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Ep.128 鳥兜の不死者

 寂れた古城のような建物は、永い年月を感じさせる風貌で静かに佇む。レヴァナントは想像を遥かに越えた巨大な建造物を見て、湿地林でアーレウスから聞かされた話を思い起こしていた。


聖骨大聖堂(セントボーンカテドラル)は天眼で最初に作られた研究施設』


 かつて北国の五賢人によって秘密裏に行われた実験施設。先程の聖血大聖堂(セントブラドカテドラル)とは明らかに漂う空気が違って見える。


「これはまた……随分久しい顔が一緒のようですね」


 鳥を模した飾り兜の騎士はオルクスの方を見てわざとらしいお辞儀をする。


「うざってぇ野郎だ。単刀直入に言ってやるよ、終焉王の命令で裏切り野郎を殺しに来た。素直に死ね」


 青筋を浮かべたオルクスの横顔を二人は伺うように見つめる。不死の種を持つもの同士が争うのを見るのは、二人にとって初めての光景なのであった。


「終焉王にはやはりお見通しでしたか。だがしかし、その程度の事は折り込み済みですよ」


 ガルゥーダと呼ばれる不死者は芝居がかった様に頭を振った。気後れしていたレヴァナントが口を開こうとした時、既にオルクスは大剣を振りかぶって突進していたのであった。


「うぜぇんだよ、今すぐ消えろッ――」


「待てッ、俺はまだそいつに聞きたいことが――」


レヴァナントの声は彼に届くことはなかった。黒刃はその間合いにガルゥーダを完全に捉える。


「やれやれ、君とは前々から話が噛み合わないと思っていたよ。仕方ない……」


ガルゥーダは両手を広げる。その瞬間オルクスの頭上に激しい光の礫が降り注いだ。


「――くそッ」


 雨粒のように降り注ぐ光はオルクス諸とも辺りを撃ち抜いた。巻き上げれる瓦礫があっという間に土煙を作り、周囲を包み隠すように視界を塞いだ。


「オルクスッ!? やっぱガルゥーダ(あいつ)も相当にやべぇッ」


 レヴァナントはすぐに呪剣を構えると、タナトスを後ろへと後退させようと視線を動かした。


「待っていたよ、レヴァナント・バンシー。いや、テュホニウスと呼んだ方がいいかな?」


 耳元で囁かれたその声に全身が警戒を打ち鳴らす。振り向き様に銃を抜きかけた刹那、ガルゥーダの両手はレヴァナントの肩をガッシリと掴んだのであった。


「まぁ待ちたまえ。君はバアル・ゼブル(かれ)と違って対話が出来るだろう?」


「な……ッ?!」


 ガルゥーダはそう言ってレヴァナントの肩を軽く叩くと、剣を下ろすように片手を伸ばした。


「レバさん、この人……」


「タナトス、お前は下がってろ! 油断させてまた不意打ちがあるかも知れねぇ」


 タナトスは何か言いたげに眉を寄せたが、黙って頷くと二人から距離を置いたのであった。


「失礼な、そんな非道な攻撃はしないよ。僕は君と話がしたいだけさ……なにせ、ようやく念願の再開が叶ったのだからね」


「再開だと……?」


 訳のわからないガルゥーダの話に、レヴァナントはまだ銃に手を掛けたまま聞いていた。





「僕の事は覚えていないか。無理もない、あの時瀕死の君の意識は途切れ掛けていたのだからね」


「あの時……? 俺はお前の事なんか……」


言い掛けたレヴァナントに違和感が過る。見覚えのある筈がないのは確かだが、何故かその声に引っ掛かるものがある。それは遠い記憶の中に埋もれた、夢うつつの中で聞いたあの奇妙な声。


「まさか……お前が……あの時、俺を不死身にした……?」


「そうさ、覚えていてくれて光栄だよ。あれから立派に種を成長させた様だね」


「あの声の主は……終焉王じゃあなかったのか……?」


 戦地で死線を彷徨ったレヴァナントが今際に聞いた声。それは内なる何かを呼び起こし、彼を不死者と変えた。


「終焉王はこんな粋なことはしないさ。僕だからこんなに素敵な奇跡を廻り合わせた。僕だからこそ、感動的な再開の場を設けられた」


 ガルゥーダは天を仰いで続ける。自らに酔いしれるかのように浸るその姿に、レヴァナントの頭の中はさらに混乱するのであった。


「――糞野郎がッ、あんなもんでくたばるかよ」


 叫び声と同時に優越感に浸る鎧騎士の胴を分厚い刃が貫いた。一瞬の出来事にそれがオルクスの仕業と気がつくまで数秒掛かる。ようやく黒刃に気がついたガルゥーダ自身も吹き出す鮮血に手を当てて振り返る。


「すまない、君の事はすっかり忘れていたよ」


「それは余裕のつもりか? このまま引き裂いてやってもいいんだぜ?」


「君の冗談はつまらないな」


 ガルゥーダは貫かれた刃を掴むと押し返すように力を込めた。両手で構えたオルクスの大剣はみるみるうちに押し返される。苛立ちを見せるオルクスの口元は僅かに動く。


「教養のねぇ馬鹿には、わからねぇだけだろ」


 オルクスは大剣を手放す。すぐさま刃に変わる異形の両手は、がら空きの首を目掛けて振るわれた。


「バアル・ゼブル、君の力は僕には及ばない。そしてこの場所では、()()()()さえも……」


「あッ――?!」


 両手がガルゥーダの首に届く刹那、突然異形の腕は元の姿に戻る。撒き散らされる鮮血はオルクスの両手から吹き出していた。


「てめぇ、何しやがったッ!?」


 距離を取る様に離れるオルクス。ガルゥーダは貫かれた大剣を引き抜くと、追い討ちとばかりに投げつけた。


「――クソがぁッ」


大剣は主を貫くと大聖堂の壁に突き刺さり止まるのであった。


「君はそこで大人しくしていてくれ。僕は今とても大切な話をしているんだ、邪魔は後にしてほしいな」


 ガルゥーダはそう言うと何事も無かったかのように向き直る。傷口は既に塞がっていた。


「待たせて悪いね、どこまで話したかな?」


 奇妙なな鳥頭の不死者はレヴァナントに語り掛けるのであった。

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