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Ep.131. 革命の亡霊

 聖骨大聖堂の一室、広い屋内に所狭しと備えられた軍事機器の数々。正体を晒した神命騎士ブレイズこと不死者ガルゥーダは、二人に縁のある革命家の話を語りだしていた。


「最後の一人、グリム・リーパー。彼は東国の術士で、天眼の中枢を担っていた人物」


 ガルゥーダは大きく見開かれたタナトスの赤い瞳を見て告げる。


「グリム・リーパー……もしかしてお前(タナトス)の親父さんが言い淀んでたのは、ソイツの事なのか……タナトス、知っている名前か?」


 レヴァナントはタナトスを見て呟く。当の彼女は口を開いたまま呆けていた。


「え……ああ、ううん。(うち)にはグリムなんて名前の家族はいないよ。ただ……」


「どうした?」


 一拍置いたように目を瞑る彼女は、珍しく怪訝そうに眉を寄せて答える。


東国(ギオジン)の術士の家系には、表と裏があるってお母さんから聞いたことがある」


「表と裏……?」


「うん。何て言うのかな……本家と分家みたいなのとは違ってね。遠い親戚には違いないんだけど……」


「でも同じリーパーって事は、そいつらも呪士なんだろ? ひょっとして、あの秘術(セブンホーンテッド)も……」


 レヴァナントが再び尋ねた時、応えたのはガルゥーダであった。


「彼女の言う通り、グリム・リーパーは裏の家系だ。だからこそ呪術は使えない」


「どうゆう意味だよ?」


 眉根を寄せて聞いているレヴァナントに、今度はタナトスが答える。


「表の家と裏の家は同系統の術士には成れないの。ほら、東でステラちゃんと会ったでしょ? ステラちゃんは表のアマナミ家、祈祷士の家系。でもアマナミの裏の家は確か呪士だったと思う」


 彼女の話した内容に理解は出来るがその真意はわからない、曖昧な表情でレヴァナントは口許に手を置く。その様を見て再びガルゥーダは口を開くのであった。


「家元を絶やさない為の東国での決まりがあるのさ、詳しい話は今は割愛させて貰おう。さて、話を本筋に戻すとそのグリム・リーパーが大きな鍵を握っている。なぜなら彼が一番最初の不死者だからね」


「グリム・リーパーが、最初の不死者だって?!」


 レヴァナントは目を見開いて驚いた。




「そう、(グリム)が最初の不死者。カーリーの子種をその身体に初めて宿した人物」


 抑揚もなく淡々と語るガルゥーダに、二人はただ唖然とした表情で聞いていたのであった。


「天眼で行われていた煉気因子(クリムゾン・ギア)の研究はあるところでつまづいた。あの細胞は所詮肉体を活性化させる事は出来ても、その先……つまり肉体の死を超越する事は出来ない。世界の統一を目的として活動していた彼等は列強の主戦力を制圧できる圧倒的な力を求めていた、その為には何者にも負けない不死身の戦力が必要だった」


「それが、不死者の始まり……」


 タナトスは思わず溢した。頷いて見せるガルゥーダは続ける。


「四人の革命家は天眼(ここ)で更なる研究を重ねた。そしてその結果、一つの概念、いや、亡霊とでも言うべきか……終焉王(ラ・ファン・ビシュヌ)が産まれた」


「終焉王が……造られた、だと……?」


 レヴァナントが堪らずに口を挟む。最後まで聞けとばかりにガルゥーダは彼に片手を向ける。


「終焉王は東国の冥道術、北国の魔方陣、西国の人工知能、そして南国の煉気因子(クリムゾン・ギア)によって作られた実態の無い意思を持った怨霊」


「ちょっと待てよッ! 終焉王は確かに実在していた、実態が無いなんて――」


 声を荒げるレヴァナントに対し、ガルゥーダはまた静かに答える。


「終焉王の今の身体はグリム・リーパーの肉体だ。彼は終焉王を産み出した際にその身体を差し出した。それが不死者が誕生した始まり……」


「まさか、そんな事が……信じらんねぇ……」


 唐突に語られた真実にレヴァナントは茫然と佇む。タナトスは何度かその名前を呟いてみては、唸るように首を傾げる。


「グリム・リーパー……お父さんとお母さんは知っている人なのかな……?」


 二人を見据えたガルゥーダは手元で何かを動かしている。無数に浮かび上がる映像の一つを見て、僅かに目を細めていたのであった。



◆◆


「さてと……ここまでの話、理解はしてくれたかな?」


 ガルゥーダの問い掛けに二人は我に返ったように顔を向ける。それまで同様に表情一つ変えない冷淡な騎士に、レヴァナントは厳しい顔つきで口を開いた。


「……お前の長い説明はなんとなくだが理解出来た。だが俺にはまだ聞きたい事がある、妹は、レイスは今何処にいる?」


「そうだったね、テュホニウス。君がここに来た理由、彼女を探していたのであったね」


「お前らの事情なんて正直言ってどうだっていい。俺はレイスが無事でさえいれば」


 レヴァナントは殊更に険しい顔つきで続けた。ガルゥーダが何かをまた動かすと、彼のすぐ目の前に映像を浮かび上がらせた。


「――これはッ、レイス!? レイスだッ、間違いない!」


「心配する事はない、彼女は無事だよ。ただ、今は君の知っているレイス・バンシーとは少し違っているけれどね」


 四角く映し出された映像に佇む一人の少女。騎士服を身に纏い鋭い目付きで何かを注視している様に見えた。


「あれ……え……? ポンちゃんが、レイスちゃん?」


 横で見ていたタナトスは少女を見るなり驚いた。それはフィロドロンの町で出会った少女で間違いなかった。


「ポンちゃん……? タナトス、お前レイスに何処かであったのか?!」


「う、うん。レバさんが修行してる間、町の牧場で……でもその時はテュポンって名乗ってたんだよ」


「ブレイズ、いや、ガルゥーダッ! レイスに何をしやがったッ!?」


 動転するレヴァナントは血相を変え怒鳴り散らす。


「彼女は今、種の力に呑み込まれてレイス・バンシーとしての意識は失われている。テュホニウスの半身、テュポンとしてこの国で騎士となった。無論それは全て終焉王が仕組んだこと、僕は何もしていない」


「そんな……どうすれば元に戻るッ!? 答えろガルゥーダッ」


 取り乱すレヴァナントは無意識に銃を向けて叫んだ。


「レバさん見て! ポンちゃん……いや、レイスちゃん、誰かと話してるみたいだよ」


 タナトスの声に視線を映像へと戻すレヴァナント。ガルゥーダはまた静かな口調で話し始めた。


「テュホニウス……いや、レヴァナント・バンシー。僕なら君と君の妹から不死の種を取り去る事が出来る。ただし、それをするには交換条件がある。僕の目的に協力してくれると約束してくれないか?」


「……何の約束だ」


 映像から目を離さずにレヴァナントは吐き捨てる。


「この世界の人々はまだ愚かな争いに興じようとしている。僕と共に世界の統一を図ろう。同じ革命家の子孫同士、再びこの天眼で亡き意思を継いではくれないか?」


 ガルゥーダの声は二人の間を不気味に響いた。


「ほら、見てごらん。また争いをする愚者が姿を表しているじゃないか」


 映し出される(レイス)の前に見覚えのある人物達が近づいていた。剣を構えたその二人に再びレヴァナントは愕然とする。


「まさか……アーレウスと……ティナ……なのか?」


 二人の刃はレイスに向かって振り下ろされるのであった。




 



 





 

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