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Ep.113 乱喰牙

 南大陸の西側に広がる山脈には海底から繋がる火山が連なっている。麓の街シュナイドルトに暮らす人々は地底で渦巻く溶岩の恩恵を余すことなく利用し、大都市として発展していた。


 ユグリンの街から飛空艇に揺られること数時間、レヴァナント達一行は地上に広がる建造物群に声を上げていた。


「街から離れた山間に着陸してくれ」


 アーレウスは白煙立ち上る山脈を指して告げる。レヴァナントが操縦桿を倒すと飛空艇はゆっくりと降下を始めたのであった。



火山街(シュナイドルト)か……確かにさっきいた場所より随分暑く感じるな」


 首元を動かすレヴァナントは時折吹き荒ぶ熱波に顔を歪めて呟いた。暑苦しい鎧と毛皮のローブを脱いだティナとタナトスは、お互いを見て苦笑いをする。


「神命騎士の館はすぐ側だ。ここから歩いて向かうぞ」


 アーレウスは荷物を肩に担ぐと岩肌の剥き出しになった山道を歩きだした。三人も彼の後を追って歩きだすのであった。


 足場の悪い岩道を進むと、白煙はさらに濃く立ち上る。段々と悪くなる視界にタナトスはレヴァナントの服を掴む。振り返る事もなく彼は先頭(アーレウス)を見据えて足を進める。やがて霧が晴れるように視界は大きく広がると、何かを見つけたティナが声を上げた。


「火山の近くにこんな館が……」


辺りの気温はさらに上昇している。火山を背にした山間には立派な屋敷が幾つも連なっていた。


「全てブレイズの所有物だ。母屋を目指すぞ」


 顔色一つ変えずにアーレウスはまた歩きだしていた。彼の口振りから第一席とは面識があるのかもしれないと、三人は少しだけ安心していたのであった。


◆◆


『――この館は上級騎士ブレイズ様の邸宅である。何か御用か?』


 門に辿り着いた一行を待っていたのは門番と思わしき騎士が二人。巨大な斧槍(グレイブ)を片手に、大盾を背負った体格の良い騎士達は威嚇のように地面を打ち鳴らした。乾いた音と共に威圧感がまるで風のように一行の顔を撫でる。たじろぐ三人を他所に、戦王アーレウスは一歩前へと出ると口を開いた。


「我々は上級49席剛剣騎士パーシバルとその使いの者だ。神命騎士ブレイズ殿との謁見を願いたい」


「「――ハァ?!」」


 思わず彼の顔を覗き見るレヴァナントとティナは、まさかの発言に声を荒げた。


『上級49席の騎士?』


 門番はお互いの顔を見て肩をすくめた。兜で隠れた彼等の表情は容易に予想がつく。


『まさかとは思うが、ブレイズ様と面識はあるのでしょうか?』


 右側に立つ門番騎士は笑いを噛み殺したような口振りで尋ねる。


「いや、初対面だが?」


 呆れたように肩をすくめたアーレウスは事も無げに言い放った。すぐに門番達の野太い笑い声が辺りに響き渡る。


『……失礼ながら、貴殿らではあのお方のお目を汚すだけ。まぁ、分かりやすく言えば、真っ直ぐお引き取り願おうか?』


 左側に立つ騎士は笑いながら告げる。その軽率な仕草にアーレウスはため息混じりで漏らしたのであった。

 

「この国の騎士はいつからこんなに軽んじられたのか……仕方ない、抜剣を許可する。目にもの見せれば、態度を改めるだろう?」


『ハハハ……なんだって?』


 門番は一際大きく笑う。


「師匠、そんな、こんな場所でいいのですか?!」


 動揺したティナは騎士剣に手を振れるでもなく騒ぎたてた。代わりに怒りを露にした黒服の異国人。眉間に深い皺を刻んだ彼は凄むようにがなり散らす。


「うざってぇな。俺は今急いでるんだ、お前らみたいな下っ端に構ってる暇はねぇんだよ」


「……そうか、レヴァナント。なら代わりにお前が目にもの見せてやれ。お前の極剣、()()()をな」


「ら、乱喰牙……?」


 ティナが聞き返すと、何故か不快そうに顔を歪めたレヴァナントは応える。


アーレウス(おっさん)が勝手につけた技名だ」


 当のアーレウスは何故か得意気に頷いている。


「レバさんやっちゃえ!」


 それまで黙って様子を見ていたタナトスは嬉しそうに拳を突き上げるのであった。



◆◆◆



『貴様、この神聖な館を前にして狼藉を働くつもりか?!』


「うるせぇって言ってんだろ。俺は今、気が立ってんだ……痛い目見たくなけりゃ黙ってそこを退け」


 レヴァナントは呪剣を右手に構えると身を沈めるように構える。直後に現れた黒蛇はその剣に巻き付いた。


『こいつ、異形の輩か――?!』


 門番が巨大な斧槍を両手で握る刹那、レヴァナントは飛び出していた。二人の騎士のすぐ目前でその刃を地面に突き立てた彼は、叫び散らすのであった。


「邪魔するなら容赦はしねえって言ったよなッ!」


 巻き上げた黒蛇はその牙を剥き出しに周囲を切り裂いた。ほんの一瞬の出来事に固まる門番達は、通り抜けたつむじ風に顔を見合わせる。


「二度目にしては、上出来な技の完成具合だな」


 アーレウスが呟く。その声とほとんど同時に門番の鎧と斧槍は粉々に切り裂かれたのであった。


「一席だか、なんだか知らねぇが……黙ってここに連れてきやがれッ!」


 レヴァナントは呪剣を地面から抜くと叫ぶのであった。



 


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