お返しのハンカチーフ
ランチの準備を例のガゼボでしていた
「悪い。待たせたか……今日は日直だった」
急いでこちらに来てくれたのだろう。額に汗が滲んでいた。
「ふぅ。暑いちょっと、ネクタイを緩めて良いか?」
ネクタイを少し緩めるウィルベルト様。いつもはきっちりと制服を着こなしている。
ネクタイを緩める姿にどきどきしたのは内緒。
「はい。飲み物をどうぞ」
グラスを渡したら、それを受け取り、喉を潤していた。オレンジのアイスティー最近のお気に入りでした
「あぁ。ありがとう。助かるよ」
ランチの準備も済んでいたので、向かい合ってランチにしました。
「これ、何?」
「何ってパンですよ。中に具材が入っています。これがお勧めです!」
中にチーズとベーコンが入っている。少しブラックペッパーをきかせたもの
「美味い……このチーズもベーコンも」
「チーズは山羊のチーズなんです。領地で作っている物で、昔から好きだったんです」
「すごく美味い。これは?」
「ミルクパンです。山羊のミルクはほんのり甘くて大好きで……すいません。私の好きなものばかりでした。ウィルベルト様の好きなものはなんでしょうか?」
相手のことを考えていませんでした。おもてなし失敗です
「君の作ってくれるものはなんでも好きだ。何を食べても美味しいが、パンは最高に美味い」
「褒められると……照れますね」
オレンジティーを飲み干した
その後何気ない話をしながら時間が過ぎていき、後片付けが終わった後にティータイムを楽しむ事にした。
「そうだ、これお約束のハンカチです」
今日のランチは勉強を教えてくれたお返しだった。約束したハンカチも渡したかった。
ラッピングをすることにより中身も少しはマシになるような気がします。
「ありがとう。開けて良い?」
「気に入ってくださるかは分かりませんけど」
丁寧に包みを解くウィルベルト様は大事な物を開けるような手つきに見えて、妙にそわそわとした
「ありがとう、勿体無くて使えないな……」
「大袈裟ですよ? ハンカチの一枚くらいで」
ウィルベルト様のイニシャルの周りに月桂樹の葉を刺繍した。
無難だけど、男性が持つのならシンプルが一番だと思ったから
「ウィルベルト様が好きなものを刺繍しようと思ったら、パンか本しか思い出しませんでした。パンを刺繍するわけにはいけませんしね」
くすくすと笑いながら冗談を言ったら
「それも悪くないね」と返された
「バザーに出すものは順調に進んでいる?」
「はい。ハンカチを五枚ほど予定していて、お花や動物の刺繍をしています。お花は良いのですが、リスの刺繍をしていたら、刺繍の先生でもある侍女のリサにクマと間違えられて、それは出さない事にしました」
「リスがクマに?」
「はい。目つきが悪かったようです。可愛いと思ったんだけどなぁ」
「そんなことを言われたらクマを見たくなった。今度持ってきてくれる?」
「……あれですか? やめておいた方が良いですよ。失敗作ですから……」
「良いじゃないか。もし辛いことがあったらそのリスもどきを見て笑いに変えるよ」
「ひどいですね!」
「私はそういう人間なんだよ」
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セイラの作るハンカチは五枚。なんとかして全て手に入れられないだろうか。一般人が買うのは問題ないが、学園の特に男子生徒の手に渡るのは悔しい。
女性が刺繍をして渡すのは親愛の証であり、家族や婚約者に願いを込めて刺繍をする。レオ・ファーノンはセイラから無条件で渡されたんだろう。元婚約者だから。幼い頃からセイラを知るレオ・ファーノンに嫉妬している。
あいつの言ったお古という発言……あいつだけは絶対許さない
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学園祭の最終日には、大ホールで舞踏会が行われる。
ダンスの誘いがあれば、受けるか受けないかはお任せという事でした。
「セイラ、仕立て屋さんが来たようだ、降りておいで」
お兄様に呼ばれた
「はーい。今行きます」
何かとドレスは必要になるので何着か仕立ててもらった。
お兄様が友人から紹介してもらった王都の仕立て屋さんでした。
領地にも仕立て屋さんはいたけれど、王都のドレスはやはり洗練されていた。
ゴテゴテとしたものは重くて動きにくいので、動きやすいドレスに仕立ててもらった。
今日は出来上がりの衣装合わせだった。
デザイナーさんと打ち合わせをしていた時にお兄様は、露出は禁止だの、原色禁止だのと文句を付けていましたが、財布の紐がきつい我が家では珍しく一気に五着も仕立ててくれたのには驚きました。
「わぁ。可愛いですね! ひらひらしています」
レースのフリルが可愛かった。
胸元は控えめにあいていて、背中も控えめに。パステルカラーのドレスはお兄様も満足な仕上がりだ。
「学園の舞踏会で露出したドレスなんて悪目立ちするだけだ。これくらいが丁度いい」
お兄様が言うのだから間違いありません。
試着をして新しいドレスがとても気に入りました。今からお兄様とダンスの練習です。