ユベールの調査
「セイラが来る前に話しておこう」
セイラは叩かれた頬の手当てに行っていて、私達は応接室にいる。
「はい。レオ・ファーノンの事ですね?」
ユベール殿はどこまで知っているのだろう。
「モンテス男爵は知っているか?」
「はい。名前は知っていますが、きな臭い噂がありますよね?」
確か北の方に住んでいる筈だが、あまり良い噂を聞かない。
「モンテス男爵に娘がいるのは知っている?」
……令嬢に興味がない。
「いえ、知りません」
「では、ルシア・オルテガと言う名前は?」
「ルシア? と言う令嬢はレオ・ファーノンと連んでいた?」
派手な化粧で苦手なタイプ、興味はない。
「ルシアと言う娘はモンテス男爵の実の娘だ。オルテガという名は母方の名前なんだ」
「なるほど」
「ルシアはモンテス男爵の実の娘だが、本妻の子ではない。母親は現在のオルテガ男爵の妹で、前オルテガ男爵は資金難で苦しんでいた。その時に資金援助してもらう代わりにルシアの母をモンテス男爵の愛人として嫁がせた。モンテス男爵には本妻と息子がいたが、馬車の事故で亡くなった。オルテガを名乗ってはいるが、モンテス男爵を継ぐのはルシアだ。婿養子を取らねばならない」
「それがレオ・ファーノン? と言う事ですか」
「そのようだ。カジノには合法と非合法がある、知っているか?」
「えぇ、それはもちろんです」
社会問題になっているし、学園でも話題になった。
「行った事は?」
「ありません。賭け事は嫌いですから」
「それは安心した。カジノと言っても合法なら法律に逆らってはいないが、非合法なら?」
「法律違反ですね」
さらりと答えた。簡単な答えだ。どこに資金が流れるかって事だ。
「売り上げは丸儲け。それを仕切っているのが、モンテス男爵だ。上手いこと場所を変えるものだから摘発出来ない。泳がせてもそのままドロン、潜入した者は行方不明になっているそうだ」
「きな臭いを通り越して、クロですね」
「そう言うこと。しかし貴族内でも賭け事をしているものが多いのも確かだ。自分の邸宅でカードゲームをしているものも多く見られる。これがいま問題になっているのは、知っている?」
「えぇ。賭け事に負けて全財産を失った者も中にはいますよね? 中毒性があると言われています、現代の闇です」
「そう言うことだ。賭け事に手をつけてはいけないな、身を滅ぼす。レオはどうしているんだか……」
******
~レオ~
とうとう退学になってしまった。信じてくれた教師や友人に申し訳ない。両親は元気だろうか? 今まで散々迷惑をかけてきた。きっとこれからも……親子の縁は切れたも同然、もう会うことも出来ないのだから……
ルカにも申し訳ない事をした。ルカの将来が明るい事を勝手ながら祈る。俺はもう明るい場所では生きていけないのだろう。ルシアの家のものが俺の子と言う男児を孤児院から引き取ってきた。
プラチナブロンドに青い瞳、誰が見ても俺の血を引いていることが分かる。この子のためにも平民でも、明るい場所で生きていけたら良いのに。
そう思いながら、ルシアの親が経営する非合法カジノの裏方として働く日々。いつか抜け出さないといけないけれど……
「レオ~? 何考えているの?」
派手なドレスを着るルシアに声をかけられた。学園が終わり着替えてこちらに来たようだ。
「ルネの事だよ」
「ルネは将来イケメンになるわね。レオの子だもの。私も早くレオの子が欲しいわ」
そう言って俺の胸に顔を埋めるルシア。
「そうだな」
ルシアの頭を撫でた。ルシアに愛情はないがルネに害を加えられては困る。だからルシアに愛していると囁きキスをする。
「レオは私の事を愛していないってことくらい分かっているの。でもレオは私のもの」
悪女のような笑みは美しく、そして歪んでいる。俺はルシアにとってはもの扱いだ。
そうか……そうやって自分に返ってくるんだな。ウィルベルト・オリバスを思い出した。あいつの言っていたこと、セイラはものではないと言う言葉……
「今生活ができるのはルシアのおかげだよ。ルネの存在を知ったのもルシアのおかげだ、感謝している」
ルシアに言われなきゃ、ルネの存在は知らなかった。ルネを見るまでは子供がいるなんて信じられなかったし、認めたくなかったのだが、ルネを見た瞬間に愛おしくなったんだ。
この子のために、この生活から抜け出す事を夢見た。