発砲音が響き、数珠が繋ぎだした矛の柄は粉々に砕けて弾け飛ぶのであった。


「魔法兵器がいくら強靭でも、至近距離からの大口径には耐えられないみたいだな」


 レヴァナントは大型の拳銃を構え直して女性に向けた。

 50口径回転式大型拳銃、通称【コンバットキャノン】。西の港でブックマン船長から餞別として渡された代物である。


「長物の矛じゃあ、小回りのきく直剣の間合いでは不利だ。戦う相手の得物はしっかり観察しといた方がいいぜ」


 得意気に口角をあげたレヴァナントに、離れた場所で見ていたタナトスも歓声をあげていた。




「そうね。たしかに一つ勉強になったわ。けれど……」


 女性は視線を飛び散った十字架に向けると、片手開いて伸ばす。次の瞬間、大ぶりな十字架は彼女に向かって飛び上がると、すぐに手元へと収まった。


「これは魔法兵器ではなくて、私の魔法を具現化したモノ。破壊する事は不可能よ」


 握りしめた十字架の上部から再び稲光が走る。瞬く間に光を放つ刃が伸びると、十字架は剣の柄に変わった。


「【界雷(ライトニング)太刀(ブレイド)】。貴方も、最後まで油断しないことね」


 一太刀でレヴァナントの銃を弾き飛ばすと、突進から鍔迫り合いの状態まで一秒も与えない。


「くっそッ!」


 刹那に防御こそ間に合ったが、レヴァナントは体勢を崩して跪く。


「ーー【界雷(ライトニング)咆哮(バースト)】」


 女性の一声と同時に光の刃は弾け飛んだ。


 強い稲光が辺りを走る。レヴァナントは反対の壁まで押し飛ばされ、衝撃で壁ごと外に吹き飛ばされた。


「さぁ、次は貴女よ。投降して貰えると嬉しいのだけれど……」


 雷を纏った光の剣を向けて、女性はタナトスの方へと進むのであった。





 ◆




 ……


 ……


 ……ん、うぅん……



 目が覚める。揺れる裸電球の光に目を細めると、レヴァナントはゆっくりとベッドから上体を起こした。


「ここは……? たしか、どこかの教会にいたはず……」


「あッ! ほら、レバさん起きましたよ」


「……驚いたわ。あの傷で本当に起き上がるだなんて」


 起き抜けに見た意外な人物に、レヴァナントは驚きのあまりベッドを飛び起きた。タナトスの隣に立つ女性、つい先ほど魔法兵器で彼を吹き飛ばした金髪の魔導士。


「な、なんでお前がいるッ!?」


 慌てるレヴァナントをタナトスは「まぁまぁ」と落ち着かせると、魔導士の女性の側によって楽しそうに笑った。


「ミーネちゃん、話してみたら凄くいい人なんですよ!」


「み、ミーネチャン……?」


 困惑するレヴァナントはタナトスの言葉が理解出来ないでいる。すると魔導士の女性は首から下げたロザリオを揺らしながら、レヴァナントに近づいて口を開いたのであった。


「先程は失礼致しました。此方も早まってしまい……非礼を詫びます」


 女性はそう言って一礼すると、間抜けな顔のレヴァナントに真面目そうな表情で続ける。


「私は国選魔導士ミナーヴァ・ネル・ミネルウァ。トール神を崇める界雷の教徒です」


「あ、あぁ」


 差し出された手に躊躇いながら握手をするレヴァナントは、唐突な自己紹介と聞き慣れない宗教の名前に首を傾げながらタナトスに視線を投げた。視線に気がついたタナトスは、彼の意図もわからずヘラヘラと笑っているだけだった。


 ーー古い木材が軋むような、扉が開く音が響く。


「お目覚めになりましたか。いやぁ、大変良かった!」



 タナトス達の後ろから現れた男は手にもったトレイを机に置くと、レヴァナントにコップを手渡した。優しそうな笑顔を浮かべる初老の男性は、皆に座るよう促す。


「私はイスカリオ、半年前からこの教会で牧師を勤めさせて頂いております」


 イスカリオと名乗る牧師は穏やかな表情で続けた。


「僭越ながら、ミネルウァ術士や民間警備隊が貴殿方を襲撃した理由は私から説明させて頂きます。二ヶ月ほど前でしょうか……この街に邪教という者達が現れた事から始まります」


 イスカリオ牧師はため息をついて話し始めたのであった。


 


 

 

 



 

 


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