第95話、莫大な財宝を前にして
莫大なお宝を手に入れて起こる問題といえば、分配。
誰がどれくらいもらうのか。人より多く欲しいと望むのは人の性ゆえ、この手の問題がすんなりいかないことが多い。
家督とか遺産争いは絶えず、話し合っても遺恨を残すことも大いにある。財産絡みで犯罪とか、いつの世、どこの世界でも変わらないだろうな。
金は人を変えるという。
いや、変わるのではなく、本性が露わになる、というべきか。
これだけの金が、まさに山のようにあれば独り占めしようとか、邪な考えを持つ者もいるかもしれない。
俺はというと、さすがに全部自分のものにしようとは思わなかった。貧乏人の感覚なのか、ぶっちゃけ、こんな大量の金があっても使い切れないだろうし、そんなものを懐に収めてもなぁ……。
「普通に人数分で、均等に分けるのじゃダメ?」
「いや、君やベルさんの貢献を考えると少なすぎるんじゃないか?」
ヴィックは真顔だった。俺たちがいなかったら邪神塔は攻略できなかった、とは彼が先ほど述べた言葉だ。
俺らが少なくすれば、必然的にクーカペンテの戦士たちの量が増えるからいいことだろうに、変に真面目なんだなぁヴィックは。
均等分配でも、一生働かずに済む分はあるから、そんなにガッツリもらってもな、というのもある。
「じゃあ、俺らで3、君らは7で」
「……」
ヴィックが何とも形容しようがない目を向けてくる。おや、不満かい?
「半分持っていっても、こちらは文句はなかった。むしろ6、4でも」
いいのか?とヴィックは首を傾げた。
「ヴィック、あんたは国を取り戻すという大義がある。そのためには軍資金はいくらあっても困ることはないと思う。……それに」
俺は、黄金を大事そうに抱えている兵士を見やる。
「今回の財宝を退職金代わりに、自由に生きたそうな奴もいるんじゃないか?」
故郷を取り戻すために集まった戦士団だが、邪神塔の攻略に何人もの同志が命を落とした。もう戦いや危険はウンザリしている者もいるんじゃないかね……?
「そういう者もいるかもしれないが……それはこちらの話で、ジンが心配することじゃないよ」
そこは個々の考えだよな。
ヴィックは続けた。
「正直言うと、この財宝をどう持ち運ぶか、という問題もある」
「……確かに」
持ち歩くってレベルじゃないもんなこれは。塔のあった場所に積み上がっている金の山。ここに倉庫立てて、警備もしなきゃってのが普通だろう。その作業だけでもどれだけ時間がかかることか。
「ストレージに放り込めば、そういうのも解決か」
俺は思ったことを口にしたが、ヴィックは「それが問題なんだ」と言った。要領を得なかった俺に、ベルさんが助け船を出した。
「そうなると、オレとお前で、このお宝を全部持っていくことになるだろ? もし、そこでオレたちがトンズラしたら、こいつらが大損するだろう?」
「あー、なるほど」
そりゃ問題だ。預けた金を持ち逃げされるリスクということだ。俺は、そんなことするつもりはないが、人がどう判断するかなんてわからない。少しでも疑いがあれば、それだけで人間関係も崩れる。
かといって、俺もずっとヴィックらクーカペンテ戦士団と一緒に行動するわけじゃないしなぁ。
故郷を取り戻そうと行動する彼らを立派だとは思うが、だからと言って戦争に巻き込まれるのはどうなのか。そのあたり、じっくり考えないといけない。気分で軽々しくは決めてはいけない。
「解決策は、クーカペンテ人は、自分たちの保管場所を早々に用意して、そこにストレージや異空間収納、ポータルを駆使して運び込むことだな。さっさと分配しちまえばいい」
ベルさんが意見を出した。疑心暗鬼が生じる前に、終わらせるのが一番だ。さらば面倒。
というわけで、どこかいい保管場所はあるかい? とヴィックに聞いてみれば、彼は考え込む。
「うーん、カスティーゴは廃墟とはいえ、あそこはおれたちにとってホームではないしな。いずれはクーカペンテに戻るわけだが……」
「待てよ。それ、保管場所を作っても、場所によって保管場所に戻って引き出したりするのに、時間がかかるってことになるか」
「そうなるな。ジンのようにポータルが使えれば話は別だが……」
それ俺が、ついてないといけないやつだな。名案だと思ったが、利便性はないなぁ。
「……いっそ、君たちが、異空間収納の魔法とか覚えたほうが早くないかな」
そうすれば、財宝を持ち運べて必要な時に、すぐに引き出せるわけだし。……というか、閃いた。
ストレージを作った要領で、収納容量大のアイテムボックスを作ればいいじゃないか!
ナマモノを保存するわけじゃないから、俺のストレージみたく時間経過については気にしなくていい。
「よし、作ろう。君たち用のアイテムボックス」
答えは案外簡単だった。
俺の案に、ヴィックは驚き、ベルさんは同意した。
・ ・ ・
アイテムボックスの作成。
まあ、アイテムボックスの呼称は仮のもので、実際は異空間収納の魔法を適当な箱や鞄に施して、定着させる。
出入り口をそれらの入れ物に繋げることで、異空間収納を持ち歩けるというやつだ。
「いやはや……本当に君は何でもできるんだな」
ヴィックが感心も露わに言う。
「何でもはできないぞ」
当たり前だが。
俺はストレージを漁り、邪神塔ダンジョンで回収した宝箱を適当に引っ張り出す。そこそこ大きいから、人が何とか出入りできるサイズだ。
単に容量がでかい倉庫を異空間に作るだけだから、奥のほうに入れたら出し入れは少々大変だろうが、先の保管場所云々よりは持ち運べる分、便利だろう。
異空間を想像。広さは……東京ドームくらいでどうだろうか。イメージしやすさ優先で設定する。あんまり広すぎても、出入り口がわからなくなって迷子になる可能性もあるからね。
俺が異空間収納の魔法を使っていると、ユーゴやガストンらクーカペンテの戦士たちがその様子を見ていた。
一応、俺やヴィックらの話を聞いていたらしいティシアが、そんなギャラリーたちに、俺が戦士団のための金の保管場所を作ってくれていると説明してくれた。
すげぇ、と感嘆の声が聞こえた。
――オレたちのために、そこまでやってくれるなんて……。
――この宝で、もめなくてよかった……。
などなど、小声が聞こえ、やはりというか、金の山の分け前のことで不安に思っていたクーカペンテ人もいたんだなと実感。
「ほい、完成。じゃ、金をこの箱の中にしまっていいよ」
俺が手を上げれば、ヴィックが戦士団の面々に振り返った。
「では、総員、邪神塔攻略の報酬だ。かかれ!」
「おおっ!!」
かくて、戦士団総出で、お宝回収作業がはじまった。
第一部終了まであとわずか。
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