お兄様と殿下に会いに行きます
「先日はありがとう、助かったよ。ユベールも久しぶりだな」
お兄様と一緒に王宮へ来ました。ウィルベルト様も付き添ってくださっています。
「殿下お久しぶりです。まさかこのような形でお会いするとは思いませんでした」
お兄様と殿下は同級生なんだそうです。お会いするのは、王宮のパーティーで顔を合わせるくらいだそうです。仲が悪いというわけではないとの事でした。
黒髪に、ルビーのような瞳の優しそうな面持ちの第二王子殿下です。ルビーのような瞳は王族の証ですもの。もっと早く気がつけば良かったのに、私のばか!
「まさか君がウィルベルトの婚約者だとは思わなくて、失礼したね」
笑顔の殿下にお答えいたします。
「いつもウィルベルト様がお世話になっておりますのに、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。兄との事も存じ上げずにこちらこそ失礼いたしました」
先日はバタバタとしていてご挨拶をすることができなかったし、驚きの方が勝ってしまった。お兄様との関係性? も知りませんでした。お兄様は何も言ってくれないんだもの。
「この前、ウィルベルトが持っていたクッキーをティータイムの時に分けて貰ったんだが、君が作ったというのは本当?」
ウィルベルト様はみんなで食べた。美味しかった。と言ってくれたけど殿下も口にしたいう事?!
「はい。ウィルベルト様がお仕事で疲れたら合間に食べて頂けたらと思いまして、オリバス伯爵領の塩を使ってクッキーを作りました」
「菓子を作るのは妹の趣味でしてね。私も好物なんですよ。ウィルベルト殿は幸せですよ。妹が作ったものを差し入れしてもらえるんだから」
お兄様ったら殿下になんて事を……ウィルベルト様も頷かないで……! 既に疲れてきてしまいました。帰りたいよぉ。
「……そうか。お前が学生時代に言っていた妹がセイラ嬢か……たしかに可愛らしくて、優しいな。会ってみて分かった。大袈裟に言っていたと思っていたがそうではないようだ」
はははと笑う殿下。だったけれどピタッと止まった。そして不思議そうな顔をした。
「ん? 確か婚約者が……いなかったか? それだけ可愛いのなら会わせろと言っていた奴らに婚約者がいるからと断っていたな? ウィルベルトは一年くらい前に婚約したんだよな? 時期が合わない」
どうしようかとウィルベルト様を見た。すると、うん。と頷き大丈夫だ。と言ってくれた。
「彼女は小さい頃に家同士が決めた婚約者が居たんです。しかし残念ながら彼女が十五歳でこちらに来た時に、相手の不徳行為が見つかり婚約は白紙となりました。私は在学中に彼女に会い、彼女に惹かれて交際の後に婚約をする事が出来ました。恐らくそう言った事情から、時期が合わないと仰られるのだと思います」
ウィルベルト様が簡潔に答えてくれた。部下であるウィルベルト様の相手の素性を知るのも仕事の内なんですね。
「そんな事があったのか……それならもっと早くセイラ嬢と会いたかったものだよ、残念だったねぇ。運命の神様とは悪戯が好きなのかな? そう思わないか?」
リップサービスにはリップサービスで返すのだと、それが社交ですよ。とお義母様に習いましたので、お返しします。
「まぁ、ふふっ。殿下はお口がうまいのですね、冗談でも少しドキッとしてしまいました」
お兄様もウィルベルト様も驚いた顔をしていました。私だってちゃんとお世辞をお返しする事が出来るんですから!
「先日のお礼をしたいのだが、何か希望はある?」
「お礼ですか? 大したことはしておりませんし、当然のことをしただけです。それだけでお礼などいただけません。お言葉だけで十分ですわ」
「ウィルベルトの差し入れのクッキーも私たちまでご馳走になったのにか?」
不思議そうな顔をして殿下はこちらを見てきましたが……
「私が言うのもなんですけれども、殿下のような方が誰が作ったものかわからないようものは口にしないほうがよろしいかと……何が入っているか分かりませんのに、お気をつけてくださいませね」
差し出がましいかもしれませんけど、お腹を壊されても困りますしお口にあわない場合は、ウィルベルト様に申し訳ありません。
「君は、面白い子だね」
殿下がニヤリと笑いました。ん? 何か変な事を言ってしまったのでしょうか……
お兄様とウィルベルト様を交互に見ました。




