役立たずと勇者パーティーを追い出された元聖女ですが、このたび大魔王様と結婚することになりました。……いくらでも金は出すから戻ってこい?あら、腐敗した人間社会には戻りませんよ?
「おまえは今日から、勇者パーティーを追放だっ!」
――どうもみなさん、こんにちは。
私、元聖女だったものです。
え?
なんで、元聖女なのか?
それは、治癒魔法も使えない聖女はいらねぇっ! と、勇者パーティーを追い出されたからです。
……私、治癒魔法、使えますよ?
勇者パーティーの方々が傷ついた瞬間に治癒をしているのですから。
まぁでも、元々この国には嫌気がさしておりましたから。
出ていくのには、ちょうどいい機会だったのかもしれませんね。
勇者パーティーのリーダーの勇者、この国の王子ですし。
身に付けていた装備も、実用的には微妙な、きらびやかなものばかりでしたから。
まったく。
この国が人間最後の国だというのに、ここまで腐りきっているとは。
同じ人間として、情けない限りです。
……え?
人間最後の国を出て、どうやって生きていくのか、ですか?
大丈夫です、安心してください。
実は私が聖女だった頃から、私一人のときを見計らって何度も何度も求婚なさってきた魔族の方がおりますの。
なんでも昔、まだ私が勇者パーティーに所属する前に、私に救ってもらったとかで。
そのときに一目惚れしたそうです。
求婚されてすぐの頃はどうしようか、と頭を悩ませておりましたが、何度も求婚されるうちに、私も彼のことを好きになってしまいましたの。
人間社会の醜い生物ばかり見てきたものですから、彼のような、まっすぐで格好いい方はお会いしたことがなかったのです。
そういうわけで、勇者パーティーから追い出される以前から、私は彼と共に人間最後の国から抜け出すことにしていました。
そして、今。
ちょうど私たちの結婚式を終えたところです。
「ようやく結婚できたな」
「えぇ、そうですね」
もぅ、額にキスするの、やめてください。
くすぐったいじゃないですか。
「それにしても、貴方、大魔王様でしたのね。
とても驚きましたのよ?」
「ハハハッ、秘密にしてたからな。
たしか君は、勇者パーティーに属していただろう? 正体を明かしてしまうと、君が遠ざけてしまうと思ってな」
「ふふっ。どうでしょう?」
どちらにしても、私は彼と結婚できましたの。
しかも旦那様が治めてらっしゃるこの国、とても良い方ばかりで。
人間で、しかも元聖女でしたが、私たちの結婚を祝福してくれましたの。
「あぁ、そうだ。君がもともと属していた勇者パーティーなんだがな」
「あら? なにかありましたの?」
「どうも、前までは楽々と殺せていた魔物に傷をつけることすらできなくなったようだ」
「あら……」
なんとも……残念なこと、ですわね?
「それで、君を取り戻したいって言っているようだが。
本来敵であるはずの我らが魔帝国にも、もし見つけたらいくらでも金は払うから、探してほしいと言われてな」
「あらら」
「君はどうするかい? 勇者パーティーに戻りたいなら、それでも構わないが」
まぁ、そんな悲しそうな顔で言わないでくださいな。
答えなんて、決まっているでしょう?
「もちろん、戻りませんわよ。
もうあんな腐りきった社会で虐げられるのは、嫌なのです」
「そうか。なら、良かった」
安堵して笑う貴方も可愛いですわ。
「でも、本当にいいのかい?」
「いいのです。
だって、ここには私の愛する旦那様がいるんですもの」
私の幸せは、ここにあるのですから。
そして、一年後。
人間最後の国は滅びたようです。
なんでも、突然勇者パーティーが弱体化したことが原因だったようで。
……どんまい、ですね?