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Ep.155 黒幕

 瓦礫が散らばる足場の悪い暗がりを明かりもなく進む。壁づたいに歩く二人の男は思うように進まない地下通路に少しずつ焦りを募らせていたのであった。


「いったい何処まで続いてんだよ」


「出口は複数ある筈なんだが、こう暗くてはな……」


巨大要塞を地下で繋ぐ通路は本来、中央指令本部の幹部達の緊急退路として造られていた。その為出口は大聖堂(カテドラル)付近のみならず、状況に合わせて上層の至るところへ出られる筈なのである。


「地下の照明が全てイカれてるって事は、ここも既にガルゥーダに掌握されてるかもしれねぇな……あらかじめ出口で待ち構えてる可能性もあるか」


 独り言を漏らすオルクスに、アーレウスは微かに嗤った。その仕草を面白く想わないオルクスは眉を寄せて呟くのだった。


「何だよッ?! 奴に他の協力者がいるかもしれねぇだろ、こっちは毒の(ハンデ)まで背負ってんだ」


「すまない。血の気の多いお前がそこまで考えて行動する様になるとは……成長が垣間見得て素直に嬉しかっただけさ」


 不貞腐れるように悪態をつくオルクス。言葉には出さないが、かつての弟子である彼の変わらない人間味にアーレウスは安堵していたのであった。


「お前の言うことも確かだが、俺は別に引っ掛かるところがある」


「引っ掛かる……?」


 真面目な表情で呟いたアーレウスは、応えるように頷いた。


「天命騎士ブレイズの事だ。我々を欺いていたにしても先日会った印象と些か変わりすぎている」


「ああん? 俺の知っているガルゥーダの奴は前からあんな感じだ」


 オルクスは怪訝に口を開いた。アーレウスは何かしっくりとこないといった様に、額に深い皺を浮かべて唸る。


「奴はわざわざ()()()()()()()と言った。弱点にも繋がるような情報を、あの場の優越感だけで口走るだろうか? それに本体を見つけても我々には何も出来ないとも言っていたな」


「知らねえよ。すかし野郎のただのハッタリだろ」


「……杞憂であれば良いが」


 足を止めていた二人が再び暗がりを進もうとした時、地鳴りと激しい揺れが響いた。


「――なんだッ?!」


 突き上げるような激しい振動は時間にして数秒で止まると、再び地下は静寂を取り戻す。互いの安否を確認する二人は、新たに崩れ落ちた瓦礫に目を向ける。


「この瓦礫はさっきの様な揺れで落ちてきていたのか……あれだけ激しい衝撃、いったい何処から?」


 瓦礫を跨ぐアーレウスは壁に走るひび割れに手を当てながら言った。


「……? おい……あれ、見てみろよ」


 先を見ていたオルクスは呟いた。薄暗い地下通路の先には、先程まで見えていなかった筈の光の漏れた筋が延びている。


「今の揺れで都合良く崩れたのか? 何にせよ進む他あるまい……」


 アーレウスの言葉に黙したままオルクスも後を続くのであった。



 薄い光の筋を漏らす壁には大きな亀裂がはしっていた。二人は互いの顔を見ることもなく、剣を叩きつける。簡単に崩れ落ちた壁は、明らかに後から造られた形跡が見てとれる。二人は大きく広がった亀裂から壁の向こうへ潜り抜けるのだった。


「これは……天眼の地下にこんなものがあるとは……」


 アーレウスは目の前に広がる異様な光景に思わず漏らしていた。広々とした空間に見たこともないような機器の数々が並ぶ。その中心で煌々と照らされる巨大な水槽の様なモノは、中に入った不気味な液体を通して変わる赤黒い光で室内に拡がっていた。


「……中に何か浮いている?」


 奇怪な水槽の中で揺れる黒い物体に、アーレウスは目を細めた。鳥のように伸びた鋭い嘴はズタズタに裂け、落ち窪んだ眼窩は深淵のように深く淀む。時折浮かび上がる気泡はゴボゴボと気色の悪い音を奏でる。


死霊鳥(ガルゥーダ)……?! 野郎こんなところに隠れて居やがったか」


 オルクスは黒色の大剣を構えて叫ぶ。飛び出さんばかりの彼を、アーレウスは肩を掴んで止めた。


「待て、オルクス。何か様子がおかしい」


 アーレウスは水中に漂う巨体を指した。目を凝らすオルクスは訝しく睨む。ガルゥーダの本体と思わしき鳥獣頭の怪物の身体は、水槽の中で少しずつ溶け出すように崩壊していた。


「既に死んでいる……?」


「わからん。だかこの仰々しい機械には何かしらの意図があるはずだ」


 揺れる水面を注視する二人を、不意打ちのような笑い声が耳朶を打った。背後から高らかに響く甲高い肥に直ぐ様振り返る。


「……誰だ、てめぇ?!」


「何故お前がここに……いや、なるほど、そうゆう事か」


 声を荒げるオルクスは剣を向ける。アーレウスは見覚えのあるその姿に何かを納得して呟いていた。


「……勘がいいね、流石は戦王アーレウスだ」


 暗がりから歩み寄る度に聞こえる騎士鎧の擦れる音。酔歩の如くフラフラと歩み寄る、獅子兜の騎士を二人の視界は捉えたのであった。


 

 






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