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Ep.121  大聖堂の再会

「この不気味な空の色はいったいどうなってんだ?」


 天眼(クレアボヤンス)上空を飛ぶ飛空艇は地図を頼りに聖血大聖堂を目指していた。不思議な事に天眼の空は周囲とは異なり、濁った紫色が拡がっている。遠くに浮かぶ水平線すらも不気味なその空が続いていたのであった。


「まるで東国(ギオジン)の空みたいだね。もしかしてこの上も見えない壁で仕切られているのかな?」


 タナトスは上部の窓を見上げて呟いた。地図と前方を交互に見るレヴァナントは曖昧に相槌を溢す。


「下のほうはなんだか滅茶苦茶だ」


 地上は土埃で視界が悪い。時折覗く瓦礫の数々はとても人が生活しているようには見えない。


「見えたぞ、たぶんあれがそうだ」


 操縦桿を倒すと飛空艇は緩やかに下降を始めた。前方に見える瓦礫の山の中に原型を留めたままの建造物が確認できる。


「良かった、大聖堂は無事みたいだね」


「……ああ。何か(レイス)に繋がる手掛かりが残っていればいいが」


 荒廃した瓦礫の山の中で開けたら場所を見つけると、機体下の降着装置を動かす。着陸の衝撃は想像以上に飛空艇を揺らした。


「ふぅ……ようやく辿り着いたね、早く行こう」


「おい、念のため周囲を確認してから――」


呼び止めようとした時には、彼女はすでに操縦席から飛び降りていた。慌てて後に続くレヴァナントは一頻り辺りを見回す。空の上から見た以上に荒廃した景色は、まるで命を削って生き延びた戦地のようなのであった。


「酷ぇな……無差別に破壊され尽くしてやがる」


 家屋と思わしき崩れかけの建造物、焼け焦げ積まれた瓦礫。時折鼻を突く腐臭のような嫌な香りは、彼にあの大戦を思い出させていた。

 

「レバさん、大聖堂の中入れそうだよ」


 タナトスの声に我に返ると、不自然なほど崩れ落ちていない聖血大聖堂(セントブラドカテドラル)に目をやる。近付いて見れば其処らじゅうに焼け跡が見てとれた。


「こっち、こっち!」


 手招きする彼女は短い階段の上で指差している。鉄の塊のような二枚扉は少しだけ隙間が開いていたのであった。


「聖血大聖堂……ここにレイスは居たはずなんだ」


 急い彼女の方へ駆け寄ると、レヴァナントは片方の扉に手を掛けた。逸る気持ちを堪えながら慎重に開いたが、思いの外その扉は軽く動いた。屋内からは外とは違ったカビ臭いような異臭が立ち込めている。外装とは異なり、屋内はかなり荒らされていたのであった。


「……誰かいるよ」


 昼間にしては薄暗い大聖堂の中でタナトスは目を細めた。彼女の言う通り人影のような何かが奥の方で動いた、


「まさか……レイスなのか?」


 人影は二人の気配に気がつくとゆっくりと動き出した。



 大聖堂の内部は窓らしきモノは塞がれていて、崩れかけの廃墟と化したその場所は夜のような闇が拡がっていた。


「レイス……そこにいるのか?」


 レヴァナントは暗闇にたたずむ影にもう一度声を掛ける。暗がりの中でナニカが二人に近付いて来る気配を感じた。


「見て……あの人って……」


先に暗闇に目の慣れたタナトスは気がついた。すぐにレヴァナントもその人影の正体に気がつく。思いもよらないその相手は、最低な再会なのであった。


「なんで、お前がここにッ……?!」


 途端に険しい表情で声を荒らげた。二人を見つめるその視線には明らかな殺意が感じられる。


「……てめぇは、レヴァナント・バンシー? 糞みたいな野郎にまた遭っちまった、まったく今日は最悪な日だ」


「こっちこそ、お前の顔は二度と見たくもなかったな」


 北の王都ネストリアを襲い、悪魔のような強さでレヴァナントを打ちのめしたその男。アーレウスの弟子であり、北国(ネストリス)第二十三王子のオルクス・オセル・ネストリアスはあの夜と同じ圧を放って鼻を鳴らすのであった。


「下がってろタナトス」


「なんだ? またボロ雑巾みたいに殺られたいのか?」


 両者今にも飛びかからんと云わんばかりに睨み合いを続ける。そんな二人よりも先に口を開いたのはタナトスなのであった。


「ちょっと待って! レバさん今は戦っちゃだめだよ、レイスちゃんを探すんでしょ」


 思いがけないその声にレヴァナントは戸惑いながらも、その手を得物から離す。


「あの時の扉のガキか? 随分容姿がかわってやがるな。まぁ……俺も雑魚に構っている暇はねぇ」


 オルクスはつまらないといった顔で肩越しの大剣から手を離す。不貞腐れたような彼の表情に二人はまた呆然とするのであった。


オルクス(おまえ)がここにいる目的はなんだ?」


「ああ? 話すわけねぇだろ、頭まで弱いのか」


 簡単な挑発にレヴァナントは顔をひきつらせて耐える。そのやり取りを見ていたタナトスが思い付いたように口を開いた。


「そっか、ティナちゃんとおじさんに会いに来たんじゃない?」


「……ティデイナだと?」


 彼女の言葉に僅かではあるもののオルクスの表情が動いた。その変化を見逃さなかったレヴァナントは、しめたとばかりに口を挟む。


「アーレウスからお前の事情は聞いた。何故、終焉王(ラ・ファン・ビシュヌ)に手を貸す?」


 師であるアーレウスの名前を出すとオルクスの顔色あからさまに変化をみせる。


「……余計な事話しやがって。気に喰わねぇな、やっぱりこの場で消して殺ろうか?」


 途端に険しい表情に変わるオルクスからは激しい怒りが漏れだして見える、右手は背負った大剣の柄を握っていた。触れてはいけない琴線に触れてしまったレヴァナントは、思わず武器に手を延ばした。


「ティナちゃんもおじさんも天眼(ここ)に来てる、二人とも会いたがってたよ?」


 無垢なタナトスはそのまま伝える。暫しの沈黙の後、オルクスは不機嫌そうに剣から手を離したのであった。


 

 

 

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