ウィルベルトの家族
「なんで、母上と姉上がいるんですか!」
「なんでって、来たらダメだったかしら?」
「良いじゃない。私がお母様を誘ったの、久しぶりに学園に来たかったのよ」
母と姉が学園祭に来た。去年は来なかったのに、どう言う風の吹き回しだ……? ん?
「……何か買ったんですか?」
姉の手を見ると袋を持っていた。もう何か買ったのだろうか?
「これ見て! 素敵よね。一年生のクラスでバザーをしていたのよ。可愛らしい子が販売をしていたの。すぐに売り切れていたわよ」
姉が見せてくれたハンカチには花が刺繍されていた。百合と向日葵と紫陽花の三種類だった。丁寧な作りにセイラの物だと確信した!
「早く行って良かったわ。ちょうど品物を並べ出した時だったの。購入したら嬉しそうにしていたわよ。ラッピングまでしてくれて丁寧な子だったわ」
三枚しかないじゃないか! なぜ全部買ってこないんだ!!
「あとの二枚は買えなかったんですか? 五枚出していると聞いているのですが」
「五枚? 私たちが見た時は三枚しかなかったけれど、アルヴィエラ侯爵夫人がいらしたから、購入されたのかもしれないわ。お話をしていたわよ」
「そうですか」
アルヴィエラ侯爵令嬢の母が買ったのなら問題ない。ホッとした。
「ところでウィルはなんでそんなに詳しいの? あの一年生の子を知っているの? 刺繍を見ただけで分かるくらい?」
不思議そうに聞いてくるが、隠すつもりもない。いい機会かもしれない。少し強引だけど……卑怯者と言われそうだけれど、気になっている子がいるのに呑気になんてしていられない。
「えぇ。もちろん知っていますよ」
母に言われて返事をしたが特定の令嬢を知っている。と答えた事に驚いているようだった。
「やけに素直ね……」
姉がやたらと絡んでくる。嬉しそうだ。と言うか揶揄う気満々だろ。ネタバラシといこう。
「ルフォール子爵はご存知ですか?」
「知っているわよ。最近はお見かけしないけれど、子爵の息子さんが代理でパーティなどに出席されているわね。穏やかでしっかりした方よ。それがどうかして?」
母が答えて、姉も頷く。ルフォール家の印象は悪くなさそうだ。
「彼女はルフォール子爵のご令嬢ですよ」
「そうなの? どうりでこの辺では見かけないお嬢さんだと思ったのよ」
「ウィル、もしかして狙っているの?」
冗談めかして姉が言った。
「えぇ、親しくさせて貰っています」
頷きながら母と姉に微笑みかけた。
「「……えぇぇぇっー!!」」
淑女らしからぬ驚きようだ──
「なんてこと! うちのウィルの言葉かしら!」
「は、早く婚約を申し込まないと!」
「とりあえずは、放っておいて貰っていいですか? 私にも考えている事があるので。確認ですが、うち的にはルフォール家と縁があっても問題ないですよね?」
家同士の結びつきに問題があると厄介だが、セイラの家を調べたところなんの問題もなかった。貴族の中には派閥など面倒くさいことが存在する
ルフォール子爵領は、決して広くはないが豊かな自然広がるところで、領民は穏やかで、子爵は手堅い領地経営をしている。
セイラも穏やかであることから、領地は彼女にとってかけがえのないものなのだろう。
「問題ありません。なんとかしなさい! お父様には私から言っておきます」
「頼みますね」
「ウィル! あの子じゃない? フローラ様といる子!」
姉の指差す方をみた。姉も興奮しているようだ。指を差すなと後で注意をしなければならない。
「そうですね、声をかけましょうか」
フローラ嬢もいる事だし、話しかけやすい状況だ。フローラ嬢は母も姉も面識がある。
「やぁ、完売したんだって?」
「ウィルベルト様! こんにちは。一時間ほどでクラスにある全ての商品が無くなりました」
セイラは急に声をかけられて驚いているようだった。
「みたいだね。実はうちの姉が君のハンカチを買ったようだ。とても気に入ったと言っていたよ」
チラッと母と姉を見ると、そろそろとこちらへ向かってきた。
「フローラ様お久しぶりですわね」
「ごきげんよう。ベアトリス様、オリバス夫人もお久しぶりですわ」
アルヴィエラ侯爵令嬢に挨拶をした。次はセイラを紹介しておこう。
「うちの母と姉だ。急に来て驚いたよ……母上、姉上、こちらはセイラ嬢だよ。さっき会いましたよね?」
「はじめまして。セイラ・ルフォールと申します。先程はありがとうございました」
セイラがうちの家族に挨拶をする姿を見ていると、なんだか落ち着かない。
「はじめまして。ウィルベルトの母でございます。いつもお世話になっております」
「はじめまして、姉のベアトリスですわ」
にこりと微笑むセイラだった。
「先程はありがとう。このハンカチとても気に入っています。とてもお上手なのね」
姉が外向けの顔でセイラに話しかけているが、悪い印象はないようだ。とてつもなく機嫌が良さそうだ。
「ありがとうございます。心を込めて刺繍したものを気に入ってくださってとても嬉しいです」
「ふふっ。ウィルもハンカチを作って貰ったらどう?」
母も悪い感じはしていないようだった。
「そうですね。二枚では足りないかもしれない」
「二枚? もしかしてリスもカウントされていますか?」
さぁっーと顔色を悪くするセイラ。気に入っているんだけどな。
「あのクマは気に入っている」
「酷いですよ。ウィルベルト様! いつか必ず可愛い動物を刺繍して見せます」
「楽しみにしているよ」
セイラとの何気ない会話は楽しい。家族に見られても関係ないほど。
「あらまぁ、ふふっ。セイラさんウィルの事よろしくお願いしますね」
「はい?」
「ウィルが女の子と楽しそうにしている姿を初めて見たわ……貴重ね」
「姉上、変なことを言わないように」
「セイラさん、今度うちにいらっしゃらない? 美味しい紅茶があるのよ、一緒にどう?」
「えっと……よろしいのでしょうか?」
断る口実を探しているのだろうか? 母も姉も積極的だな……お茶会と言う名目なら断れないだろうな。
「あなたとお話がしたいのよ、ウィルも同席させますから」
セイラがチラッとこちらを見てきたので頷く。
「お誘いいただけて光栄です。お言葉に甘えてお邪魔させていただきます」
「お待ちしていますね」
セイラがうちに来る事になった。家族にセイラを認めてもらいたいがこの調子なら大丈夫そうだ。
姉にこそっとアルヴィエラ侯爵令嬢の髪飾りを見て貰った。どこのものでどう言った品物か?
私は令嬢の髪飾りなど分からない。姉なら詳しいだろう
「プレゼント?」
「はい」
「あのブランドじゃないとダメなの?」
「いえ、それは別に構わないです」
侯爵令嬢が身につけるものだ。恐らく高価なものだろう。セイラにプレゼントするにしても高価なものは受け取ってくれなさそうだ。姉には店を紹介して貰えれば……
「良いお店があるの、教えてあげるわよ。ちょっとしたプレゼントにはうってつけよ! 高いものを一つ渡すより、似合いそうだったから。って言って時折りプレゼントするのはどう? あの子には可愛らしいものが似合いそうだわね。 ヤダわ! ウィルとこんな話が出来るなんて! 嬉しいわ」
どうやらセイラは認められたみたいだ。




