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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

猟奇殺人犯は闇に潜む

去年のハロウィンで、子供が殺された。 @短編105


お菓子か悪戯か!

妙ちきりんな韻を踏まえた台詞を唱えながら、子供達は練り歩く。

「知ってるか?去年、ミランダがこの辺りで消えたんだ」

「そうだったね。で、次の日死体で見つかったんだ」



去年のハロウィンの事だ。

9歳のミランダは殺されただけでは済まず、人として最悪な穢され方でこの世を去った。

猟奇殺人にしたって、此所まで残酷な殺され方は過去類を見ない。

どれだけの恐怖と苦痛、そして悲しみが彼女に、それも一度に押し寄せたのだろう。

小さな少女が抗うすべなどあるはずもなく。

せめて、その恐ろしい悪夢が短い時間で済んでいますようにと思うばかりだった。



セアラは高校2年、地区の子供達を引率する役だ。

この事件以降、子供だけでは居させないようにと地区の大人達の努力で、不審者情報公開などで一応の成果が見られるものの、今だミランダ殺害犯人は見つかっていない。


もう真夜中、いつもなら無理矢理寝かしつけられる子供も遅くまで起きている所為か妙にハイテンションだ。


「ねえ、セアラねーちゃん。あそこのうちは、行って良いの?」


ひとりの子供が指差すのは小さな一戸建て。

その家の回りは真っ暗で街灯さえ無いが、家には誰かいるのだろう、灯が見える


「そうねぇ」


たしか、2~3ヶ月前に、誰かが入居したと聞いたが、セアラも住人を見た事がない。


「ここはやめて、そっちのジェ-ムスさんちに行こう」

「はーい!」


セアラが引率するのは9人の小さな子供達だ。どのルートを通るかは、町内会で決めていて、そこに沿って歩いている。

彼女は9人の人数に気を配っていたのだが、ジェームス氏の家でお菓子を貰い道路に出ようとした所で、


「あれ?モーリーがいないよ?」


一緒にいた筈のマイクが友達がいない事に気がついた。


「えっ?」


子供を指で数える。1、2、3・・・8人!!う、うそっ!!


セアラは真っ青になった。


「ど、どこに消えたの!」


ジェームス氏の家の敷地に入るまでは、セアラも覚えている。

マイクと一緒だった。

今、マイクはサリーとお菓子を取り替えっこしている。


「モーリーに気付いた子、いる?」


セアラは動揺を隠し、子供達に聞く。すると一人の子が、


「えーと、そうだ!おしっこしたくなったって、そっちに走ったよ」

「そう!あんたたちはジェームスさんとこに戻って!モーリーを迎えに行ってくるわ」


そう言うとセアラは駆け出した。


そんなに遠くには行っていないはずだ。5分と時間は過ぎていない。

でも、犯人が車だったら?

ううん!ここいらは町内会の人達が不審者や不審自動車のチェックに気を配っている。

狭い町内だもの、知らない車なんか、すぐに見つかるわ。

不審者情報も携帯に必ず入るけど、今回は何もなかった。

だから、見つかる。

すぐに見つかるわ!


この辺りにいる筈の、モーリーに呼びかけるように、セアラは大声を出した。


「モーリー!もう、皆が待ってるわよ!早くしなさい!」


もしかしたら『大きな方』かも知れない。

小さな子は、突然もよおしてしまう事があるものだ。

隠れて済ませる事ができる所と言えば、さっきのあの一軒家・・・


どきん。


その一軒家から、誰か人影が出て来た。

そして、小さな人影もあった。


「ありがとう、おにいちゃん!」

「まったく・・人の庭先でしようとするんじゃないぞ。お前さんは犬じゃ無いんだから」


セアラはモーリーの声だと気が付いた。

そして、若い男の声。


「あ、セアラねーちゃん」

「モーリー!だめじゃないの!ひとりではぐれちゃ」

「だって、おトイレしたかったんだもん」

「じゃあジェ-ムスさんとこで借りれば良かったじゃないの」

「・・あのおじちゃん、こわいもん」

「でもじゃないの!皆、心配して待っていてくれてるのよ!」


セアラは安堵といらいらで、少しきつくなっていた。


「おいおい、そんなに怒らなくても良いじゃないか。おトイレまで我慢したんだ、えらいなぁ」


と、男はモーリーの頭を撫でる。


「おにいちゃん、ありがとうね!もう、おにいちゃんちのお庭でしたりしないから」

「ああ、たのむよ」


あらら。

この子ったら、他所様の庭でそそうをしようとしてたのか!やだぁ、もう!


「すみません、モーリーがお世話をおかけしました」


セアラはとりあえず謝った。


「しっかり皆を見なくちゃいけないな。お嬢ちゃんひとりで子供達を見てるのか?」

「お嬢ちゃんって・・・あたし、これでもハイスクール生、17歳ですからね!」

「ええ?てっきり、小学生の高学年かと」

「よく間違えられますっ!!悪うございました!」


むっか~~!!

セアラはすっかりむくれ、モーリーの手を掴むと子供達を待たせているジェームス氏の家に

引っ張っていく。


「おおい、待ってくれ!オレも付き合うよ!」

「え?」

「お前さんだけで、数人の子供、見てるんだろう?オレも付き合ってやるよ」

「結構よ」

「いいじゃないか、オレも久しぶり、童心に返って言ってみるかな?

『トリック・オア・トリート』ってな!もしかしたらお菓子のお裾分けももらえるかも知れないし」

「うん!お兄ちゃん、行こう!」


と、モーリーは男の手を握る。

薄暗い路地から街灯の付いた道路に来ると、男の風貌がハッキリ分かった。

彼は吃驚する程ハンサムで、長い金髪で、背の高い青年だった。

おちびでもモーリーも女の子だ、ハンサムな青年の手をしっかり握って離さない。


「そうだ、お兄ちゃん、名前はなんて言うの?」

「オレはトマスっていうんだ」

「トマスお兄ちゃん、皆に紹介するね!」


と、モーリーは青年の手を握って友達のところまで引っ張て行く。


「あ~あ、モーリーったら」


あの親切な青年も気の毒に。

やんちゃで元気な子供達に引っ掻き回されるに違いない。

と、セアラは少しいいじわるな考えだったが、彼は子供の扱いがとても旨かった。


「さあ、みんなでいっせーのぉ!『トリック・オ~ア・トリ~~~~トォ~~♪』」


彼のユーモラスな言い方に、子供は大喜びでまねをし、夢中になって合唱した。


「今度は何処の家に行くんだい?」

『マーヴェラスさんち!』

「よぉおし!さあ、みんなで!『ま~ぶぅえら~すさ~~ん、ま~ぶぅえら~すさ~~ん!お菓子、お菓子、ちょうだいな!トリック・オ~ア・トリ~~~~トォ~~♪トリック・オ~ア・トリ~~~~トォ~~♪』」


子供達はトマスと一緒にジェームス氏の家からぞろぞろと出ていく。


「すみませんでした、ジェームスさん」


セアラはぺこりと頭を下げた。


「いやいや、セアラくんも大変だね。帰りにうちに寄ってくれたまえ。御褒美にお菓子を用意しておくからね」


ニコニコ笑うジェームス氏に、セアラも笑顔で返事をした。


「ありがとうございます。じゃあ、また」


そして子供達の列に加わろうと、前を見た瞬間。

トマスが、こちらを見て居たのだ。なんだか少し恐い雰囲気だった。

が、本当に一瞬の事で、彼はまた子供の方に向き直ってセアラに背を向けた。


(・・・なに?今の。彼の、今の目は?)


どくん。


(もしかして、彼が・・・ミランダの、犯人?)


どくん。

セアラの心臓が、急に早く動きだした。


(でもこの人、2ヶ月前に引っ越して来た・・去年、この人は何処に居たんだろう?)


どくん、どくん、どくん・・・

セアラの心臓は、疑惑で治まらない。


(ま、守らなくちゃ。みんなを、この子達を、守らなくちゃ)


セアラはぶるっと震えた。武者震いだ。

また、彼がこちらを見ている。

もう数十メートルでマーヴェラス氏の家だ。家影が見え、セアラはホッとした。


「さあ、マーヴェラスさんちに到着!みんな、いくわよ!それーーー!!」

『わぁあ~~!』


子供達はセアラの号令で、一斉に駆け出した。


「お前さんも行って来いよ。お菓子貰ったら、オレにも分けてくれよな」


金髪の青年が笑って声を掛けて来た。

先ほどの視線が嘘のような、笑顔だ。

セアラも心を隠して、笑うつもりだった、が。

顔が、口元が、引きつった。


「あ、え、ええ・・・」


青年の愁眉がぴく、と少し跳ねる。


「さっきの男に、何か言われたのか?なんて、言ったんだ!」


大股でこちらに近寄ったと思ったら、青年はセアラの肩をぎゅっと掴んで揺さぶる。


「なんて言った!」

「い、痛いわね!何も言ってないわよ!」


帰りにお菓子をくれるとは言ったが。


「離してよ!」

「・・・いいか?あいつには、近寄るな」

「!」


玄関ドアから顔を覗かせ、モーリーが呼ぶ。


「お兄ちゃん、お菓子、くれるって!大人にもくれるって!」

「そうか、そっち行く」


彼はモーリー達に呼ばれ、セアラに背中を見せる。


「いいな?ひとりで会いに行くなよ」


背中を向けたまま、青年は念を押して一言。


楽し気な子供達と、青年は笑ってお菓子を頬張っている。

それだけを見れば、子供好きな好青年に見えた。


だがセアラにはこの見知らぬ男が、恐くてたまらない。


マーヴェラス氏の家を出て、他にも6件の家を回ってお菓子を強請った子供達の両手には、戦利品の袋が2つ。

そのどちらにもお菓子がいっぱい詰まっていた。


去年、悲しい事件が遭ったから、今年はもっと華やかにしようと町内の大人達がいろいろな計画を立てたのだ。

ちょっとしたイベントがあり、劇をしたり、ダンスをしたり。

そしてフィナーレは近所を回ってのお菓子をおねだりだ。


「さあ、もうみんな帰るわよぉ」

『はぁ~~い!』


セアラと青年に連れられ、子供達は家まで送られていく。

そして最後の子供を無事に家まで送ると。


「じゃ、お前さんを送って終了だな」


と、青年は笑った。

さっきは恐い思いをしたが、一緒に行動して思い直した。

彼は本当に良い人だ。


「えっと。あたし、用があるからここでいいわ」


と返事をして、心で『はっ』とした。

別にジェームス氏の家に行く事を、隠さなくても良いのでは?

それに、彼はトマスの家の近くだ。一緒に行けば良いではないか?

と思ったが、いくなと言われていたので言い辛い。


「そうか?もうこんなに遅いんだ。明日でも良いんじゃないのか?」


携帯の時刻を先程見た時、10時半だった。あれからもう、30分は過ぎている。

確かにトマスの言う通りだ。

お菓子を貰うだけなら、明日でも構わないのでは?

こんな夜遅くに訊ねて行っても迷惑かもしれない。


「そうだね。今から断わりの電話、かけるわ。確かに明日の方が良いもんね」


セアラは用意周到にハロウィンの連絡網として、各家庭の電話番号を登録していた。


「あ、すみません、夜分遅く。はい、もう遅いので、明日、伺います。え?はぁ。そうですね。じゃ、受け取りにいきます。はい」


『生ケーキだから、早く渡したい』と、ジェームス氏は言うのだ。

玄関先で待っているというので、さっさと受け取って帰る事にしよう。


「トマス、ジェームスさんが、ケーキくれるって言うの。生ケーキなんだって。トマスにも半分あげるね!今晩、みんな」


ここまでで、セアラの台詞は途切れた。


「ジェームス、だって?なんでだ!さっき言っただろう!あいつのところは行くなって!」


トマスの態度が急変した。

威圧的で、乱暴だ。


「いいか!絶対に行くな!しかも、こんな夜中だぞ!女ひとりで男の家に行くなんて!」


此所まで言われ、セアラもハッとした。

ジェームス氏は5年前に奥さんを亡くした。

それ以来ひとり暮らしだ。

でも小さい頃からの顔見知りだ。目の前にいる青年よりも、気心は知れている。


「け、ケーキを貰ったら帰るわよ!」

「おい!待て。オレも行く」


このとき、トマスの携帯が鳴った。

彼が通話をする隙に、セアラは駆け出した。


「おい!セアラ!・・・で、なんの用だ・・・」


でも追ってこない。緊急の内容なのか、話し続けている。

通話の相手はもしかして、彼女?

そう思ったら、なんだかムカッと来た。

ん?なに?この気持ち。


たたた、とセアラの走る靴音が、小さく夜の道にこだまする。駆けながら思う・・


・・・まあ、確かに、トマスの言う事も、もっともだわ。もう、11時だもん。

さっさとケーキを貰ったら、すぐに帰ろう。玄関で受け取らなくちゃ。部屋に入らないようにして、ね。

うん、用心に超した事は、ない。

小走りでジェームス氏の家に向かいつつ、セアラは考えた。




ピンポンピンポン。


『セアラくんかい?今、手が離せなくてね。玄関のサイドボードにケーキがあるから持って行っていいよ。鍵は開けておいたから』


インターホン越しでジェームス氏が言う。


セアラはドアノブを回し、玄関のドアを開けた。

そして、サイドボードのケーキを取ろうと手を伸ばしたとたん、腕を捕まれて部屋に連れ込まれた。


「遅かったじゃないか、セアラ。さあ、一緒に楽しもう」


そこにいるのは、いつも温厚なジェームス氏ではなく、目が爛々とした、『男』だった。

セアラは瞬時に悟った。

こいつが、ミランダを殺したと。

ああ、なんてことだ!トマスが、行くなって言ったのに!

きっとトマスは彼が危険だと、薄々勘付いていたのかもしれない。

なんたって斜前に住んでいるのだから。

そうだ、モーリーも彼を恐いと言っていた!

子供もこういう気配には敏感な子がいる。普通トイレなんて、そこに居たらその場所で借りた方が楽なのに、わざわざ外に出て用足しに行ったのだ!!

逃げようと、手を振払おうとしたら頬に激痛が走った。

男が拳でセアラを殴ったのだ。


「ぐっ」


口の端が切れ、頬を一筋血が流れた。


「おとなしくしろよ?わたしが可愛がってやるって言っているんだから」


言い終わらないうちに、男はセアラのブラウスを引き裂いた。


「っあ」


先ほど殴られた所為で、舌を噛んでしまっていて声が変だ。

助けを呼ぼうにも、声が出ない!!

そしてセアラは押し倒され、彼女の上に男が被いかぶさってきて、セアラは思わず助けを呼んだ。


「ト、トマ、ッ・・・!!!」


だが声はか細く、声にならない。

男のにやけた、そして残酷な表情が見たくなくて、セアラは固く目を瞑った。


どごっ!

変な鈍い音の後、セアラの身体が急に解放された。

体にのしかかっていた男は2メートル先に移動している。


「フリーズ。じっとしていないと、射殺する」


トマスの声だ!

男は彼に蹴り飛ばされ、床でうめいていて動けない。

セアラは恐る恐る目を開けた。

トマスは右手に銃を、左手に何か持っていた。

それはFBI捜査官の認証だった。


「ジェームス、去年の幼女殺人の件、そして婦女暴行の現行犯で逮捕する」





「そうだったんだ、トマスは捜査官だったんだ」

「ああ。3ヶ月程前から、やつを張っていてな。ようやく怪しい素振りをするようになっていたから、用心していたんだ。多分、第2の犯行をする気だなって。あれから1年経つ。そろそろ大人しくしていられなくなる時期だろうって」


ミランダも、あんな風に油断して、気を許して、殺されたんだ。

セアラは小さな少女が不憫でたまらなかった。


「本当、女の子はケーキに目がないんだからな。ミランダも同じように呼び出されたそうだから。これに懲りて、夜はさっさと帰るようにな」

「ふん、だ」


今セアラとトマスは、彼の家で話をしている。

彼の家の中は、段ボールだらけだ。

ぱぱぱーーーーっ。

外でけたたましくクラクションを慣らす音がした。


「さてと、運送業者も来た事だし。じゃあな、セアラ」


セアラの頭をわしわしと撫で、彼は部屋を出て行く。

この街での捜査は終了、次の仕事に向かうのだ。


「トマス、ありがと。じゃあね。これ、お弁当。後で食べてね」

「ああ。じゃあな」


弁当を受け取り、彼が乗り込んだと同時にトラックは発車した。


サイドミラーで車の後ろを見ると、セアラが手を小さく振っているのが見えた。


そして・・・お弁当のサンドイッチに、1枚のメモ。


『あたしとメル友になりたいなら、このアドレスまで』


いつもなら捨ててしまうメモだが、今回彼は何故か返事を送信していた。




その後セアラは大学を卒業して数年後、FBIに所属。

トマスの部下として配属されるのは26歳になる15日前。




二人の活躍は、またいつか紹介する機会があるかも?




これはむかーーし書いたお話のリメイク。人物名が二次創作のキャラでした。

昔作っていたHPがアーカイブで残っていてね〜。発掘しました。


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