LOVE ME DOが流れるカフェで、オレの話を聞いてくれ。
自由っつーのは分からん。
分からんけど俺は自由だ。そりゃはっきり言える。
分かってるんならお前は自由か?と言われりゃどー答えりゃ良いのか分からん。
他人の自由なんてもっとわからん。親友だとしても。
「ノ・ボ・ル。帰ろ」
つって俺の尻を撫でる時代錯誤のコギャルファッションに身を包んでいるのが、幼馴染のアキラだ。
昔から本名はダサいから口にするなと言われてる。
最近は何を血迷ったか「アキぴょん」と呼べと寝言を言い出しやがったが、断固拒否した。
「ケツを触るな」
「ノボルのお尻、良いカタチしてるから触りたくなるの。締まってて張りがあって気持ちいいもん。やっぱ陸上やってるから?」
「おめーも元陸上だろうが。」
「あん。好きな女の過去をバラしちゃ、ダ・メ」
「だれが好きな女か」
俺らの高校は生徒の自由を重視する校風がある。
校則は生徒たちが決め、修学旅行も文化祭体育祭も生徒のプレゼンで決める。
さすがに授業内容は自由と言うわけにはいかんが、制服も自由だ。
一応指定のと言うか、推奨の制服があるが、着てる奴はほとんどいない。
学校行事があるときに生徒会役員と数人が着てるぐらいしか見たこと無い。
俺はビートルズのTシャツにグレーのジャケットとデニムが多い。今日もそうだ。
で、アキラだが、さっきも言った通りコギャルファッションだ。
不健康に焼いた黒い肌。
どこで手に入れたか分からん女子高の制服を改造して、チェックのプリーツスカートを太ももが半分見えるぐらいに短くしてる。
元陸上部の筋肉質な足を、ルーズソックスで隠してるのが腹立つ。
髪は金髪でオデコを出してるが、頭に巻いたアクセサリーがどう見てもムエタイ選手にしか見えん。
耳にも首にも指先にも何かよく分からんアクセサリーが付いてる。重くないのか。
「帰ろ帰ろ♡」
といって腕を絡めようとするので「やめんかい」と言って振り切る。
試験前もあって今日は部活も無い。
俺たちはシューズロッカーで靴を履き替え、正門を出ようとした。
周りから「夫婦で帰宅ですか?」「お似合いだよ」「おしあわせに」やらヤジが飛んでくるので「るっせぇ」と返してやる。
アキラは「ありがとー」と手を振ってやがる。
俺は肩を怒らせて門をくぐり繁華街に向かった。
街を歩くと何人かは遠巻きに見たり、振り返ったりしてアキラを見た。
俺より背が高いうえに厚底靴(今でも売ってるのか?)を履いていて異常に目立つ。
信号待ちで止まってると、ケータイ片手のリーマンが目を見開いてアキラを見た。
俺はゴシック体で「ギラ!」と出るほど睨む。
リーマンはビルの合間を飛ぶハトを見てますよーって感じでスッとぼけた。
駅前の繁華街に着く。
軽くぶらついてから、書店の隣にあるいつものチェーン系カフェに入る。
夕方前なので客は少ない。
だがアキラを見られたくないので、奥のテーブルにバッグを置いて座った。
「ノボル、アイスオレでいい?」
「おう」
アキラが俺の向かいにゴテゴテとキーホルダーやらシールの付いたカバンと何かのキャラクターが描かれたショッピングバックを置いて、注文カウンターに向かった。
スタッフがアキラにちょいと驚いたようだが、俺は知らんぷりしてスマホでニュースチェックを始めた。
ん-。政治に興味は無いががそうも言ってられんのかなー。
選挙権はまだ無いが、どの政治家がダメかってことは分かってきた気がする。
おお。あの芸人が結婚か、良いことだ。ハッピーなニュースっていいね。
アキラが2つのアイスオレをトレーに乗せて戻ってきた。
「サンキュ」っつって片方を貰う。
「いくらだっけ?」
「おごりー」
嫌な予感がする。こういう時は必ず頼みごとをする。
「……こんどは何じゃ?」
アイスオレにストローを刺し、中の氷ごとクルクル回した。
「じつはまた預かってほしいものが……」
「またかよー」テーブルの上にぐてーっとなる。
こいつは陸上部をやめてコギャルになってから物欲が止まらんらしい。
90年代のコギャルにはまってそこら辺のアイテムをやたらかき集めるようになった。
ショッピングバックを見て気づくべきだった。
アキラめ、お母さんにまたJKグッズ見つかってオコゴト言われるのビビってんな。
またほとぼり冷めるまで預かっとけってか。
「なにが入ってんだよ?」腕を伸ばしてショッピングバックに手を伸ばす。
「ヤダ!」
アキラはバックを抱えて防御姿勢を取った。
「乙女の秘密!見ちゃダメ」
「その秘密を預けようとするバカはだれだ?」
右目をあっかんべーして返してきた。
長いつけ睫毛がわざとらしい。
ふぃ~と息をついて座席にもたれ、アイスオレを一口飲んだ。
「オマエまた後輩からせびってきたな。」
「今度はねー。へそ出しに挑戦しようと思って……」
と言ってショッピングバックをあけて説明を始めた。
秘密ちゃうんか。
なんだかよくわからない服やら化粧品やらぬいぐるみが出てきたが、厚底ブーツには驚いた。
履けるの? それ?
写ルンですなんて、もうフィルムが逝ってるダロ。
後輩(のお母さん)の在庫処分に押しつられてねーか?
「で、サイコーなのがコレ!」
じゃーん!と自分で効果音を付けて取り出したのがポケベルだった。
「おお。ポケベルだ。スゲー。実物初めて見た」
思わず興奮してしまった。
「たしか受信しかできないんだろ? どうやって使うんだコレ?」
「わかんない」
手に取って確かめる。
「使えんのかよ?」
「わかんない」
「……」
なんで貰ったんだオマエ。ポケベルをアキラに返した。
アイスオレが半分ほどになった。
カフェのBGMがビートルズ特集を流し始めたところで俺は呟いた。
「お前、部では長距離のエースだったのに、どうして部活辞めてそんな趣味に目覚めちまったんだよ」
言ってしまってから自分が地雷を踏んだらしいことに気づいた。
アキラは一気にヒートアップした。
「ノボルが部室にあんな本持ってくるからでしょ」
「あんな本てなんだよ」
「もう!前世紀JKのエッチな本!」
「俺のじゃねーって」
「んじゃアンタの部屋行ってあさるわよ」
「それはヤメレ」
「あるんでしょ!?」
「無いとは言いません」
アキラがエキサイトして前のめりになる。
「こーゆうのが良いんでしょ」
制服を引っ張って見せつける。
アキラの胸がちらりと見えた。パット入りブラまで見える。かんべんしてくれ。
「いやいや俺はJK趣味じゃない、おもしれーもん見つけたなと思って部室のみんなと笑ってただけだから」
「ウソよ。みんなが持ってきエロ本とっかえひっかえ家に持ち帰ってたの知ってるんだから!」
「ちがっ!違わないけどアレはみんでそうしようぜって事になったから」
「真っ先に賛成したの誰よ?」
「……ハイ」
「好きなんじゃない。JKが!」
「だからソレはJK文化がおもしれーから……」
ちょ。お客さん少ないとはいえ、そういった話を大きな声でされるのは……。
エキサイトしすぎてる。俺は人差し指を口の前にあてて「しーっ!」とアキラをたしなめた。
「ノボルが好きだと思ったからこんな服着てるのよ?! わかってんの?!」
「いやそうじゃなくて」
「じゃなによ? ガングロォ?! マンバァ?!」
「JKファッションは面白いのであって好きなのでは……」
「好・き・で・しょ・が!」
「……」
「スマホの画像フォルダーにやらしいの溜めてんの知ってるんだからね!!」
!!コイツ。いつの間に。どうやってロック外しやがった。
「それにいーっぱい、動画もダウンロードしたでしょ」
「!!!!」
俺はどう答えたらいいのか分からなくなって横を向いた。
アキラがさらにヒートアップした。
「ノボルが好きだからJKになったのよ!!」
俺は両手を突き出して「わかったわかった。もう言うな」と言った。
これがアキラの癪に障ったらしい。
テーブルをバン!と叩き涙をためた目を向けて言い放った。
「オレの話を聞けー!!!!」
銀河に響きそうな声で吼えた。
「お客様」
青筋が浮いた店員さんがいた。
俺は「スイマセン」と言ってドリンクを片付け、そそくさと退店した。
俺たちは駅に入り、電車を待った。
日が暮れて俺もアキラもホームもベンチも赤く染まっている。
俺は人前で性癖を暴露され、怒っていいやら恥ずかしいやらで顔が赤い。
アキラも赤い半泣き顔で俺の後ろをついてきた。
夕焼けが上手くごまかしてくれたらいいんだが。
落ち着いたのか、アキラは静かに呟いた。
「ノボルはあたしのことどう思ってるの?」
俺はどう答えるべきか迷った。
今までハッキリ言わなかった俺が悪いんだろう。
本当のことを言ってしまえば、二度と会えなくなるような気がした。
アキラが、どこかに消えてしまうんじゃないかと不安になった。
悪い奴じゃない。むしろ好きだ。
しかし、このままじゃいつまでたっても前に進めない。
今の状況を変えるために、俺の本音をぶつけるべきだと思った。
電車がホームに滑り込んでくる。
制服のスカートが風で翻った。
目線をアキラにまっすぐ向けて言った。
「俺、女装子ムリ」
初投稿です。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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