表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
騎士と大聖堂の秘密 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/199

Ep.115 雲の上の現在

「外側から見るより、中は本当にすげぇな……まさに騎士の館って感じだ」


 広々とした廊下を進むレヴァナントは、壁に飾られた刀剣に触れ思わず声を漏らした。


「ほら見て、面白い飾りも沢山あるよ!」


 壁に飾られた奇抜な甲冑を指差してタナトスははしゃぐ。


「ふ、二人とも! ちょっと大人しくしていてよ」


 通り際に睨みを利かせてくる館の騎士達に会釈をしながら、ティナは一人慌てていた。


「どうぞ、此方へ。我が館自慢の謁見の間でございます」


 案内役の男が華美な装飾の扉を開く。四人は云われるがままに足を踏み入れるのであった。


「それではブレイズ様がいらっしゃりますまで、しばし御待ちくださいませ。失礼致します……」


案内をしてくれた男も恐らく騎士なのであろう。何気ない所作の一つ一つに厳かな気品が感じられる。あまりのかしこまり具合にレヴァナントはぎこちなく頭を下げた。


「しかし、アーレウスも人が悪いよな。初めから知り合いだと伝えればあんな騒ぎになる事は……」


「お前が勝手に先走ったのだろう? しかしまぁ、中央と因縁のある俺が現れたとあれば警戒される恐れもある。どのみち名乗るつもりも無かった。結果的にら友好に迎えて貰えて良かったじゃないか」


「い、いや、今も物凄く殺気立っていると思うんですけど……」


 扉を指差すティナは苦笑いで呟く。分厚い両開きの向こうでは先程まで争っていた館の騎士達が聞き耳を立てているのであろう。気配は尋常ではなく感じ取れるのであった。


「大体ね、レヴァナントは短気すぎるのよ。何もいきなり門兵に斬りかからなくっても……それにレヴァナント(あなた)、あのまま上位の騎士と戦っていたら確実に死んでいたわよ?」


「確かに上級騎士ってヤツがとんでもねぇって事はよく分かった。さっきのバロミロス(ヤツ)でも上級の二桁席だもんな」


 二人はチラリとアーレウスを見る。いくら過去の事とはいえ、上級騎士の頂点に君臨していたこの男(アーレウス)の実力は計り知れないと息を呑むのであった。


「ねぇ、おじさん。さっきのナントカ騎士のブレ……ブライ……?」


「ブレイズな」


 呆れたレヴァナントが代わりにその名を告げると、照れたように笑うタナトス。


「ああ、アイツの親父……先代の神命騎士とは古い仲でな。現役の頃はよく競いあって鍛練に励んだもんさ。その頃はまだ子供(ボウズ)だったから、さっきは見違えたよ」


「初代の神命騎士……確か師匠の後に騎士総長に成られた方ですよね?」


 アーレウスは黙って頷く。


「その親父さんを訪ねて来たのか?」


「いいや、アイツは数年前に病気で亡くなったそうだ」


 曇り顔のティナはすぐに顔を上げて口を開く。


「それでは、私達を何故ここに?」


 答える事なく首を振ると、アーレウスは独り言のように呟いたのであった。


「……俺の勘が当たっていれば。恐らく……な」


「?」


 三人は顔を見合わせて首を傾げる。その時扉を叩く音が広間に響くのだった。




「お待たせしました。アーレウス様、改めて御会いできて光栄でございます」


 白銀の鎧を脱いだブレイズは簡素な騎士服に着替えて現れると、アーレウスに向かって深々とお辞儀をしたのであった。


「俺も嬉しいよ。あんな泣き虫だった坊やがまさか親父(アーサー)の後を継いでいるとわな。しかも第一席だなんて、アイツも雲の上で喜んでいるだろう」


 ブレイズの肩に手をやると、アーレウスは固く彼の手を取った。


「まだ父のようには行きませんが、日々精進しております。アーレウス様は確か、お弟子さんを取っておられると小耳に挟みましたが……後世にもその偉大なお力を与えるとは、やはり父の憧れた伝説の騎士でございますね」


 純粋な羨望を向けるブレイズにこそばゆいのか、アーレウスは頭を掻いて笑っていた。


「なぁに、うちの弟子はまだまだ未熟者だよ」


 久しぶりの再会に沸く二人に、レヴァナントは遠慮がちに口を開いた。


「な、なぁ……? 結局俺達がここに来た理由はなんなんだよ」


「おや、君は……」


レヴァナントの言葉にブレイズは顔を向ける。踵を返して近づいてくる第一席に、思わずたじろぎを見せる。


「僕の館で派手に暴れてくれたようだね? 館の門兵達が随分世話になったそうで」


「うッ……そ、それは申し訳ない事を……あ、謝るよ」


 ブレイズの鋭い眼光に、レヴァナントは思わず頭を下げた。殺気のような圧力が広間を満たしたのはほんの一瞬、すぐに彼は爽やかな笑みを浮かべて話し始めた。


「あれだけ激しく戦ったのにも関わらず、目立った怪我人は一人もいなかった。君、わざと手を抜いてくれたんだろ? なかなか見所のある男だ、きっといい騎士に成れる」


「は、はぁ……」


肩を叩かれたレヴァナントは思わぬ彼の言葉に困惑する。ひとしきり見守っていたティナは安心したように大きな溜め息をついたのであった。


「ところでアーレウス様。本日は何故この館に要らしたのですか? 僕も理由を聞かせて頂きたい」


「それはだな……」


アーレウスは何故かレヴァナントを見たのであった。


◆◆


 豪勢な客人様の長椅子に腰を下ろすと、アーレウスはこれまでの経緯を簡単に語り始めた。合間でピクリと眉を動かしたブレイズであったが、彼は終始黙った話を聴いていたのであった。


「お話は理解できました……アーレウス様達は本当に天眼(クレアボヤンス)へ向かうおつもりですか?」


 場の空気が一瞬で冷えた様に思えた。まっすぐアーレウスを見つめるブレイズからは、並々ならぬ迫力を窺えたのである。


「……そうだ、彼処には俺も因縁がある」


「それは充分にわかっております。父からも聴いておりましたので……しかし、何故今さらになってその様な危険を犯そうと云うのですか?」


 しばし天井を見上げたアーレウスはフッと笑って口を開いた。


「年甲斐もなく焚き付けられたのさ……コイツにな。一度は諦めたはずの英雄気取りの欺瞞に火が着いちまった」


 茶化すような彼の言葉に、ブレイズはレヴァナントへ真剣な眼差しを向ける。


「君は妹さんを探していると言っていたね。残念だが、聖血大聖堂(セントブラドカテドラル)は現在閉鎖されている」


「なんだってッ?! 本当なのか、いやッ、それならレイスは今何処にッ?!」


「レバさん落ち着いてっ!」


 取り乱すレヴァナントはすがるような目でブレイズを見つめる。


「本当だよ。今現在、天眼は国の中央政権が管理している。昔のように騎士の管轄からは離れていて、一席(うえ)の僕ですら詳しい内情は知り得ない。ただし、その代わりと言っては何だが……過去の悲劇を繰り返さない為にも、三つの大聖堂(カテドラル)の運用は騎士達の強い反対で一年程前に撤廃させた」


「そこに暮らしていた人達は? 妹は無事なのか?!」


 ブレイズは瞳を閉じると首を横に振る。


「そんな……ここまできて……クソォッ――」


「レバさん……」


 心配そうに見つめるタナトスはあることを思い出す。それは東で聞いたレヴァナントの()の話、祈祷士ステラは彼の()()()()()は別にあると言っていた。


「大丈夫だよ。レバさんがまだ不死者のままって事は、きっとレイスちゃんも無事だって事なんじゃない?」


「……だけど、もう何の手掛かりもねぇ」


 落胆する彼にアーレウスが口を開いたのであった。


「案ずるなレヴァナント。お前がこの国に導かれたのには何か理由があるはずだ。終焉王(ラ・ファン・ビシュヌ)か……にわかには信じ難い事だが其奴には神通力のように未来を見通す力があるんだろ? だとすれば天眼に向かう事すらも計画の一部の筈だ」


 俯いたままのレヴァナントにそっと手を置くと続ける。


「手掛かり位は残っているかもしれん。当時を知る関係者は必ず其処にいる筈だ、腐るのはその後でも遅くはないだろう」


 何の確証もないアーレウスの言葉は的を得ている気がした。レヴァナントは再び声を荒げると立ち上がった。


「ブレイズ……俺も天眼に向かう。誰に止められても必ずな」


 レヴァナントの強い意思を見て、嬉しそうにタナトスも声を上げる。


「よし、皆で空の上に行こうっ!」


 二人の様子に微笑むティナは、一人目を見開いて驚く人物に驚いた。


「ちょっと待ってくれ……君、レヴァナントと言うのか? もしかして、レヴァナント・バンシーなのか?!」


 神命騎士ブレイズは、レヴァナントの名を尋ね驚きの声をあげるのであった。


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ