謹慎一ヶ月
~レオ視点~
謹慎中に父が来た。
「ここにサインしろ!」
なんの書類だ? と思い書類を手に取り見た。
「なっ……! 嘘だろ?!」
それはセイラとの婚約破棄の書類だった。
「嘘な訳あるか! 私は子爵夫妻に合わせる顔がない。お前が忙しい理由は勉強を頑張っているんだとずっと信じていた。セイラちゃんが入学してもお前からの手紙がこなかったから、調査機関を通して調べた。なんでこんな事になっているんだ! 何度も手紙で忠告をしただろう」
「手紙?」
そういえば父から分厚い書類のようなものが届いて……
「これか……」
封がされたままの封筒。
「この婚約破棄は明らかにお前に非がある! 慰謝料は払うが、将来的にはお前が負担しろ! いいか? セイラちゃんにはこれから一切近づくな。これ以上うちの恥を晒すな」
ここまで怒る父さんは初めて見た。
「セイラはなんて言っているんですか? 俺との婚約を……セイラが嫌がっている?」
「セイラちゃんの気持ちは知らん。あの子は優しい子だからずっと我慢してきたんだろう。婚約は家と家との決まり事! お前の気持ちもセイラちゃんの気持ちも関係ない! 分かったな? セイラちゃんに近づく事は許さない」
セイラが俺を見捨てた? あのセイラが? 呆然と婚約破棄の書類を見つめた。
「お前はここにサインをするしかない。早く書け! 私は今から王都にあるルフォール家へ行き謝罪をする。この書類はユベール殿へ託すとする」
ユベール兄さんに渡されたらセイラとの関係は終わってしまう。
「……嫌です。俺はセイラと結婚します」
「お前の気持ちは関係ない。と言った、サインをしろ」
無理やりペンを持たされ、サインをさせられた。書類は筆圧でぐちゃぐちゃになっていた……
「諦めろ。お前は取り敢えず学園を卒業だけしろ。もし何か問題を起こせば卒業する事なく家へ帰す、いいな?」
返事が出来なかった。セイラと話がしたい。謹慎一ヶ月ここから出る事は叶わない。
セイラに手紙を出したが、封がされたまま返ってきた。ユベール兄さんの差し金だろう。セイラの手元には渡っていない。
何度も手紙を出したが読まれることはなく返却された。手紙が読まれないと言うのは辛いもんだと思った。
自分は散々同じ事をしてきたのに……
今出来ることは出された課題をこなすしかなかった。
一人になって考えた。
セイラは何を言っていたか……
友人達の忠告……
教師からの忠告……
母親からの手紙……
セイラの顔を思い出すと笑った顔しか思い出せない。領地で過ごした時の素直で可愛いセイラ。王都に来てから俺に笑顔を見せる事はなかった。
セイラちゃんが可哀想だろう! 友人の言葉。全くその通りだ。笑顔を曇らせた原因は俺だ。
課題を出せ。生活態度を改めろ。勉強をしろ。ユベール兄さんの影がチラついて苦手な教師……俺はユベール兄さんが好きで尊敬していた。ユベール兄さんに後ろめたい事があるからあの教師を遠ざけた。言っていることは至極真っ当なのに。
体に気をつけて。学園はどう? セイラちゃんは何しているの?!
返事を頂戴心配です。
ご飯食べているの?
長期休暇はセイラちゃんと帰ってきて。元気な姿が見たいの。
心配はしなくていい、元気だから。その一言で終わらせた。父さんが言うには母さんは今回の事が一因で疲労で倒れたと聞いた。
俺のせいだ。合わせる顔がないと思うが、ちゃんと謝罪をしなければならない。
この忠告を素直に聞いていたら、違った結果になっていたのだろう。今更かもしれないが、謹慎が明けたら学業に専念すると決めた。
謹慎中に出た大量の課題。サボっていた分はじめは苦労の連続だったが、やっていて解けるようになったら面白いと思い、課題に夢中になった。
課題を届けてくれる友人達はこの惨めな姿に、はじめは嫌悪の姿勢が見られたが、夢中で課題をする姿を驚かれ、労いの言葉をくれるようになっていた。
課題を取りに来た友人に声をかけた。
「いつも悪いな、お前達にも迷惑をかけて申し訳なかった」
「いや、それは気にするな、お前最近頑張っているな」
「これしかすることがないからな……あのさセイラは学園に来ているか?」
「たまに見かけるよ」
「元気か?」
「はじめは元気がなさそうだったが、セイラちゃんのそんな姿を見ると男達が放っておかない。相も変わらず告白された……と言う話は聞く」
「そうか、婚約者がいただなんて誰も知らないもんな」
「そうだな……こんな事を言っていいか分からないが、ウィルベルト・オリバスがおまえが謹慎になった日にセイラちゃんを抱きかかえて送っていったみたいだ。セイラちゃんが倒れそうになった時に、たまたまウィルベルト・オリバスが居合わせたらしい。俺たちはおまえとセイラちゃんのことを知っているから、セイラちゃんがなんでそうなったかは分かるが、他の生徒は知らないだろ? だから噂が立っている。あのウィルベルト・オリバスを射止めたって」