Ep.114 太刀と白銀と
活火山による地響きは断続的に続いていた。腹の底を揺らすような地鳴りを掻き消したのは、目まぐるしい叫び声であった。
『――緊急事態、正門に強襲ありッ』
鎧を砕かれた門番は取り出したナニカに声を荒ぶらせる。がなり散らすその声に応えるように、重厚な扉が開かれたのであった。
『――貴様らッ、ここを神命騎士の館と知っての狼藉か?!』
館から現れたのは同じような全身鎧を着こんだ男達。怒りに満ちた様な彼等の眼差しに、レヴァナントは雄叫びの如く叫ぶ。
「面倒臭せぇな、まとめて掛かってこいッ!」
彼の叫ぶ声に鎧達は一斉に武器を構えた。
「師匠、はやくレヴァナントを止めないと」
時折吹き上がる火山の焔を悠長に眺めた師匠にティナは慌てて告げる。
「気にするな。あの程度ならレヴァナントは負けんだろ」
「そうゆう話じゃなくてッ!」
騒がしい二人の隣でタナトスだけは楽しそうに声援を送っていた。
「レバさん頑張れぇっ!」
「ちょっと、タナトスまで?! もし私達が逆賊だなんて第一席に勘違いされたら――」
取り乱すティナを他所に、レヴァナントは迫り来る館の騎士を次々と薙ぎ倒してゆく。雑兵と思わしき同じような鎧の男達を一掃すると、殊更仰々しい鎧達が現れた。
「まだ沸き出てきやがるかよ」
レヴァナントの背後から伸びた巨大な黒蛇は威嚇の牙を剥いて哭く。異様な怪物に億すことなく、鎧姿の一人が前に出た。
「神命騎士団が一人、上級第18席乙剣のバロミロスだ。異能の刺客よ、悪く思うな」
突如名乗りを上げた鎧の人物が兜を外してレヴァナントを睨む。無骨な太刀を構えたはジリジリと距離を詰めてくる。
「今度はただの雑兵じゃねぇみたいだな……だが」
一足で太刀の間合いへと飛び込むレヴァナントに、バロミロスは顔色一つ変えずに受け流す。
「誰であろうと関係ねぇなッ!」
「見事な身のこなしだ、異国の人間とは思えん。しかし、これしきで我等騎士と剣を交えようなど思い上がるな」
バロミロスの太刀はレヴァナントの連撃を全て受けきると、身を翻して一撃を振るう。
「――っ、ヤロウォッ!」
寸でのところで太刀が止まる。背後から刃に巻き付いた黒蛇に気がつくとバロミロスは剣を手放す。同時に低く屈むとレヴァナントの腹部に肘を撃ち込む。悶絶必死の一撃にレヴァナントの黒蛇は太刀を離した。宙に投げ放たれた剣を手に取るバロミロスは、止めとばかりに大きく振りかぶった。
「――こんなもんでくたばるかよッ」
「……何ッ?!」
顔を上げたレヴァナントの左手は銃を抜き取る。乾いた銃撃音が鳴り響いた。
◆
『皆の者、剣を退けッ! 一体これは何の騒ぎだ――』
再び開かれた門の向こうから聞こえたら音吐朗々な声に、すべての者が静まり返る。すぐさま跪く鎧達の姿に、声の主が誰であるのかは想像がついたのであった。
「よぉ、随分とデカくなったなアーサー二世」
静まり返る中で口を開いたアーレウスは、気さくな声色でその人物に片手を振って見せる。
「貴方は……戦王アーレウス様? これは懐かしいッ! まさか館の前で暴れていたのがあなた様とは……」
白銀の鎧姿の人物は門をくぐり近づく。
「騎士団長のご命令ならば仕方ない。異能の剣士よ、お互い命拾いをしたな」
太刀を払うバロミロスは刃を鞘へと戻して言った。足元に転がる切り裂かれた弾丸に、レヴァナントは皮肉で応えた。
「この距離で弾丸を斬るとか……あんたも充分、異能だろ」
バロミロスは白銀鎧の騎士に頭を下げると館の中へと戻って行った。息を呑んでそれを見ていたティナは、我に返った様に頭を深く下げた。騎士は頭を上げろと云わんばかりに、首を振って口元を弛ませたのであった。
「御健在で何よりです、ご無沙汰しておりますアーレウス様」
アーレウスに語り掛ける白銀鎧の騎士は片手を差し出す。その手を取るアーレウスも懐かしそうに顔を綻ばせていた。
「なんだよ、アーレウスの知り合いがいるんじゃねぇか……それなら早くその一席とやらに会わせて貰えば――」
「――レ、レヴァナントッ!」
ティナの甲高い叫び声にレヴァナントは耳を塞ぐ。
「こ、この方こそ、第一席……神命騎士ブレイズ様よ……」
震える声でティナが告げる。レヴァナントとタナトスは白銀の騎士をまじまじと見直す。二人の視線に気が付いた騎士は向き直ると口を開いたのであった。
「僕がアスピーテ・サスキャルド・ブレイズ。通名は神命騎士ブレイズだ。アーレウス様と共に居る君達は一体……?」
南国最高位の騎士とは思えない若年の青年は、纏った鎧と同じ銀髪を揺らして二人に近づく。




