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Ep.142 旅の終わりに願う

 脈動の動きと連動して左胸から溢れる生暖かい液体は、埃と灰にまみれた地面に広がってゆく。身体の他の痛みも忘れてしまう程の刺すような鋭い痛みが何度も波のように押し寄せる。


「が……は、ゴフッ……」


 腹の底から涌き出てくる赤黒い液体に悲鳴もあがらない。手足が自分の物ではないように感覚が失くなってきていた。


「……まだ息がある」


 短い騎士剣を逆手に持ち変えるテュポンは、這いずる男を見下ろして目を細めた。


「レ……い、ス……」


 既に虫の息といった状態のレヴァナントの視界は、血濡れた眼球で歪んで見えるだけ。両手で短剣を握りしめる妹の姿だけがぼんやりと揺れている。不死(よる)が訪れるまではまだ遠く、濃紺の不気味な雲間からは光の柱が何本も天眼を照らしていたのであった。


「……このまま死ぬか、第一席(ガルゥーダ)様に血を捧げるか、最後に選ばせてあげる」


 酷い耳鳴りが続く中でも、不思議とテュポンの声はレヴァナントに届いていた。待ち焦がれた妹の肉声は記憶の中よりも鮮明で、当然の事ながら成長していた。激しく吐血しながらも、レヴァナントの口元は緩むのだった。


「ハァッ、ハァッ……ゴフッ……は、ハハハ……」


「……何故笑っている?」


 理解しがたい彼の反応にテュポンは訝しそうに呟いた。


「レイス……大きく、なったな……」


 レヴァナントは呻き声を上げながら仰向けに身体を動かした。勢いよく転がる鉛のように重い身体は、既に殆ど感覚が消えている。


「……今際の際に気がふれたの?」


「そう、じゃねぇ……よ、レイス(おまえ)が生きて、いてくれて嬉しかった……」


「……レイス? 私はそんな名の人を知らない」


 荒い息を吐き出しながら震えるレヴァナントを、一層不可解な表情でテュポンは見ていた。いつの間にか広がる血溜まりを不快そうに踏みしめて近寄る彼女に、彼は嬉しそうにまた笑って見せた。


「大きく、なったな……タナ、トス……と同じ位……いや、お前のほうが……少し、背は高いか……ハハ、並んで、みたら、アイツ……悔しがるだろ……うな」


「タナトス・リーパー……?」


 聞き覚えのある名前に反応を示したのか、テュポンの表情は僅かに変わったのだった。


「そうか、アイツ……お前と会ったって、言ってたな……そう……か」


「貴方はタナトス・リーパーの知り合いなの?」


 いつの間にか掲げていた騎士剣を降ろしたテュポンは食い入るように屈んで尋ねていた。


 真っ赤に染まった眼球には、もう何も写らなくなっていた。顔を近寄らせる妹の姿すらわからないレヴァナントは、苦しそうに続ける。


「レイス、タナトス(あいつ)と、一緒に……東に迎え、そ、そう、すれば……」


「貴方はいったい何者なの? レイスって誰の事を話している? 答えなさい」


 騎士剣をレヴァナントの首元に当てる。何の反応も見せない彼に、テュポンは歯痒そうに口を噛んでいた。


「頼む……タナ、トス……レ、イスを、助け……」


「死ぬ前に答えなさい!」


 レヴァナントの襟元を掴むと、彼女はその身体を引き起こした。しかし、彼の身体は何の反応も示さない。ゆっくりと止まる脈は、ただ命の終わりを証明するのであった。






「え……、レバさん……?」


 時を同じくして聖骨大聖堂の地下に降りたったタナトスは、奇妙な違和感を覚えて振り返る。腰に下げた死柱の短剣がほんの一瞬怪しい光を放った事に、彼女は気付いていない。


「タナトスッ、どうしたの? こっちに地下道が繋がっているわ!」


「う、うん! なんでもない、今行くよ」


 地下に広がる施設と、鳥獣のような巨体の怪物。ティナはこの場に留まる事に危険を感じ、他の出口を探しまわっていた。


「なんだろう……七死霊門(セブンホーンテッド)が反応してる……それに、この変な感覚、もしかしてレバさんに何かあったのかな……?」


 感じたことのない不思議な感覚に、タナトスは戸惑うのだった。











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