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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
南の大国【騎士国家デュランドール】編
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Ep.98 剣と彼女の秘密

 レヴァナントが修行を初めて五日目の夜。今日も戦王アーレウスの厳しい鍛練が始まっていたのであった。


「まだだな。お前の剣は軽すぎる」


「ッそぅ――」


渾身の斬撃は軽々といなされて、レヴァナントは林の中へと投げ出される。


「レヴァナント、お前の剛剣にはまだまだ力が乗っていない。もっと全身でその一撃を振るえ」


 アーレウスは「もう一度」と言って木剣を構える。起き上がったレヴァナントは再び渾身の力で打ち込むが、またしても片手で弾かれるのであった。


「今度は私が行きますッ」


 刺突剣を突き立てるティナの得意技も、師の前では軽々と受け流されている。息をあげる二人とは対照的に、呼吸一つ乱れないアーレウスは静かに口を開いた。


「レヴァナント、お前は目に頼りすぎだ。後の先の戦闘に馴れすぎて一撃の威力を躊躇っている。"流剣"や"重剣"の呑み込みはいいが、"剛剣"の習得が一番の課題だな」


 レヴァナントに師事するアーレウスは、自身の剣技についてその殆どを伝えていた。戦王の強さの秘密を聞いたレヴァナントは彼の教えに素直に応じ、連日の激しい鍛練をこなしていた。


 一撃の威力だけを極限まで高めた【剛剣】、相手の力や技の勢いを受け流す【流剣】、激しい手数で圧倒する連撃【重剣】、初太刀を神速の域まで高める【速剣】。これら四つの型から成る戦王の剣技、アレス流剣術。彼のアーレウスと言う騎士名も、ここから取られたのだと云う。


「ティナ、お前は反対に一撃に拘りすぎだ。隙がでかい大技は相手の動きをもっと慎重に読みきってからにしろ」


 肩で息をきりながら立ち上がるレヴァナントは、自分に向けられた視線に気がつく。見れば呆けた様に口を開いたティナと視線がぶつかるのであった。


「……? なんだよ」


「え? あ、ごめんなさい。なんでもないの、少し……」


「少し?」


 レヴァナントは訝しげに尋ねた。何かを躊躇うようにティナは短く答える。


「少し懐かしくて。昔いた兄弟子を思い出してた……」


「兄弟子……?」


 レヴァナントがさらに尋ねようとすると、今度はアーレウスが遮るように口を開いた。


「無駄口叩いてる暇はないぞ。さっさと来い」


 激を飛ばすアーレウスの一声で、二人はまた剣を振るう。



「よし、少しの間休息だ」


 そう言ってアーレウスは二人に獣の内皮で作られた水袋を投げ渡す。慌てて掴み取るレヴァナントは蓋を開けて勢いよく口に流し込んだ。


「少しいいですか、師匠……」


 水袋に手をつけないティナは神妙な顔つきで口を開いた。


「……私の()()を見ていただきたい」


「極剣……? なんだよ、アレス流にはまだ他の型があるのか?」


 ティナの口から飛び出た極剣という言葉にレヴァナントは二人を見て言った。アーレウスは無表情で彼女を見返している。


「……中途半端な仕上がりで俺に挑む気か?」


 口を開いたアーレウスから尋常ではない圧力を感じる。ティナは一瞬顔を曇らせたが、負けじとまた語気を強めた。


「お願いします。今のままでは私はまた傍観者にしかなれない、力が欲しいんです」


「駄目だ。自殺の手助けをする為に、俺はお前に剣を教えたつもりはない」


 先程よりも小さな声でアーレウスが告げると、喰い下がらないティナは「でも」と叫んでいた。


「ちょっと待ってくれよ。俺にも解るように話してくれ。ティナ、お前は何をしようとしてるんだ?!」


 困惑するレヴァナントを見るティナは何処か寂しそうな視線を送る。一向に応えようとしない彼女の代わりに、(アーレウス)は答えた。


「剛、流、重、速。四つの剣を極限まで高めた者はその終へと技を昇華させる。アレス流剣術、最後の極地である極剣へな」


「極地? 一体なんなんだよ、それは」


 理解を越える戦王の言葉に、レヴァナントはさらに眉を寄せて聞いていたのであった。


◆◆


「極剣。すなわち四つの型から極みに至る技の集大成、解りやすく言えば必殺の剣技だ。お前らが今まさに学び目指している到着点でもあり、剣士としての始まりとも言えるな……」


 アーレウスは木剣を構える真似をして話す。いまだに浮かない顔のティナと、いっそう興味惹かれるレヴァナント。二人の表情を見て重い口調で師は話す。


「アレス流剣術の皆伝はこの極剣を成して初めて継がれる。ただし、それは師の極剣と合間見えてこその代物だがな」


「それって……つまり」


 レヴァナントは彼の言葉に理解を示した。アレス流剣術皆伝とは、師の極みに至る剣と同等以上の力を示すことなのだと。


「それでも私は成してみせます。それが私の……いえ、私は誰の為にこの剣を振るうのか自分自身で決めたいッ」


 ティナはいい放つと固く唇を噛み締めた。その顔には後悔や苦悶といった複雑な色がみえるのであった。


「……話してみろ。堅実主義のお前が、なぜそこまで力に拘るのか」


 見透かしたように告げられる師の言葉に、ティナは深く息をついて語り出すのであった。


()()()……私は二人の仲間を見殺しにして逃げてきました。46席と47席、共に余暇訓練を耐えた仲間です」


「上級騎士が二人も?」


 尋ねられたティナはうつ向いて首を振ると、極々小さな震えを声にのせて言った。


「二人は翌朝遺体で見つかりました。とても残虐な殺され方で……私はまた誰も救えなかった、兄弟子(オルクス)の時だってそう。だから……私は今、力が欲しいんですッ」


「ちょっと待てッ?! ティナ(おまえ)、何でそいつの名前を、オルクスだと?」


 彼女の話を黙って聞いていたレヴァナントは、悪夢のようなその名前に声を荒げるのであった。


 

 


 

 

 


 


 


 


 


 

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