ユベールの思い2
私が働いているのは王都にある会社だ。最近は隣国との輸入も盛んに行なっている。
「ユベール、おまえに頼みがある」
「断るっ!」
はっきりと断る。どうせ隣国に行って交渉してこいとかだろう。無理だ。
「まだ何も言っていないぞ」
「隣国へ行ってこいとかだろう? 妹がもうすぐ入学するからこっちへ来る。一人にさせる事は出来ない。やっと一緒に暮らせるんだ」
「……本当に妹思いだな」
「あぁ。可愛いんだよ。それだけではなく優しくて、穏やかで、」
「そこまで言うなら会わせてくれよ。 婚約者はいるのか?」
「……いるんだが、変なことになっている。どうも王都に変に染まってしまって、勉強を疎かにし女の子たちと遊び回っている。妹がこちらに来て変わらないようなら、この婚約はなかったことにしようかと思っている」
「ふーん。それなら手伝ってやる。その男の情報をくれ」
友人は伝手を使い調べるのが得意だ。自分の足で調べないのが高位貴族だと思う。
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結果はうちからの婚約破棄となった。
カジノか……破産してきた男達をたくさん見てきた。身を滅ぼすとは、あぁ言うことを言うんだろう。
遊ぶ友達が悪かった。それをレオに忠告をした。友達を選べ。将来の為に勉強をしろ。と。
セイラと結婚するまでは自由な時間だと言った。こいつにセイラを任せる事は出来ない。いつでも婚約破棄できるよう準備はしてあったし、決まれば早い。
婚約破棄したくない。とはまた笑わせてもらった。レオはおそらく次の学年に上がる事は出来ない。留年するか退学するか……
ファーノン家はセイラの婚約者にレオの弟ルカを指名してきた。バカなのか?
その後レオは再びカジノに足を踏み入れ、無断外泊、無断欠席で退学となった。
その後は知る事ではなかったが、親切な友人によって知らされた。
違法カジノか……しかもきな臭い事で有名な男爵家の後継とは……そしてレオには子供がいたと言う。こんな男と可愛いセイラが一時でも婚約をしていたと思うと、死にたくなる。
セイラの相手を考えなくてはいけない。と母上が言った。
もう間違える事は出来ない。セイラに相応しい男……ウィルベルト・オリバスか?
家柄もいいし、成績優秀。オリバス伯爵も清廉潔白な尊敬できる当主である。
オリバス家の領地は王都から少し離れた東の地区で、ルフォール家の領地から王都に向かう際に立ち寄る地区。
伝統あるオリバス伯爵家は海があり、領地の一部では塩も作り出す事により裕福な土地だ。翡翠の産地でも有名。王家にも重用されていると言う。
格上の伯爵家ではあるが、セイラが良いと言うのであれば婚約の話を進めても……良い。
ウィルベルト殿は物おじもせず、堂々と挨拶をし、まるで私たちが面接を受けているようだった。
私も父も今まで仕事で色んな交渉をしてきた事は多々あるが、ウィルベルト殿の歳でここまで話をできるのは大したものだ。将来が楽しみだと思った。
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「ただいま、帰りました……」
セイラがオリバス邸から帰ってきた。ウィルベルト殿に送ってきてもらったのか。
「おかえり。ところでどうした? そのワンピースは?」
「ベアトリス様からいただいてしまいました。お断りできなくて……返してこなくてはいけませんか……?」
おずおずとセイラは私を見てきた。
「すいません。姉がどうしてもセイラさんに着て欲しいと言ったものですから。セイラさんはユベール殿に怒られると断っていたんですけど、あまりにも似合うもので、是非貰って欲しいのです」
「ベアトリス嬢から? それはお断り出来ないね。たしかにセイラに似合っているから、受け取ったらどうだ? 後で私からもお礼を言っておくよ」
「良いのですか? お兄様! ただより高いものはないって」
「それは例えだよ。ベアトリス嬢は好意でくださると言っているのだから、受け取るのが筋だよ。そこに裏があるような方ではないだろう、ウィルベルト殿?」
「はい。まるで妹ができたようだと喜んでいましたので、裏などまったくありませんよ」
にこりと笑うウィルベルト殿、強調された言葉。
「セイラは分かっていると思うけれど、物に釣られてはいけないよ。お菓子をあげると言われても、ついて行ってはいけないからね? よく覚えておくように」
「? うん」
「それでは私は失礼します。セイラまた学園で、ユベール殿それではまた」
またセイラの事を呼びつけて、ドレスや宝石を押し付けてきそうだ……
ベアトリス嬢からのプレゼントと言うと、もうセイラはオリバス家に嫁ぐといっているようなものだ。
その後お礼の手紙を出すと、ワンピースが十着ほど送られてきた。ちゃんとセイラの体型に合わせて直されていた。伯爵家のお針子の仕事の早さに驚いた。




