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すれ違い


 最近セイラの話をよく聞くが、あくまで噂で聞く程度。寮で仲良くしていたやつらはあれからセイラの話は一切してこない。


 またセイラが手紙を渡されただの、今月は何人目だとか言う話だ。隙があるって言ったのに! 


 食堂でランチを取ろうと友人と食堂へ行ったら、セイラがいた。キョロキョロと空席を探しているところに上級生が声を掛けた。



「ここ空いているよ」


 と声を掛けていた。断っているようだが、強引に座らせていた。


 なんか馴れ馴れしい男だな……



「レオ、気になるのなら助けてやりなよ」


「セイラが断れば済むはずだ、隙があるんだろ、向こうには友達もいるし大丈夫だ」


 助けを求められたらすぐに行く体勢は取っておくが……距離が近すぎだろ。流石にセイラの友達がやんわりと離れるようにと促していた。



 ほっとしてランチを食べ、目を離した隙にセイラ達の姿は既になかった。




******



「はぁはぁ……」


 少し急足で歩いただけなのに、疲れてしまった。領地ではいつも走り回っていたのに。


 ガサガサと葉の擦れる音をさせながらいつものガゼボへと向かった。



「ウィルベルト様」


「どうした? 呼吸が乱れている」


「急いで、来たから」

 ふぅと呼吸を落ち着かせる為に深呼吸した。



「どうしたんだ? 様子が違う」



 逃げてきた。と言っても良いのかな。


「えっと、少し面倒だったので」


 言葉を濁して笑ったら、何かを感じ取ってくれたみたい。



「そう言うこともある、その為の場所だよ」


「あっ、そうだ。本ありがとうございました、とても面白くて二回も読んでしまいました。返すのが遅くなってしまってすみません」



 すっと本を渡したら、ウィルベルト様は手に取り本から飛び出ている紐に気が付いた。何も言わずに手に取り確かめるウィルベルト様。



「しおり?」


 まじまじとしおりを見ていた。



「はい、ラベンダーは虫が嫌がる香りだから、本に虫がつかないようにと思って、作りました」


 貴重な本を借りた対価には見合わないかもしれない。



「セイラ嬢はすごいな、ありがたく使わせてもらうよ」


「はい。いつもありがとうございます」


「まだ貸したい本があるけれど、お返しは要らないよ。負担になるだろう?」






「手作りのものをウィルベルト様にお渡しするのは、もうやめますね。知らない子からのものなんて、嫌ですよね」



 伯爵家の子息だからなんでも手に入るだろうし、手作りの物は失礼なのかもしれない。ここ(王都)ではお金を出せばなんでも買えるってレオも言っていたのに、失念していた。


「え? どうしてそうなるんだよ……こう言う手作りの物は思いが込められているし、嬉しいと言ったのに」



ここ(王都)ではお金を出したらなんでも買えるって。作る時間が勿体ないって、一度言われて……」




「バカだな、そいつ」


「え?」



「この前のクッキーも美味かったし、このしおりも好みだよ。金を出しては買えない物だ。金を出せばなんでも買えるけど、作った人の思いまでは買えない。このしおりは少しでも私の事を考えて作ってくれたんだろう?」


「……はい」



「それなら対価としては大きすぎると思わないか?」


「手作りだから材料費は……」


「ラベンダーを育てているんだろ?」


「はい」


「育つのにどれだけ手がかかる? 何ヶ月の歳月で育った? そう言うところも含めて思いがあると言うんだ」



「……ウィルベルト様」



「そんな目で見るな! 誤解するだろうが!」



 どんな顔をしているんだろう、鏡を出して見てみた。泣きそうな目をしていた。でも嬉しかった。手作りを否定されるのではなく、思いを受け取ってもらえたから。



「……なんで鏡が出てくるんだよ」




「教室に戻ったら髪に葉っぱが付いてると言われて、取ってもらって。それから鏡で確認するようにしています」



「それ、男か?」 


「いえ、女の子です」


「それなら良い……」



 無言になったけど今日は風が心地よくて森林浴に来た感覚だった。領地の森に似ている。




「君には婚約者、いないのか?」

 小さな声だった。聞こえないふりも出来た。



「……いますよ」


「……そうか」


「はい、学園に居るんです。でも関わるなと拒否をされたので、私達の関係は知らない人の方が多いです」



「そいつは変なやつだな」



「私の存在がバレると堂々と遊べないそうで、学生のうちは目を瞑れと言われて。でもね卒業したら私と結婚するしかないって。将来は決まっているんだと言われて、ショックを受けました」



「そいつのことが好きなのか?」



 首をぶんぶんと振った。



「今は分かりません。この前初めて喧嘩して気持ちをぶつけました。それ以降話はしていませんし、学園であっても街であっても、いつも女の子といます。だけど関わらないようにしています。問題さえ起こさなければ良いって思って」



「バカだな、そいつも君も」



「はい。だからもうここには来ません。婚約者がいるのに、男性と二人でいては不誠実ですものね。ありがとうございました、さようならウィルベルト様」


「おい! ちょっと」



 ガサガサと植木の間を抜けて図書館の見えるところまで脱出しました。






「ウィルベルト様には……聞かれたくなかったのに」


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