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呪われ不死者の七つの死因【セブンデスコード】  作者: 夏野ツバメ
南の大国【騎士国家デュランドール】編
101/198

Ep.93 夜半の力試し 下

Ep.92の続きになります

「くそッ、何なんだよこの馬鹿力は?!」


 レヴァナントを斬りかかるエモノは何の変哲もないただの木片だった。しかしアーレウスの振るうソレは極大剣のような重さで迫ってくる。


「よく止めたな。なら、これはどうだ?」


「ぐッ――」


がら空きの胴を蹴りあげられたレヴァナントは苦痛な声をあげて吹き飛ぶ。勢いのまま転がると、すぐさま銃を抜く。引き金に掛けた人差し指が動くよりも速く、アーレウスは間合いをつめて振りかぶっていた。


「飛び道具はありだが、そう簡単に使わせるとは言ってないな」


「ッ!? 冗談だろッ――」


 迫り来る乱撃を辛うじて避ける中、レヴァナントは何故か戦王(アーレウス)の太刀筋に不可思議な感覚を覚えるのであった。


「――退いてッ」


 アーレウスの背後から再び豪風が巻き起こり、ティナの刺突剣が奇襲を掛ける。死角からの見事な一撃。


 しかしこれもまた身体を捻り受け流すと、ティナの背を鋭く穿つ。弾かれた彼女はレヴァナントを巻き混んで林中へと飛ばされていった。



「……痛ッ、レヴァナント(あなた)平気?」


「なんとかな……あのアーレウス(おっさん)本当に化け物かよ」


 薙ぎ倒された木々の中から起き上がる二人は、まだ残っている衝撃(ダメージ)に痺れた足をフラつかせる。確かに近づく強敵の足音に、レヴァナントは頭を振って剣を構え直した。


「レヴァナントと言ったか。よく初見で俺の攻撃を見切れたな。なかなか筋がいい、何処で鍛えた?」


 依然として無傷のアーレウスは余裕綽々と言った顔で口を開く。彼の変幻自在の太刀筋に確かに覚えがあるのが何故なのか。木棒を肩に置くささいな仕草に、レヴァナントの脳裏にある光景が浮かんだ。


 それは苦々しい思い出したくもない、幾度となく死んだ()()()の記憶であった。


「さあな? 自分でも驚いてるよ。ただ……あんたとよく似た太刀筋の奴と、前に戦った事があるだけさ」


 レヴァナントの皮肉混じりな返答に、アーレウスは少しの間沈黙する。すぐに鼻をならし、自嘲染みた声色で漏らした。


「……フン。それはなんとも、嫌な因果ってやつだな」


 彼の言葉の意味がわからないレヴァナントは怪訝そうに眉を寄せる。そんな二人のやり取りを黙って聞いていたティナは、黙したまま刺突の構えを取る。


「また"剛剣"か? それは通用しなかっただろ」


「いいえ、師匠。私もまだ全力を試していない」


 構えた長剣を弓引きのように身体から離すティナは、瞳を閉じて深く息を吸った。


(ティナの奴、不死身の種持ちならまだしもいくらなんでも頑丈すぎるだろ……?)


 戦王の斬撃を2発も喰らっていながら立っている彼女に、レヴァナントは内心驚愕していた。


「ティナ、無理すんな。悔しいが一人ずつじゃ、相手にもならねぇよ。ここは協力して――」


「……行きますッ」


 目を見開いたティナは先刻の一太刀目よりさらに速い動きで突進する。巻き上がる木っ端が遅れてレヴァナントを襲った。


「くそッ……さっきからなんなんだよ、その()()()()ってヤツは?!」


 木棒で受け止めるアーレウスに対して、固い金属がぶつかり合うような激しい音が響き渡る。突風は引く波のように辺りへ散らばり、やがて静止する二人の姿が現れた。暗がりでどちらのモノかわからないが、滴り落ちる液体が地面を濡らす。


「今のは完璧なタイミングだったな」


「そ、そんな……」


木棒は粉々に砕け散っている。波状の刃を素手で受けアーレウスの左腕は、肩まで貫通して止まっていたのであった。


「ただし、捨て身の攻撃は相手との力量を把握してからにしろ。敵も捨て身ならば地の強い方が継手に移れる」


 柄を握るティナの手は血塗られた左手でがっしりと掴まれている。微動だに出来ない彼女にアーレウスは容赦なく手刀を放つ。ティナは一撃の元に地面に崩れ落ちたのであった。


「ティナッ!?」


◆◆


 突き抜けた長剣を引き抜き投げ落とすと、血だらけの左腕をダラリと下げる。アーレウスは折れた木棒の代わりの見つけると右手でそれを拾い上げた。


「アーレウス、あんたもその傷じゃあもう戦えな――」


言い掛けたレヴァナントは目を疑った。ティナの長剣によって完全に貫かれたはずのアーレウス左腕は、驚異的なスピードで再生を始めている。


「待てよッ、まさか……種持ちなのかッ?!」


 完治した左腕の動きを確かめるように拳を握るアーレウス。驚愕するレヴァナントの言葉に首を傾げた。


「種持ち? 何の事かわからないな。それよりティナ(こいつ)はもう起きないだろう、ここからは一対一だ」


 剣のように木片を握り直し、今度は違う構えで戦王は答えた。レヴァナントの中で何かが弾けるように心拍が上がる。


 戦王アーレウスはひょっとすると、終焉王(ラ・ファン・ビシュヌ)の一味なのかも知れない。不安と同時に、確かな敵意が沸き上がってくるのであった。


「……どっちにしても、あんたを倒さなきゃ進めない。俺もそろそろ本気でいくぜ」


 右手の銃を強敵に向ける。レヴァナントが左手に呪剣を構えると同時に巨大な黒蛇は姿を現した。異能を纏う彼を、アーレウスは顔色一つ変えないで見ていた。


「ああ、全力で来い。夜明けまでもう時間がないぞ?」


 駆け出したレヴァナントの雄叫びは、青く変わり始めた空の下で響いた。





 

 


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