ウィルベルトの思い
「殿下の友達はお兄様ですよ。殿下がルフォール領に下見に来られるとなると、うちの領民が喜びさらに活気つく事になるでしょう? お兄様はそれを狙っているんですよ。でもそれも悪くありませんわね。それに、ウィルベルト様との仲を冗談でも邪魔しようとしたんですもの。本当のお礼は高くつきましたね! 冗談でも言って良いことと悪いことがあります」
ふふっと笑うセイラは楽しそうだった。誰の入れ知恵なんだろうか……恐らく母だろうけど、セイラは逞しくなったと思った。
殿下のセイラへの気持ちは半分以上本気だったと思う。女っ気のない殿下が冗談で言わないと思うんだが……早くセイラと結婚したいと思った。
セイラと平和に暮らす為には早く解決させないといけない事がある。
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だから最近ユベール殿は殿下に会いにきているのか。褒美がどうのと言っていた。
ルシア・モンテスの事を調査したようだった。
羽振りが良すぎるのは、破産寸前に追いやった貴族の家を使いパーティーを開く。売り上げをその家に寄越すことで、その家は破産を免れる。それを繰り返す。
再び家が危険な状態に傾いてきたら今度は言葉巧みに危険なクスリを使い当主を惑わすのだそうだ。
『レオ・ファーノンは? あいつはどうしているんですか? ルシアと婚姻しモンテス男爵になったんですよね?』
まさかあいつにもクスリを?
『レオは表に出ていないだけで、バーで働き帳簿などの裏仕事をしているそうだ。 殿下が捕らえたディーラーが言っていた。と言う点を踏まえると?』
『あいつは意外と妻となったルシアに大事に扱われていると言うことでしょうか』
『それは断定出来ないぞ』
ユベール殿が言った。一体どこで調べてきたのか……謎。
『まぁ、そう言うことだ、次のパーティーで出来れば尻尾を掴みたいと思う、私は出席出来ないがその日は馬車の中にでも身を隠していよう、何か動きがあればすぐに連絡がくるようにしておく』
殿下がそう言ってお開きになった。もっと人員が動かせれば良いのだが、信頼している者にしか頼めない。
もっと私に力があれば良いのだが、そうなると兄に迷惑が掛かるんだ。と申し訳なさそうに言われた。
王太子殿下と仲の良い兄弟だから支えて行きたいのに自分が目立つ事はしていけないとの事だった。
王太子殿下はこの事を知っておられるし、協力もしてくれているが、議会では後にされている案件。恐らく議会に参加している貴族の中にやましい者がいるはずだ。その垢も出来れば落としたい。
その日セイラは母と観劇に行くと言っていた。この日のチケットは大人気の俳優が1日限りの出演だそうで、チケットはプレミアが付いているそうだ。母は友達のツテを使って手に入れたと言っていた。
ミランダ伯爵のパーティーの日と合わさったと思うのは気のせいだろうか?
ミランダ伯爵の領地はうちにほど近く、最近は海を越えた国との交流が盛んだ。交流している国の人も雇っていると言うのだが傭兵ばりにガタイが良いのが気になる。
それにミランダ領を通るときの通行税が高くなったと聞いた。なるべく海側には近寄らせないように遠回りするような街道を整備していた。
港に何かあるのだろうか?
そんな事を考えていると、じきにパーティーの日が近づいていた。
これが終われば楽になるのだろうか。早くセイラと結婚して毎日を穏やかに暮らしたいだけなのに、乗り越える壁が高い。
もしあいつを捕らえてこの事を知ったらセイラはどう思うのだろうか? 悲しむよな……
殿下はこの事を知らない。言う必要もないから、ユベール殿も言わないのだろう。
あいつの事は好きではないが、あいつの弟ルカ・ファーノンはなんとなく応援したくなるような奴だった。バカな兄と母のために苦労をする弟。
あいつの家が捕らえられても、ルカ・ファーノンに迷惑がかからないようにだけはしてやろうと思った。
実家っていうだけで巻き添え食らわすのも可哀想だ。きっとユベール殿も同じ考えだろう。