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気持ちを……


「せっかくダンスに誘おうと思っていたのに……そんな様子じゃ無理だな」


 ウィルベルト様は明るい口調で言った。


「ウィルベルト様からのお誘いを待っている令嬢はたくさんいますよ?」


 手は繋いだままだった。ウィルベルト様の手は暖かくて、さっきまでの怖かった気持ちは不思議となくなった。



 ウィルベルト様は笑顔のままそっと私の手を離して膝の上に乗せてくれた。手が離れたら不安になりウィルベルト様の顔を見上げた。



「遅れた理由なんだけど、」


 ポケットから何かを取り出して、髪に付けてくれた。


「なんですか?」




「ん?」



 腕を組んで悩み始めるウィルベルト様。そっと髪を触ってみた。


「髪飾り? ですか」


「うん、そうだね」


「私、ウィルベルト様におねだりをしたみたいになってますか?」


 さぁーっと顔の色が引いた気がした。髪飾りが欲しいと言ったことがあるもの。返さなきゃ!



「そんなつもりありません、お返しします」



 どうにかして外そうと思ったけれど、巻いている髪の毛に引っかかって取れない。


「ちょっ、待て」


 髪飾りを取ろうとした手を掴まれました。


「それは、君にプレゼントをしたくて買ってきた。選ぶのに時間がかかってしまって、遅れたんだよ……」



「もらう理由がありません」


「ある。いつも君には貰ってばかりだ」


「私はいつもウィルベルト様に助けてもらってばかりで、みっともない姿ばかり見せてます。さっきだって」


「それは言うな。あいつの顔を思い出すたびに腹が立つんだ……今日の舞踏会でダンスに誘って、君に気持ちを伝えるつもりだったのに、計画が台無しだよ……」


「気持ちですか……? 一体」


 もう私の揉め事に付き合いきれないとか、そんな感じかな。面倒だよね。



「おい、変なこと考えてないだろうな!」


「え?」



「また距離を置かれるのは困るから、ちゃんとしておきたくて」



「へ?」




「君が好きだと言う事を伝えたくて」




 ウィルベルト様が私を……? 首を傾げてしまいました。自分の都合の良い風に解釈をしてしまってはダメよね……




「君があのガゼボにいた時から不思議な縁を感じていた。君の領地の話を聞いたり、家族の話を聞くたびにますます惹かれた、私はセイラの事が好きだ」




 ますますわけがわかりませんでした。




「ウィルベルト様、私は婚約破棄するような人間ですよ? ウィルベルト様にはもっと相応しい人がいますよ。なんの取り柄もない地方出身の地味な田舎娘ですよ?」




「誰の事を言ってるんだ? 取り柄しか見つからないんだけど」




「学園で話題のレオ・ファーノンの元婚約者ですよ?」




「それは知らないものが多いし、知っているものには口外しないようにする。知られたところで誰が本気にする? 何か言われても領地が隣で顔見知りくらいにしておけばいい」




「えっと、地方の地味な田舎娘ですし」




「その質問は二回目。地味ではない気にしなくていい。クリーンな子爵家の令嬢だ、あとは?」




「えーっと、釣り合わない? ウィルベルト様の家は伯爵家ですもの」




「そこも問題ない、この髪飾りは姉が紹介してくれた店で買った。姉も付いてきてセイラにはこれが似合うだのと口出しをしてきた、君のことを気に入ったみたいだよ。あとは?」




「えーっと、えーっと」



まだまだある筈なのに……出てこない!




「君は私の事どう思っているんだろうか? 単なる知り合いだと思っているのか? 勉強を教えてくれる便利な存在だと思っているのだろうか?」



 ぴたりと動きを止めた……違う。




「私は君が好きだと言った。返事を貰いたいんだけど? 手紙でも渡せば返事をくれるのか?」



「分からないんです」



「何が?」




「さっきレオに迫られた時、ウィルベルト様はきっと助けに来てくれるって思ったり、一緒にいたら楽しいって思ったり、手を繋がれたら嬉しくてドキドキするのは、ウィルベルト様に惹かれていると思うけれど、何かの拍子に嫌われて、」



「それは無い、安心していい。セイラを嫌いになる事はない。初めて自分から好きになったんだから、それを手放すと思うか?」




「もう、裏切られるとか嫌なの。ウィルベルト様はモテるし、」


「しつこいな、セイラがいれば他の女に見向きもしないと約束しよう。だからセイラも他を見るな。他を見るからわからなくなるんだろ?」





「返事は……?」






「……好きなんだと思います」



「うん、まぁいい。近いうちにちゃんと好きにさせて見せるから、今はそれで」




「はい、」



「せっかくだし、ダンスを一曲付き合ってくれる?」



「ここで?」



「誰も見ていないから、ちょうどいいだろ? 酷い顔なんだから」




 くっくっくと笑うウィルベルト様の顔は少し赤かった。



 そっと手を差し出されたので手を取った。音楽がホールから流れてくる。




 ダンスホールではなくて地面は踊りにくかったけど、すごく楽しい時間だった。



******



「送って行くよ」


「いいです!」


 ぶんぶんと首を振った、流石にそれは申し訳ない。


「うちの馬車で行こう」


 手を繋がれてしまったので、その手は離せなくてけっきょく送ってもらうことになった。








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