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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
侵食する混沌 編

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Ep.159 面影と再来

「外から来た……神……」


 ティナは独り言のように呟いていた。恐怖と驚きと言葉で表すにはあまりに複雑な感情に、ただ目の前にいる少女から目を離せずにいたのであった。


「……もう良いか? 先程からこの身体、ちと堪える」


 アザートホルスは腹に手を当てて首を傾げ言った。同時にしまりのない、間の抜けた低い音を鳴らしたのだった。


「この目で視える景色は賑やかで良い興であるが、身体が在ると云うのは些か不自由でもあるな……この空腹が代償とは、なんとも非効率な娘よ」


 苦笑いのような曖昧な表情で、アザートホルスは自らの身体を確かめるようにまじまじと見る。彼女の腹の虫が鳴く声に、ようやくティナの口から次の言葉が吐き出される。


「そういえば、タナトス(あのこ)っていつも何かしら食べていたわね……」


 ティナの漏れた声に彼女は頷いた。


「妾の居た世界では此のような対価は不要であった。現し世の生命体には妾の力は負荷が大きいのであろう。娘よ、何か腹に入るものは持っておらぬか?」


「あ、えっと……これくらいしか無いけれど」


 ティナは念のため用意していた携帯食の平たい缶詰を取り出して見せる。すぐに駆け寄るアザートホルスは目を輝かせてそれを受け取ったのであった。


「これは……ほう、なんとも面白い形をした食物であるな、匂いも感じとれない。む、固くて歯が通らぬぞ?」


「ち、ちょっと待って! それはこうやって開けてから……」


 缶詰を開くティナは中身を見せるように彼女に差し出す。缶の中にはぬるりとした何かしらの肉がぎっしり詰まっている。アザートホルスはそれを受け取ると目を閉じてその匂いを確かめたのであった。


「これは……」


 動きを止める彼女を見るや、眉を寄せるティナは口を開いた。


「あまり美味しいモノではないけれど……()()()()()()()()イケると思うわ」


 ひきつった表情でティナは口元を押えていた。目を見開いたアザートホルスは手元の缶詰を口へと運ぶ。


「これは……何足る美味な! 現し世の民達はこのような馳走を食しておるのか。なんとも妾の口に合うものだ」


「そ、そう……? それなら良かったわ……」


 ゲテモノに夢中で喜ぶ彼女の姿に、無垢なタナトスの姿が垣間見えたティナなのであった。


 


『主様、またナニかが此方に近付いて来ています』


 夢中で食べ続けるアザートホルスに、白狼は突然声をあげた。ティナは騎士剣を抜くと、辺りに目を配る。


「放っておけ……妾は今、忙しい。敵意があれば貴様が仕止めよ、死魔」


 一つ目の缶詰を綺麗に食べ尽くすと、もっとないのかと手をのばす。残りの缶詰を取り出したティナは、それを彼女に渡した。喜ぶアザートホルスにティナは歪な笑みで応えたのであった。


『……たった一人で向かってこようとは、所詮は貧民の考える事。理解出来ぬな』


 白狼は立ち上がるとその巨体で威嚇の姿勢を取る。何かを察知したように一斉に白い毛は逆立った。


「あれは……待って! 恐らく敵じゃない」


 喉を鳴らす白狼を止めるティナは近付いて来る人影に目を凝らす。見覚えのある騎士鎧にティナの表情は明るく変わるのであった。


「ロセウム殿! 無事で良かった」


 近付くに連れてはっきりとわかる、第13席ロセウムで間違いなかった。駆けてくる騎士は手を振るティナに気が付くと微笑んだように見えたが、握り締めた二本の騎士剣を鞘に戻す素振りはない。


「きっと、あなた達に警戒しているのね……大丈夫です、ここに敵はいません!」


 ティナは剣を鞘へ戻すと、声を張り上げた。


『……あの男、()()()()()()


 白狼、死魔は大きな瞳を細めて呟いた。聞き間違いを疑うティナが白狼を見た時、ロセウムは勢いを増して近付いたのであった。


「大丈夫、あの方はきっと――」


 ティナの視線がそれたほんの一瞬、ロセウムの刃は黒と白の焔を纏い襲い掛かった。爆炎がティナを呑み込み弾けると、辺りを熱風が吹き荒れる。



◆◆


『――貧民は敵味方の判別すら無いのか?』


「そんな、どうして?!」


 間一髪の所で白狼はティナを咥えて飛び上がった。焔を避けるようにその巨体を捻ると、食事を続ける主の前へ駆けつける。


「ロセウム殿、私です! 何故こんな事を――」


 問い掛けに答える事なく、ロセウムの刃は再び焔い煌めく。理解のできない状況にティナは何度も呼び掛けたのだった。


「――あの人間、恐らく汝の知りえる者ではないだろう。あの気配、中身は先程の輩とよく似ておる」


 いつの間にか白狼の背中へと乗っていたアザートホルスは呟いた。静かに視線を落とす彼女に連られ、ティナはロセウムを見る。彼の視線は一点を見つめ、その顔には歪な笑みが溢れていたのだった。


「君か? 僕の最高傑作を盗んだのは?」


 ロセウムの問い掛けはアザートホルスへと向けられていた。満たされたように口元を拭うアザートホルスはまた不気味に嗤う。


「知らんな。貴様も妾に余興を披露しに来たのか?」


 張りつく様な歪な殺気が、荒れ果てた広野に溢れた。

 


 







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