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第93話、ダンジョンコア


 階段の先は、別のフロア。


 正真正銘の50階、屋上。天はどんよりと曇っているが、雨や雷はなし。とても静かだった。


 中央部分に、一本の木のようなものが立っていた。


 かなりの大木のように見える。しかし葉はなく、見ようによっては黒っぽいイソギンチャクのようでもある。


 その真ん中に、妖しく光る球体があった。

 ベルさんが眉をひそめる。


「何て濃い魔力だ……。こいつは、ダンジョンコアか」

「こいつが……」


 俺は呟く。魔力眼に切り替えると、視界が一気に真っ赤に染まった。あまりに濃厚過ぎる魔力が霧のようになっている。その中でも赤く光る球体――コアは見えた。


 周囲を警戒していたユーゴが前に出た。


「んじゃ、あの丸いのを壊せば、今度こそこの塔はおしまいってことですね?」


 あたりに魔物の姿はない。


「とっとと壊しましょう――」


 ユーゴやクーカペンテ戦士が前へ進もうとした瞬間、それより早く弓使いのラーツェルが矢を放った。

 その狙いは確実にダンジョンコアを捉えたが、命中する寸前、割り込んできた何かが矢を防いだ。


「なに!?」


 どこからともなく伸びてきた枝のようなものだった。そして50階の床から、ニョキニョキと枝のような触手が生えてきて、前進しようとしていたクーカペンテの戦士たちに立ち塞がる。


「コアの防衛機能が働いたようだな」


 ベルさんが冷静にコメントした。


「あれだけ濃い魔力だからな。あれを動員すれば、まあ難攻不落の要塞みたいになるわな」

「……それって、コアを攻撃できなくなるってことか?」

「できなくはないさ。ただ無尽蔵な魔力を用いて、無限湧きの如く邪魔者が出てくるってこった。押し切れないと、こっちが返り討ちだ」


 さっきの闇の大竜で消耗してるこっちには厳しいな。ファナ・キャハもチャージは済んでいないし……あ、待てよ。


「ここ、多量かつ濃厚な魔力で溢れているんだよな……?」


 俺はストレージから魔器ファナ・キャハを出した。まだ必殺の魔法を放つことはできないが、こいつは魔力喰いだ。この外の魔力を吸収できないかな?


「魔器よ。漂う魔力を喰らえ――」


 それっぽく集中すると、俺が言うまでもなく、魔力を消耗していたらしい魔器が、大量の魔力を吸い寄せはじめた。

 いいね。これチャージも短くできそう。


「少し時間を稼いでくれ」

「おう!」


 ベルさんが前に出た。まあ、出たというか、俺とダンジョンコアの間に防壁のように構えているのだが。

 ユーゴや他の戦士たちも同様、防御陣形で、コアがちょっかいを出して来ても対応できるようにする。


 俺が魔器を使おうとしているのを、短い付き合いながら察したのだ。それなりに同じ時を過ごしてきたからね。


 願わくば、チャージが済むまで、双方大人しくしていてくれよ……っと?


「枝もどきがこっちへ伸びてきたぞ!?」

「気をつけろ!」


 ダンジョンコアも、俺が何かしようとしているのを察知したのかもしれない。……妨害してくるよな、やっぱり。


 正直、ダンジョンコアってのはよくわからないが、感情じみたものでもあるのだろうか? それとも防衛本能みたいなもので反射でやっているのか。


 前衛組が、向かってくる触手を迎え撃つ。この手のタイプは、剣や斧などの切断系武器が有利だな。ユーゴのように槍持ちには少々やりづらいかもしれない。


 間違っても触手に絡め取られたりするなよ。面倒なことになるからな。


 後衛組のラーツェル、エルティアナが矢を放つ。ただし矢もまた当てづらいが、二人は爆弾矢を使い、後方の触手をまとめて吹き飛ばしている。前衛組の負担を軽くしようとしているのだろうな。


「エルティアナ」

「はい!」


 呼んだら、俺のそばに彼女がやってきた。


「爆弾矢の残りは?」

「……二本です」

「俺が合図するまで待機。いつでも撃てるようにしておけ」

「はいっ」


 ようし、いいお返事。さて、そうこうしているうちに、ファナ・キャハの魔力が溜まってきたぞ。


「ジン!」


 ヴィックがこちらを見ていた。俺は頷く。


「いいぞ!」

「よし、全員! ジンが魔法を撃つ! 前を開けろっ!」


 指揮官のよく通る声に、前衛組はさっと左右に分かれた。道が開き、数本の触手が這うように向かってくる。はい、ご苦労さん!


「くらえぇぇっ!」


 魔器ファナ・キャハの力を解放した。赤黒い破壊の魔法が濁流となって、触手を飲み込み、ダンジョンコアへと向かった。


 圧倒的な一撃はコアとおぼしき球体はもちろん、大木を消滅させるように光の中へ消える。


 誰もが固唾を呑んで結果を見守る。ダンジョンコアは吹き飛ぶ――皆がそう思ったに違いない。


 赤黒い光が消えた時、そこには煤汚れた大木とダンジョンコアの姿があった。


「効かなかった!?」


 ヴィックの声に、戦士たちも愕然とする。大地の大竜さえ仕留めた魔法が通用しなかった。


「こいつも闇の大竜のように、魔法無効!?」

「いや、単に魔法障壁で防いだだけだ!」


 ベルさんが言った。


「ジンの魔器が即チャージできたように、ここの大量の魔力が奴にも強力な障壁を張るだけの力を与えただけだ」


 そして――


「その魔力は、いまの魔器の一撃で相殺された!」

「エルティアナ!」


 俺は合図した。爆弾矢を番えていたエルティアナが、それを放った。


 周囲の魔力を消費しまくって、一時的に無防備になったダンジョンコアに。


 直撃、そして爆発。噴き上がった煙が晴れた時、そこにはヒビの入ったコア。


「もう一発!」


 エルティアナが最後の爆弾矢を射た。再び光始めたコアに突き刺さり、そして爆発、ダンジョンコアが砕けた。


 今度こそやった! ダンジョンコアを破壊した。それはつまり、この邪神塔を攻略したことを意味する……よな?


「やったぞ!」

「おおおおおぉぉっ!」


 クーカペンテの戦士たちが歓声と雄叫びを上げる。俺はエルティアナに「よくやった」と声をかけつつ、ベルさんを見た。


 本当に終わった? 確認するように指し示した時、塔を地震が襲った。

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