関係ありません
「今日はとても良いお天気ですね」
「ふふっ、それで話を逸らしているつもりか? 相変わらず楽しい人だねセイラ嬢は」
そう言ってお茶に口をつけるウィルベルト様。
「騙されませんでしたね。さすがウィルベルト・オリバス様です」
「お褒めの言葉を頂き嬉しいよ」
「それでは質問にお答えします。レオ・ファーノン様ですか? 現在謹慎中の」
「そう」
「関係ですか?」
頷くウィルベルト様。
「もう私には関係のない方、と言えばウィルベルト・オリバス様は理解をしてくださると思います」
「君には婚約者がいた、それがレオ・ファーノンと言うことで良い?」
頷くだけの返事をした。やっぱり気づいていたんですね……ウィルベルト様。
「婚約は白紙になった?」
頷きました。
「そうか。君はレオ・ファーノンの事を好きだった?」
「……そうですね領地にいる時は。今では信じられないと思いますが、真面目で勤勉で優しくて思いやりのある人でしたよ。この人と将来は結婚すると思っていましたし、大事な時間を過ごしてきました」
「それが入学して変わった?」
「はい。手紙の返事も返ってきませんでした。はじめの頃は忙しいと言われても、優しい人なので、誰かの助けになっているのではないか? と自分勝手に思い込んでいました。たまに返ってくる手紙の中にコロンが入っていました。香りを嗅ぐと好みではありませんでした。うちの領地は田舎ですし、コロンなんて中々手に入りません。珍しいから送ったのかな? と思いました。でも忙しい人がコロンを買うような店に行くわけがありません。忙しい理由は勉学ではないとその時に思いました」
「早い時点で分かっていたと言うことか?」
「はい。でもファーノン家の人には言えませんでした。私が学園に入学したらきっと元通りに戻るんだと思っていましたから。私にはそんな力なんてないのに、話し合いにもならないのに……心の底では信じていました。バカでした。オリバス様にも言われましたね」
「言った。バカだ。今でもそう思うよ」
「うちの領地は田舎だけど、私にとっては大事な場所です。レオにとってもそうだと思っていました。レオに田舎者だからって口癖のように言われて……でもフローラ様もオリバス様もそれを認めてくださって嬉しかった。領地や家族を誇れるのに、卑屈になっていたのはバカだなと思いました」
「後悔はないのか?」
「小さい頃から領民の納めてくれた税金を大事にしなくてはいけないと言われて育ってきています。今でもそう思います。人から見たらケチかもしれません。お兄様が言いました。大事な税金で生活をして学園に通っているのだと。学生の領分を忘れカジノに行く事は断じて許されない事だと。面白みのない人間だと思われても良いですがレオとは同じ道を歩めません」
「君の家族の言っていることは至極真っ当だ。君が真っ直ぐ育ってきた理由もよく分かった。良いご家族だな、素晴らしい」
「はい。ありがとうございます」
家族を褒められたことが嬉しくて、レオのことを言ってスッキリして笑いながら泣いてしまいました。
「おい、なんだよその顔……笑いながら泣くな」
「すみません、っく……」
ウィルベルト様はすっと立ち上がり、隣に腰掛けてきて私の頭を優しく撫でてくれました。
「頑張ったな、辛かっただろうに」
頭を左右に振りました。
「もう楽になれば良い、あいつのことは時間と共に忘れろ」
謹慎が明けると学園で会うことになるだろう。でもその時は婚約者でも幼馴染でももうない、他人だ。私たちの関係を知るものは少ない。
「学園で会っても話をするな、君が辛い思いをするのが目に見える」
「はい」
「どうしたい?」
「え?」
「レオ・ファーノンについて」
「関わらずに過ごしたいですけど……」
「協力するよ」
「いえ、ご迷惑をおかけする事は……」
「誰に迷惑がかかる? 私は問題ないと言っているのに」
「その……私自分のことばかり考えていたんですけど……オリバス様は婚約者がいらっしゃらないのでしょうか? 伯爵家ですし、いるのなら相手の方に申し訳なくて」
「いないけど? 私に婚約者がいたらこんなこと言わないよ。誰かに言われたのか?」
「オリバス様はとても人気があるので、婚約者様がいても隠しているのではないかと……噂で」
ウィルベルト様は、婚約者を隠したりはしないだろうし、けれど特定の誰かと仲良くしている姿が想像できない。
「いない。安心していい。それに君にも婚約者はいない。問題はない」
「でも私は婚約破棄するような我儘な人間ですよ、私といるとオリバス様の評判に関わります」
「君が婚約していた事はごく一部の人間しか知らない。知っていても皆君に同情的だ。自分の価値を下げるな、前を見ろ」
「……はい」




