『ふしぎなえんぴつ』
一、
テストが かえってきた。
40点だった。
これは やばい。
お父さんに 見つかったら げんこつだ。
ぼくは あわてて、
カバンの おくに かくした。
ほうかご、やきゅうの しあいがあった。
4たい0で まけた。
ぼくは 4だすう 0あんだ だった。
こういうのを「のろわれている」というのだろうか?
しあいの 帰りに 神社に よった。
「こまったときの 神だのみ」というやつだ。
でも、神さま だって、ただでは なにもやってくれない かもしれない。
ぼくは ふんぱつして さいせんばこに 50円玉を なげこんだ。
二、
つぎの日、テストがあった。
50点だった。
ぼくは 神さまに もんくを いった。
なん百年も なん千年も 神さまだったので、ボケて しまったのだろうか?
50円玉 というのが わるかったのかも 知れない。
ねんのために こんどは 100円玉を なげこむことにした。
そのとき 声が 聞えた。
……ような 気がした。
まわりを 見たけど、だれも いない。
そらみみ だろうか?
でも、さいせんばこの 前には『大吉』という もじの はいった えんぴつが おちていた。
「ひろってくれ」と いわんばかりに。
ぼくは 考えた。
「そうだ! これは『わらしべ長者』なのだ」
まず、ぼくの ひろったもの
――えんぴつを ほしいって いう人が あらわれる。
えんぴつを あげると、おれいだといって、もっと ねだんの 高いものをくれる。
また、それを ほしいっていう 人が あらわれて、さいごに 大金もちに なるって いう お話しだ。
大金もちに なれば テストの点が わるくったって お父さんも おこらないだろう。
やっぱり、神さまは 頭がいい。
そのえんぴつには、おいなりさんや とりいの 絵が かいてあった。
はっきりいって センスがわるい。
かなり はずかしかったけど、ほかの ひとに よく見えるように 『大吉』の えんぴつを 見せびらかせて 帰った。
でも……。
だれも ほしいって いわなかった。
ぼくは 神さまと ぜっこうする ことにした。
『大吉』の えんぴつを つくえの 上に なげだして 算数の ノートを ひらく。
しゅくだいが でたのだ。
思ったとおり、さっぱり わからない。
気分てんかんに テレビを つけると お母さんが おこった。
「しゅくだいは すんだの? さきにするって やくそくでしょ」
やくそくしたのだ。
したくはなかったけど、たんじょう日に テレビゲームのソフトを かってもらう という ゆうわくに まけたのだ。
ぼくは しぶしぶ つくえの 前に もどった。
そして じぶんの 目を うたがった。
答えが 書いて あったのだ。
人の ノートに いたずら するなんて ゆるせない!
でも、心の 広い ぼくは はんにんを ついきゅう したりしなかった。
なぜって、その答えが ぜんぶ あっている ような きがしたからだ。
「終わり よければ すべてよし」
そんな ことわざも あった ではないか。
つぎの日も テスト だった。
ぜんこく とういつ テスト というやつだ。
ふでばこを あけて おどろいた。
『大吉』の えんぴつしか 入って なかったのだ。
けしごむも なかった。
まちがったら どうしよう。
しんがおれたら どうしよう。
でも、そんな しんぱいは いらなかった。
えんぴつは テストの 答えを 書きはじめたのだ。
ぼくの 手から はなれて かってに……。
三、
テストが かえってきた。
100点だった。
算数も
理科も
社会も
国語も
ぜんぶ 100点だった。
ぼくは あっというまに ゆうめいになった。
四、
お父さんも お母さんも このごろ きげんがいい。
ボーナスでも たんじょう日 でもないのに、テレビゲームのソフトと サッカーボールを かってくれた。
お父さんが 「あと 3年したら、ゆうめいな 私立中学のしけんを うけろ」といった。
お母さんは「国立の ふぞく中学が いい」といった。
ぼくは ふつうの中学で かまわなかったけど、
「ゆうめいな 学校を そつぎょうすると、びじんで 頭のいい およめさんが きてくれる」というので、それで 手をうつことにした。
五、
夏休みの 前の日、ぼくは 校長先生に よばれた。
テレビの『クイズ王 小学生大会』と、せかいじゅうの 子どもで 点数をきそう『算数オリンピック』に でてほしいという。
ぼくは 校長先生の まえで どんと むねをたたいた。
「りょうほうとも 1番に なってきます」
みきちゃんが「がんばってね」といってくれた。
うれしかった。
力が はいりすぎて、えんぴつの シンを おってしまうほど うれしかった。
つぎのしゅんかん ぼくは まっさおになった。
たいへんなことに 気づいたのだ。
こいつも ほかの えんぴつと おなじように、おれたり みじかくなるのだ ということに。
えんぴつは つかえば みじかくなるものだ。
ぼくだって、それぐらいは 知っている。
だけど、こいつは ふつうの えんぴつではない。
ふしぎな まほうの えんぴつなのだ。
だから、みじかくなる なんて 考えも しなかった。
けずろう なんて 思いも しなかった。
でも……。
こいつなら じぶんで 電気えんぴつけずりに 頭をつっこむだろう。
いつのまにか 足と しっぽの なくなった おいなりさんの 絵を 見ながら、ぼくは そう思った。
六、
つぎの日から、なんども なんども 神社に 行った。
ちょ金ばこが からっぽになるまで、おさいせんも ふんぱつした。
でも、神さまは 新しい えんぴつを くれなかった。
『大吉』の えんぴつも みじかくなりつづけた。
ある日、さいせんばこのまえに けしごむが おちていた。
『中吉』と 書いてあった。
わるい よかんがした。
けしごむに できるのは まちがった 答えを けすことぐらいだ。
いつも 90点か100点の みきちゃんなら やくにたつだろう。
だけど、ぼくの やくには たたない。
まちがったところを 教えてくれても 直しかたが わからないのだから。
こんなものを もらうために ちょ金ばこを からっぽにしたのではない。
ぼくは もっていた マジックで、神社の はしらに
『けち!』と らくがきをした。
こうかいなんか しなかった。
つぎの日 までは。
七、
つぎの朝 ぼくは ねぼうした。
ごはんを たべる 時間も、顔を あらっている 時間もない。
いきをきらせて 教室に はいると、みんなが わらった。
ぼくの おでこに らくがきがして あったのだ。
『けち!』と。
せっけんで あらっても きえない。
ぼくは あせった。
学校を ぬけだして 神社へ 走る。
その もじに 見おぼえがあったのだ。
きのう ひろった けしごむで はしらの らくがきをこすると、びっくりするほど かんたんに きえた。
おでこの らくがきも いっしょに きえた。
神さまは じぶんが けちじゃないと いいたいらしい。
やっぱり、ふしぎな けしごむ だったのだ。
だからといって、こんなもので ごまかされたりする ぼくではない。
キックいっぱつ!
さいせんばこに やつあたりだ。
ひっくりかえるなんて 思いもしなかった。
だけど、ひっくりかえった。
びっくりするほど 大きな 音をたてて。
このままだと さいせんどろぼうと まちがわれてしまう。
わかってはいたけど、ぼくの足は うごかなかった。
かぞえきれないほどの えんぴつが さいせんばこから ころがりでたのだ。
ぼくは いそいで、カバンやポケットに つめこんだ。
1本のこらず。
だめだった。
ぜんぶ だめだった。
よくみると、えんぴつの よこに 同じ ことばが 書いてあった。
『小吉』とか 『凶』とか 書いてあるのなら わかる。
いくらなんでも『はずれ』は ひどい。
ぼくは 神さまと ぜっこうした。
こんどこそ ほんとうに。
八、
テレビの『クイズ王』で ゆうしょうした。
『算数オリンピック』で ゆうしょうした。
ぼくは せかい一の 小学生に なってしまった。
みんなが ぼくのことを 天さいしょうねんと よんだ。
テレビ、新聞、ざっし。いろんな人が、ぼくを おいかけまわす。
ぼくは にげまわった。
うそが ばれてしまう からだ。
でも、お父さんや 先生たちには おとなの つきあい というものが あるらしい。
ぼくは、朝早くから 夜中まで つれまわされた。
毎日、毎日。
体が だるい。
頭が ふらふらする。
もっと ゆっくり ねむって いたい。
だけど、それも できなかった。
100点を とれなくなったときの いいわけを 考えなければ ならなかったのだ。
頭が いたい。
おなかが いたい。
ほんとに いたい。
みんなが ぼくを 見る。
こえを かける。
テレビが 見れない。
テレビゲームが できない。
やきゅうが できない。
友だちと あえない。
みきちゃんと あえない。
気がつくと、ぼくは 神社の けいだいに 立っていた。
雨がふっていた。
もとどおりになった さいせんばこの 前まで 来ると、ポケットから えんぴつを とりだす。
それは もう『大吉』の えんぴつとは いえなかった。
おいなりさん どころか 『大吉』の 『吉』のじさえ ちびて なくなって いたのだ。
いつまで そうして いただろう。
ぼくは 雨にぬれて つめたくなった 手を ゆっくりと ひらいた。
えんぴつは ゆびの間を すりぬけ、さいせんばこの中に きえた。
九、
テストが かえってきた。
20点だった。
みんなが おどろいた。
お父さんは おこった。
お母さんは ぼくの おでこに 手を あてた。
十、
やきゅうの しあいが あった。
みきちゃんが きてくれた。
ぼくは、がんばって ヒットをうった。
……でも、エラーもした。
ふたつもした。
くやしかった。
なきたいぐらい くやしかった。
だけど、みきちゃんは ほめてくれた。
エラーのことは いわなかった。
ぼくは やくそくした。
「もっと もっと れんしゅうして、うまくなる」
みきちゃんが にっこり ほほえんで、手を つないでくれた。
100点をとった ときより うれしかった。
なん百ばいも
なん千ばいも。
なん万ばいも!
最後まで、お読みいただき、ありがとうございます。
ヘタなのに練習しない息子たちに向けて書いたのが『サッカーの神様』。
小学4年生でした。
3年生の時にファイルに入れて渡したのが、今回の『ふしぎなえんぴつ』です。
高校時代に初めて描いたマンガを、もとにしています。
主人公は女の子。マンガということもあり、もっと派手な事件が起きます。
『花とゆめ』の編集長(『LaLa』に移動)の目にとまり、(99号で紹介)
のちに、大きなチャンスをいただきました。
「なんだ、自慢話か。そもそも、目をかけてもらえるような作品だったのか?」
おっしゃる通りです。まさに運以外の何物でもない。
自身のいい加減さが際立つため、公開に踏み切れなかったエッセイ『編集長』。
後日、投稿させていただく予定です。
その魅力的な編集者像を、少しでも、お伝え出来ぬものか、と。