会いにきてはいけない人
〜ウィルベルト視点~
レオ・ファーノンが退学したらしい。いや、退学になった。しばらく休んでいたと思えば、退学したとは……
無断外泊、再びカジノへと足を踏み入れたことによる罰のようだが……
あれだけ成績を伸ばして、生活態度もあらためてきたと言うのにどうした事やら、何か裏がありそうだ。
ユベール殿から聞いた話によると嫡男ではあるが、弟に跡を継がせると言う話だったから、退学をしても戻る所はないだろうに。またセイラにちょっかいをかけなければ良いのだが……
******
ユベール殿に会いに行くことになった。心配なので帰りはセイラと共に子爵家の屋敷へ行くことにした。
「セイラ」
教室に迎えに行くとアルヴィエラ侯爵令嬢といた。
「ウィルベルト様」
すぐに気がつきセイラは私の元へと来た。
「話をしている途中? 待とうか?」
アルヴィエラ侯爵令嬢もこちらへと来た。
「今度セイラ様とわたくしの家でお泊まり会をする話をしていただけですのよ」
にこりと笑いかけてくるアルヴィエラ侯爵令嬢。
「お泊まり会か……楽しそうだね」
「はい。フローラ様にお誘いいただきました。お兄様からも了承を得ています」
楽しそうでよかった。レオ・ファーノンの事で落ち込んでいるのではないかと思ったから。それにしてもお泊まり会か……
「うちへのお泊まりは許可されないだろうから、また遊びに来てくれる? 姉がどうしてもセイラに会いたいとしつこいんだよ……」
「はい、それは光栄ですけれど、」
「あら? 家族公認なのですね?」
「そんなんじゃ、」
「そうだね、父がもうすぐ帰ってくるからその時に紹介するよ」
セイラは否定しようとするが、公認なんだよ。それに父と会ったら後戻りは出来ないし、させない。
「ユベール殿が待っているから、帰ろうか?」
「はい、フローラ様それではお先に失礼致します」
******
馬車に乗り向かいの席に座るセイラ。
「ウィルベルト様にまた迷惑かけてますよね」
申し訳なさそうに、しゅんと肩を落とした。
「迷惑? なんのことやら」
「お兄様と話をするのはレオのことでしょう?」
「それもあるけれど、それだけではない」
「ごめんなさい」
「なぜ謝る必要がある? 勝手に首を突っ込んだだけだし、セイラは私と正式に婚約したくない? 私だけが望んでいるのか?」
「そんなんじゃ、ないです、よ」
顔が赤くなるセイラは可愛い。向かいの席からセイラの隣に移動した。
「心置きなくセイラと婚約をしたいから、気になることは早期に解決しておきたい」
そう言ってセイラの手を繋いだ。いつかは好きでもない相手と政略結婚すると思っていたから、好きな子と婚約をすると言うのは思っていたよりずっと幸せだと思った。
ルフォール家の屋敷の門をくぐろうとしたら、女性が待ち構えているという従者の報告で、カーテンを開けて女性の顔を見るとセイラは驚き声を上げた。
「え? おばさま?!」
そして顔をさぁーっと青褪めた。
「セイラちゃん、久しぶりね」
笑顔の女性が声を掛けてきた。扉をとんとんとノックする。中々失礼な行為だな……
「失礼、私の車に何か用ですか?」
セイラに代わって声を掛け外に出る。ルフォール家の屋敷の前で騒ぎを起こしたくない。
「中にセイラちゃんがいるんでしょう? お話がしたいの。少しだけで良いの」
笑顔の女性は誰かに似ている。
「具合の悪い彼女を送って来たんです、失礼します」
「もうすぐ領地へ帰るの。少しだけで良いの、お願いセイラちゃん」
馬車の窓に向かって声をかけるがしつこい女性だ。目線で合図し従者の一人にユベール殿へ報告に行かせた。何か危険な予感がする。
馬車に戻ろうとしたらセイラが出てきた。
「おいっ」
「おばさま……お久しぶりです」
頭を下げるセイラ、女性はセイラの近くに寄る。
「セイラちゃん! 久しぶりね、元気だった? 手紙もくれないものだから心配していたのよ」
この髪の毛の色、もしかして……
「レオ・ファーノンの母親ですか?」
「えぇ。レオの事ご存知ですか? あなたはどなたですか?」
よく見るとレオ・ファーノンの面影がある。すかさずセイラの隣に立った。
「私はウィルベルト・オリバスと申します。セイラさんと親しくさせてもらっています」
「ま、まぁ……そうでしたか。セイラちゃんは……レオとの婚約を白紙にしたばかりでもう親しい人がいるの? だからレオを捨てたの? うちが男爵家だから? オリバス様と言えば伯爵家……セイラちゃんはレオを捨ててこの方と一緒になるの?」
人の話を聞かずに話し出す無礼さはさすがレオ・ファーノンの親だな……自分の言いたい事をよくもまぁべらべらと……
「失礼、ファーノン夫人、息子さんに原因のある婚約破棄だった事をお忘れですか?」
なんだ、この母親は……息子の婚約破棄の原因を知らないわけではないだろうに。呆れる。
「おばさま、あの、」
「レオは退学になったの! 家も継げないの! なんでもっとしっかりレオの世話をしてくれなかったの! あなたのせいでレオは、」
セイラに飛びかかろうとしたので、セイラを背中に隠した。
「夫人! やめたほうが良い。セイラに何かあったらタダでは済ませない! 早くこの場から去った方が身のためですよ?」
「あなたに何が分かるのっ! レオとセイラちゃんは愛し合っていたのよ! ずっと幼い頃から!」
ファーノン夫人はその場で泣き崩れた。
「婚約破棄はセイラに関係ない。あんたの息子のせいだ。おかしいと思っていたのならなぜ息子の様子を見に来ずセイラに託すんだ? 人のせいにするんじゃない。原因はあんたの家にあるんだ」
思っていたよりも冷たい声が出た。しっかりと言っておかないとまた何か言ってこられても困る。
泣き崩れた夫人をセイラがみていられなくなったのか、私の背をくぐり抜けて、夫人の元へと行き手を差し伸べた。
「あっ、おい!」
はぁっとため息を吐いた。従者に夫人を立ち上がらせ宿へと送るように言った。
「おばさま……」
夫人はセイラの手を振り払ったその手がセイラの頬へと当たり、セイラがそのまま地面に叩きつけられた。