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Ep.140 死霊鳥の野望 上

 地面にうずくまる少女は苦痛に耐えるように小さな唸り声を溢していた。上空から突如現れた気配を察した彼女は、苦痛に歪めた顔で睨んでいる。


「――レイスッ! 俺だ、わかるか?!」


 感情が逸るレヴァナントは手を放した。着地もままならないほど慌てる彼は、落下の衝撃によって激しく転がる。痛みに耐えながら警戒する少女のすぐ近くまで這いよったのであった。


「……」


 少女はレヴァナントの問い掛けに受け答える事もなく、ただ冷たい眼差しを向けていた。


「先程言ったでしょう、キミの妹の意識は今の彼女には無い。そこにいる彼女はレイス・バンシーではなく騎士名【食者の剣イーター】、今の名はテュポンだ」


「そんな……どうみたって(レイス)だろ、俺の事覚えてるだろ……なぁ、レイスッ?!」


 声を荒げるレヴァナントに対し、少女は警戒心を強めたのか片膝を立てて体勢を変える。その疑心に満ちた瞳にレヴァナントの声は力無く小さく萎んでゆく。


「ガルゥーダ……どうすればレイスは自分を思い出す?」


 すがるような弱々しい声でレヴァナントは尋ねた。ガルゥーダは懐から何かを取り出すと少女に向けて語りかけながら歩み寄る。


「【食者の剣イーター】よ、騎士としての勤めご苦労である」


「……天命騎士、ブレイズ……様……申し訳ありません。賊を取り逃がしたあげく、聖肉大聖堂(セントカニヴァカテドラル)の襲撃を許してしまいました」


 押し黙っていたテュポンは頭を下げていた。南国騎士にとっての序列は、彼女を服従させたのである。


「構わないさ、逃がした賊はまた討てば良い。麻痺毒の血清だ、飲みなさい」


 そう言ってガルゥーダは小さな瓶をテュポンに差し出す。彼女の片手に収まるほど小瓶の中には赤黒い液体が七分程詰められていた。何処かで見たような二人のやりとりは、レヴァナントの頭には不味い呪術の印を思い出させるのであった。


 躊躇うことなく小瓶を口に運ぶと一息で飲み干す、小刻みに震えていた彼女の手はピタリと動きを止めた。


血清(それ)で一時的に麻痺は消える、不死の力も戻ったはずだ」


 テュポンの身体中に刻まれた傷はたちまち塞がってゆく。不死の力を取り戻した彼女は何事もなかった様にガルゥーダに前に跪くのだった。


「……御手間を御掛けしました」


「君にはまだまだ、働いて貰わなければいけないからね」


 立ち上がる彼女の姿に、レヴァナントは声をかける事すら忘れてただ見つめていたのであった。




「さてと、これでキミの要望には答えられたはずだ。僕の事を信用して貰えただろうか」


 ガルゥーダは不意に呟く。茫然とただ彼女を見つめるレヴァナントは我に還ったように口を開いた。


「レイスの無事は確認できた。だが、元の妹に戻す方法はまだ聞いていない」


 目の前にいる(レイス)はレヴァナントの事をまるで知らないとった様子で、虚ろな瞳で見ている。彼女の表情は思い出の中のモノとはかけ離れているのであった。


「それにはキミの協力が必要なんだよ、テュホニウス。妹を取り戻したいだろう?」


「協力……いったいお前は、俺に何をさせたいんだ?」


 ガルゥーダの表情からは笑みが消えていた。殊勝顔で彼は続ける。


「僕はこの欺瞞に満ちた世界を変えたいのさ。まずはこの南国(デュランドール)から変えて行きたい、その為にテュポンと共に僕の剣となってくれないか?」


「まさか……南国を取るつもりか……?」


 レヴァナントの問い掛けに彼は軽く頭を振る。


「南だけではない、僕が言っているのは他の三国も含めた世界全て。この狂った世界に革命を起こす、この天眼(クレアボヤンス)でね」


 冗談のような莫大な野望を語るガルゥーダは真剣な眼差しで応えた。冷淡な口振りのまま語る彼の姿にレヴァナントはいつしか言葉を失くしていたのだった。









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